第32話
民宿の中の一室に通された。
フローリングに、机と椅子が向かい合わせに並んでいた。
「座んな」
「はい」
「どこから指導するか……まあ、テレビの連中が来たから、そこからにしよか」
「はい」
向かい側の席に座ったレイケン先生は静かな口調で言った。
「まず、占いのキャリアを積むと、テレビから声がかかることがある。じゃが、それは絶対に断りなさい」
「えー?!なんで!?」
信じられない。ビッグチャンスを自ら台無しにするの?
「テレビに出る占い師ってのはの、占い師風のタレントや。本物じゃない」
「え」
でも、テレビだと、当たってるとか、その通りですとかいうじゃん。
「大体、探偵を雇うか事務所からの情報開示よ。本当に霊視してるわけじゃない。何より、テレビ業界に祀られた人間のその後はちゃんとした勉強もせず、当たり障りのない嘘をつき続けなきゃならない」
「そんな……」
「テレビは見せたい相手の見たいものを、ご都合主義で見せているだけ。そこに真実がどうあろうと関係ない」
「全部、ヤラセってこと?」
「そや。全部嘘。ヤラセ。所詮は見世物小屋のサーカスよそんなもんに時間取られて大事なもんを見逃したらいけんよ」
僕は出された緑茶を一口飲んだ。
「なんだか、納得いかないって顔してるな?」
「だって、有名になれるチャンスじゃないですか。有名になれば……」
と、言いかけて口ごもる。
「幸せになれる、って思うのは大間違いよ。本当はその逆。」
レイケン先生はボクの目を見て言った。それは、全てを射つくす矢のように心に刺さった。
「テレビによって持ち上げられたら、テレビによって潰される」
それって……都合のいいオモチャってことじゃん。
「本当に力のある占い師は、隠れてしまうものよ」
「隠れる?」
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