魔王の呪いで、人族が死んだらアイテムがドロップする世界になりました。

森品 轟

第1話:東

ウェスト大陸に人族が、イースト大陸に魔族が住んでいた。

異なる種族同士で、お互いに争いが絶えなかった。


200年前。

人族が優勢で、魔族を追い詰めていた。

ついに、イースト大陸に君臨する魔王が死んだ。

そして、人族は呪われた。

人は死んだら、アイテムを落とすようになる呪いに人族は侵される。

人々はその呪いを魔王の呪いと呼ぶようになった。


ほどなくして、人族はお互いに殺し合いを始めた。

魔族を殺しても、何も生まないが、人族を殺したら有用なアイテムが落ちる。

落とすアイテムは、人によってまちまちだ。

大抵は、ソルと呼ばれる銀色の硬貨を落とす。

場合によっては、特殊な力を持ったマ道具を落とす。

落とすアイテムの法則はわかっていないが、人一人殺せば、平均して5年は暮らせるような金額が手に入る。


殺人は日常茶飯事。

お腹を痛めて生んだ自らの赤子を殺す母親。

老いて足の動かなくなった親を殺す子供。

法による統治がまともに機能しなくなった。

魔王が死んで10年が経ち、賢王が築いた300年以上続く人族の王国があっけなく滅びた。


以降、ウェスト大陸は、力ある者が正義となった。

奪い、奪われる群雄割拠の時代に突入する。

東から魔族が攻めてくるが、魔王もいなくなり、勢力も小さくなった魔族に対して危機感を持つ者は当時いなかった。

しかし、人族同士の争いが過熱している間に、徐々に魔族が勢力を取り戻してきた。


そして、現代。

魔族は、人族から奪われたイースト大陸の土地を完全に取り戻した。

一部の者は魔族の捲土重来に危機感を覚えるが、人族同士の争いはいまだに続いていた。


ウェスト大陸のとある場所。

100人近くの集団が、東へ進んでいた。

集団の内の半数は馬に乗り、残りの者は歩きでついてくる。

「テム坊、幻影を出してくれ」

集団の先頭にいる上質な服を着た灰髪の男が、テムと呼ばれる黒目黒髪の少年に呼ぶ。

テムは、集団の中団あたりにいたので、集団の先頭まで駆け出す。

テムは、齢15才で、背丈はそれほど高くない。

端整な顔立ちでありながら、どこか幼さを残している。

男性からも女性からも好かれそうな面相をしている。


「お師匠、せめて馬に乗せてくれません?」

「ふむ、誰かテム坊に馬を渡してやれ」

「へい、ペソナ様」

テムは馬を受け取り、跨る。

「幻影」

テムはマ法を使い、馬に跨ったテムの姿を模した幻影を出す。

前方からの敵襲の不意打ちを防ぐために、集団より先に幻影を進ませる。

マ法とは、通常では起きえない超常現象を起こす力であるが、その原理はわかっていない。

人が生まれ持った時にマ法は授かり、人によって、どのようなマ法を授かるか規則性は明らかになっていない。

炎を出すのが得意な者もいれば、力を増すのが得意な者もいる。

テムは相手の認識に干渉し、幻を見せる偽装のマ法を得意としている。


「だいぶマ法がうまくなったではないか」

「ありがとうございます」

テムがお師匠と呼ぶペソナという男は、世間では氏主と呼ばれる身分にある。

魔王の呪いが世界に蔓延した結果、多くの人は強者に庇護を求めた。

自分が死んだ時に落とすアイテムを自分の子孫でなく、強者の所有物であると認める代わりに、強者から守ってもらうことを約束してもらう。

このような契りが各地で行われた結果、国というくくりは消え、強者を中心とした小さな集団に分かれていった。

いつしか、強者を氏主と呼び、その氏主を中心として集団を氏族と呼ぶようになった。

ペソナの氏族は、色々な所を渡り歩きながら、商品の売買をして収益を上げている。ペソナのような小規模の氏族では農業を行うのは難しい。土地を守るための人が十分いるような大規模な氏族でないと無理だ。


「なあ、テム坊、世界は平和にならんかね」

「呪いがあるから無理でしょう」

テムは、幻影を維持しながら、ペソナと会話する。

自分は、他の氏子と比較して目をかけられていると感じる。

師匠であるペソナと似たマ法を使うからなのか、テムは物心がついたころには既に、両親がいなかったからなのか、理由はわからない。

「オレは、世界が平和になってほしい。今の世の中、人をだましたら、殺されちまう。武力のある者しか肥えることができない。遺産相続がまともに機能する世界であれば、無能からだましとることができるのに」

「お師匠様らしいですね」

テムとしても、平和な世界を望んでいる。

口八丁手八丁、時にマ法を交えたペソナの交渉能力は高い。しかし、そんなペソナであっても相手との交渉に失敗することがあるし、そもそも交渉というステージにすら立てず、武力を振るわれることがある。

無理やり物資と命を奪われそうになったことが何度あったことか。

毎年、何かしらの理由で氏族のメンバーは死んでいっている。

一番つらかったのは、幼馴染のアイーシャという桃色髪の少女を介錯したことだ。

1年前、規模の大きい氏族から襲撃を受けた際に、アイーシャは足を骨折し、テム自身も右頬に傷をつけられた。

敵に殺されてドロップしたアイテムを奪われるぐらいなら、アイーシャを殺すようにペソナから指示を受けて、テムはアイーシャに手をかけた。

アイーシャの最期の言葉は今でも一言一句覚えている。

アイーシャは死んで硬貨のソルを何十枚かドロップした。

本来であれば、氏主に対して全てのアイテムを渡さないといけないのだが、テムはアイーシャが死んだ時に落としたソルを一枚盗んだ。

今でも、胸ポケットに入れて、お守りの代わりにしている。


「お師匠、次はどこに行くのですか?」

「東さ」

一団は、ペソナの指示のもと東に向かうのであった。

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