第8話 月子の日常1

深夜のコンビニアルバイトはあまり人が来ず、マイペースで作業が進められるので、私には合っていた。

この仕事は好きだけど、夜遅い時間のバイトはいつまでも続けられる訳ではない。

人間は朝に太陽を浴びて日中に活動し、夜には眠るように体ができている。

不自然な時間帯に働いていると、必ずその皺寄せがどこかに来る。

それで精神を病んで入院した人も知りあいにいる。

コンビニにはいろんなお客さんが来て、いいお客さんもいればそうでないお客さんもいる。

後者に当たってしまったときにいつまでも気にしないこと。

それはわかっている。わかっているんだけど……

「おい、ねえちゃん、タバコまだか!イライラする早くしろよ」

「免許証の提示をお願いします」

「はあ?ねぇよんなもん!早くよこせよ!」

「身分の確認が取れるものがない限り、タバコの販売は致しかねます」

「は? 死ねよ!クソババア」

学生服のお客様は怒り肩をのっしのっしと左右に揺らして店を出て行った。

怖かった。ほんまに怖かった。

「お疲れ様。斉藤さん。よく頑張ったね」

店長がねぎらいの言葉をかけてくれた。

今日はシュークリーム食べよう。

甘味を食べて元気を出そう。

「じゃあ、休んでいいよ。バックヤード行っておいで」

「はい」

休憩時間におにぎりとシュークリームと唐揚げを買い、夜食にする。

美味い。

深夜に食べるおにぎりと唐揚げは背徳感がある。

だが、それを食べても気にならないくらい、仕事はハードだ。

ただ立ってレジを打つだけではない。

深夜帯まだみんなは眠っていないらしく、バーのグループLINEは結構の数の通知が来ていた。

みんないいなあ。だけど仕事がんばらなきゃ。

いつかはきゅうちゃんとデートするための資金を貯めなきゃね。

きゅうちゃん、今……何してるんだろうか?

きゅうちゃんを検索するというテがあったが、それは気が引けた。

なんとなくカンニングしているような気がしてフェアじゃない。

通知が鳴った。きゅうちゃんはサトルさんと呑んでるらしい。

きゅうちゃん……あんなのがいいのか……

いつぞやの汚くケーキを食べるサトルさんの姿が浮かび、ほのかに嫌悪感が胸の中に宿る。

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