十二月の恋文

來宮 理恵

第1話 恋文—愛逢月(七月)


玄関を開けると鬱陶うっとうしいほどにせみが騒がしく


ゆらゆらと揺れるこの暑さに

眩暈を感じながらも貴方に逢いたくなります。


ゆるく長い坂を、千歳緑みどりいろの背景に包まれながら歩くと

出来たばかりのアスファルトの匂いを感じます。


ひとときも忘れずにいたかと言われたら

嘘になるでしょう。


胸の奥の

もっと、もっと奥深き隅に

置き忘れてしまえたらいいのにと

思ったこともあります。


あの日

貴方の声を聞いたのです。


それは、古びた小さい窓の外からなのか


あの消えそうで消えない街灯の下だったのか


強く吹くこの風が運んできたのか


私のココロは

まだ幼く

この心臓の痛みがわかりません。


このような私にと言うものがあるのかはわかりません。


貴方に逢いたくて

逢いたくて


息がうまく出来ないのです。


このがわたしを紺青あおいろに染めていくのです。


貴方の声を耳に貼り付けて


貴方の顔をこの瞼に焼き付けて


貴方の綺麗な手を切り落とし

私の頬に縫い付けて



貴方を離したくはないのです。


貴方という貴方を私は欲しいのです。


この灼熱あかく濁った私の

誰にも気づかれず

貴方にも悟られることなく

私の中に閉じ込め


暗く静かな漆黒の海へと沈めるでしょう。

 

叫び散らかしている私の声は

どうか

どうか貴方に届かないでいてほしい。


届くこともないこの手紙。


この、かたちにもならないココロをに知ってもらいたかった。


夜空に七つの星が散らばり

私が何処にいるのかを示してくれる。


『恋文』とよぶには、烏滸おこがましい。


このひとひら一片を


この自分勝手な気持ちを


何度もこのページに閉じ込め



また貴方の声を聞くでしょう。




                來宮 理恵

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