第22話:赤根さんはコスプレする①

◆◆◆



 コスプレ撮影会イベントの日。

 赤根さんとは駅で待ち合わせ、バスに乗って目的地に着いた。


「うわぁ、いい感じのお寺だねぇ!」

「そうだね」


 道路から、かなり風情のある大きな建物が見えた。

 ここでコスプレ撮影会が行われていると思うと、否が応でも気分は盛り上がる。


 赤根さんも楽しみな様子で、ワクワクした顔をしてる。

 元々かなり整った顔だけど、こんな嬉しそうな顔したらそれはもう、さすがにめっちゃ可愛い。


 ──いや待て。二次元の嫁であるイチハさんの方が……。イチハさんの方が……。


 ごめんイチハさん。

 やっぱ今の赤根さんの方が可愛い。


「早く中に入ろうよ!」


 そんなワクワク顔で、俺の手首を握って引っ張るのはやめてくれ。心臓が破裂するだろが。




 お寺の境内に足を踏み入れると、テントが張られているのが目に入った。『受付』と書いた紙が貼られている。

 テントの中にいる『スタッフ』の腕章を巻いた人に声をかける。


「見学は無料です。コスプレイヤーさんの写真を撮りたい時は必ずレイヤーさんにひと声かけてくださいね」


 無料か!

 高校生のサイフに優しい、素敵なイベントだな。


 ゲストと書かれたネックストラップ式の名札を二人分受け取り、お寺の建物の方に向かった。


 境内のあちらこちらにポーズを取ったコスプレイヤーさんがいて、写真撮影をしてる。有名なアニメキャラの格好だ。

 コスプレの実物を見るのは生まれて初めてだ。

 なんだこれ、めっちゃ気分が上がるぞ。


「うわぁ楽しそうだねー!」


 赤根さんもテンション上がってる。


 境内をさらに奥に進むと、お寺の本殿が見えた。重厚で歴史を感じる建物だ。

 その建物の前で撮影をしている女性のレイヤーさんがいる。

 他の人たちよりもひときわ輝いて見える。


「「うわっ、可愛いっ!」」


 俺と赤根さんが思わず同時に声を上げた。

 あれは二人で観た異世界アニメ『転生したらゴブリンでした』通称転ゴブのメインヒロイン、戦闘姫のサーシャちゃん!


 アニメの世界から現実世界にキャラが飛び出てきた感動。現実に見るコスプレは、写真で見るのとは段違いに感動する。


「近くで見ようよガタニ君!」


 赤根さん、めっちゃ楽しそうだな。

 今では立派な転ゴブファンだ。

 陽キャの可愛い女の子がオタアニメを好きになってくれるなんて、なんか嬉しい。


「うわサーシャちゃん、近くで見たらもっと可愛いぃぃ〜! 可愛い、可愛い、可愛い!」


 赤根さん絶叫で絶賛。すっごく嬉しそう。


 確かにコスプレのクオリティが高い。ちょっと露出の多い戦闘着。スタイルがよくてセクシーだ。

 顔もメイクはしてるが、かなり美人だとわかる。

 俺たちよりちょっと年上の素敵なお姉さんて感じ。


 カメラマンも若い女性で、一眼レフのシャッターに合わせてレイヤーさんが決めポーズを作る。それがまためちゃくちゃカッコいい。


 撮影がひと段落ついたところで、レイヤーさんがこちらをチラリと見た。

 赤根さんはこのチャンスを逃すまじと声をかけた。


「すいません! スマホで写真撮ってもいいですか!?」

「はいどうぞ」


 レイヤーさんが笑顔で答え、カメラマンさんが場所を譲ってくれた。

 赤根さんはスマホを構えて、パシャパシャとシャッター音を響かせる。


 よし俺も乗っかろう!


 赤根さんの横でスマホで写真撮影をした。


「ありがとうございました!」

「いえいえ、こちらこそ撮ってくれてありがとー!」


 赤根さんのお礼の言葉に、レイヤーさんも嬉しそうに答えてくれた。


「でもホント凄いですよねー 綺麗だし可愛いし、何よりキャラの再現性がヤバヤバ! 超感動ですっ!」


 さすが陽キャな赤根さん。

 初めて会ったレイヤーさんに、俺ならこんなに親しげに話しかけるなんてできない。


「ありがとう! キミもコスするの?」

「いえいえ、私はやったことないです」

「じゃあちょっとやってみる?」

「え……? どうやって?」


 驚く赤根さんに、横からカメラマンさんが説明してくれた。


「予備の衣装が2、3あるんですよ。あなたの体型なら充分合うと思う。簡単なメイクもやってあげますよ」

「ええーっ……どうしようかなぁ……」


 赤根さんが俺を見る。

 このおねだりするような目。


 やりたいオーラを放出しすぎでしょ。


「うん、やってみてよ。俺も赤根さんのコスプレ見てみたい」

「ガタニ君がそう言うなら……」

「よし決まり! 更衣室に案内するからおいで」

「あ、でもコスプレ参加するならお金がいるんですよね?」

「だぁーいじょーぶ! ちょっとするだけだし、主催者は友達だからね」

「そうなんですか?」

「おおーいっ! この子にちょっとコスさせてあげるけど、いいよねーっ!?」


 コスプレイヤーの女性が遠くのスタッフに向かって大声で聞いた。スタッフの人は両手で頭の上に丸を作ってる。


「ほら、オッケー! 行くよ!」

「あ、はい!」


 コスプレイヤーとカメラマンのお姉さんたちに連れられて、赤根さんは行ってしまった。



 しばらく手持ち無沙汰で待っていたけど、30分ほど経った頃──


「お待たせー!」


 レイヤーさんの声が聞こえて振り返ると、そこに立っていたのは──


「い、イチハさん!」


 そう。そこには『三人姉妹に恋をした』のクールなメインヒロイン、イチハさんがいた。

 ブレザーの制服。短めのチェック柄スカート。黒髪のロングヘア。


 ちょちょちょ、ちょっと待って!

 赤根さんがイチハさんのコスプレを!?


 通った鼻筋、綺麗なあごのライン。

 決して濃いメイクじゃないのに、赤根さんの整った顔つきがクールな美人ヒロインそっくり。

 まさにアニメの世界から飛び出してきた俺の推しヒロイン。素晴らしい再現性だ。


「どう……かな?」


 あまりにクオリティが高くて美しすぎるその姿に、俺は頭がクラクラするのを感じた。

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