短編集

赤月なつき(あかつきなつき)

鳩が死んでいた

 アスファルトの上に、死体がひとつ。鳥の死骸だ。青みと灰色を混ぜたような黒とぶくぶくと太った身体。その肉から見えるぐじゃぐじゃに潰れた赤い塊が太陽に煌めいて鮮やかだった。

その場を後にした。走り出した。あの記憶を消してしまいたかった。光景が目に焼き付いて離れない。あれに背を向けてもう何ヶ月も経った。なのに忘れられない。どうしてだろう。

 夜中、家に帰ると誰かが自分の部屋に立っていた。立体的な身体から向こう側の壁の色がチラチラと見える。立っている床には影はない。だけど顔に凹凸がある。顔はあるのに影がない。これは誰だ。

「誰……?」

何も答えない。ドアの近くにあるスリッパを握りしめる。それを誰かのそばに向けて投げてみた。顔はスリッパを見た。私を認識しているのだ。

「どうしてここにいるの?」

身体は私を指差した。私が理由、と言うことだろうか。だけど心当たりなどない。

身体は私に触れようとした。

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短編集 赤月なつき(あかつきなつき) @akatsuki_4869

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