第4話 最初で最後の異動(まあいいかな…)
「堀ちゃん、この状況で出荷できるようにシステム室と調整して…」
月曜日、センター長が困った顔で言いました。
メーカーが出荷できないというのは死活問題ですから。
システム室に内線電話をすると…
「堀…お前が指示しろ…」
とのことでした。
昔の上司は相変わらず言葉が少ないので、こちらが気をきかして察しなくてはいけません。
つまりはシステム上を流れる一連の出荷関連プログラムを、どのタイミングでどれを流すか、動かすかを
「物流の堀」がシステム室に指示しろとのことなんです。
「それ…『物流の堀』の仕事ですかね…」
システム室との電話が終わったあとセンター長につぶやきました。
「本来はちがうだろう…。だがな緊急事態だし、
"たまたま" 堀ちゃんが物流にいるからな…」
僕はすでに切れているシステム室のサーバーを覗けるアカウントを復活してもらい、昔は見慣れていたジョブフローを2か月振りに見ました。
システム室のある埼玉の計画停電時間を教えてもらい、日ごとにどのジョブを何時に流すか、どこまで流すかを考えました。
計画停電の時間は毎日違うのです。
エクセルで一連の表にしてとりあえずセンター長に確認してもらい…、
なにも修正は入りませんがその後システム室にメールしました。
さっそく電話がきました。
「出荷処理が1日1回の日もあるぞ、昼にパーツの出荷を持ってきているのもあるぞ、いいのか…?」
「いいですよ…、それしかないです。他の誰が考えてもそれがベストです…」
「ヨシ! これでいくからな! 」
「それよりその時間に流せますか…? オート始動の設定、変更できますか…?」
「堀がそれ言うか…?」
「おまかせします。こちらはこちらでそのタイミングでプログラム流して帳票を印字してもらえれば、なんとか物は出してみせます! 」
システム室も「指示」通り動いてくれて、緊急事態はとりあえず切り抜けました。
計画停電は結果として数週間続き、その間は「指示」を出し続けました。
誰もほめてくれませんでしたが、ある日センター長がこんなことを言いました。
「堀ちゃんはきっとこのために異動してきたんだな…」
この一言だけで
「まあいいかな」って思いましたね。
そんなことで満足してしまうなんて…
我ながら「単価の安い」会社員でした。
最初で最後の異動をした2か月後のことでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます