まだ誰も知らない

@kotonoha-tsumugi

第1話  交差点


春翔(はると)は原宿のとある喫茶店にいる。


そこは狭い路地を何度も曲がり階段を降りた地下にある店で春翔が訪れたのはしばらく振りだった。




「10年...もぅ10年も経つのか...」





一通り店内を見渡し、通り過ぎた歳月を懐かしく思い返しているとマスターがエスプレッソを運んで来た。


「ありがとうございます」春翔はマスターが自分の事を覚えているのか確かめたかったが、相変わらず寡黙なマスターは小さくお辞儀をするとカウンターの中へと戻ってしまった。




白髪混じりのマスターは歳をとり

春翔もまた29の歳になっていた。









 10年前、春翔は偶然この古い喫茶店を見つけた。


当時交際していた彼女の誕生日プレゼントを探す為バイト帰りに原宿をウロウロしていたのだが、これといってピンと来る物は無く途方に暮れていた。


すると何処からか珈琲の香りが鼻をよぎった。微かな香りを探しながら辿り着いたのがこの場所だった。


暖かい煉瓦の壁面にステンドグラスの照明が薄暗く光を放ち店内にはjazzが流れていた。



春翔はこの場所を自分だけの秘密の場所にしようと決めた。





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