第4話 赤い実、はじける

なんとも言えない神々しさに目を奪われ、彼女の仕草ひとつひとつになんとも言えない慎ましさが見えた。

ビールグラスをストローで飲む際それをてにそえる姿。

お通しのピーナッツをひとつひとつ丁寧に指先でつまみ、口に運ぶ様。

誰に対しても目で会釈し、ニコッと笑う顔。

お酒のおかわりが来た時ちゃんとお礼を言う姿勢。

どれを通しても、愛くるしくて胸がポッと温かくなる。

「どうしたの?月子ちゃん。モヒートにお酒入ってた?顔赤いよ?」

と、ママさんが茶化すように言う。

「べ、別に。まあ、いいじゃない」

「ふぅ〜ん?……なるほどね」

ママさんは、スマホを取り出しあのこと何やら話している。

周りが騒々しくて聞こえない。

何を話しているのか?

ママさん、あの子を狙ってるんだろうか?

なんか、やだな。あの子と仲良くしないで欲しいな。

しばらくして、ママさんが戻ってきた。

「あの子、きゅうちゃんって言うんだけど、うちのグループLINE入ってもらったよ」

「グループLINE!?あったの?」

「最近作ったのよ。月子ちゃんも入って」

すぐさまスマホを取り出し、バーのライングループに登録した。

あの子……きゅうちゃんと話したわけじゃない。

だけどそれだけで胸がいっぱいになり、お会計を済ませて店を出てしまった。

真夏の深夜に風が吹き、袴パンツの裾、ゆるいデザインのカットソーがふわりと揺れた。

黒の安い厚底の革靴を鳴らしながら繁華街を歩く。

LINEグループにはじめましての挨拶をしてからスマホを閉じ、ポケットから取り出したエアミニのキャップを開けて一口吸った。

さくらんぼのフレーバーが口いっぱいに広がる。

「赤い実……はじけたってこのことかな」

見上げると、三日月が浮かんでいた。

それは、この夜を見守っているかのごとく微笑んでいる風にみえた。

優しい光がぼうっと私を包んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る