M26. 開戦
どれくらいの数が襲ってきているのだろうか。二人がいる場所からは状況がわからなかったが、少なくとも一匹や二匹では無いように思われた。自警団の様子から、どうやらこちらが有利と言うわけでも無さそうだ。こちらに何匹か流れてくるかもしれないとロディーナは考え始めていた。
「ロディーナさん、こっちに来そうですか?」
「はい、…まず間違いなく」
その時、自警団の男が二人の方に向かって大声を上げた。
「クソッ!そっちに一匹行ったぞ!!」
男の言う通り、一匹のリトルホロウが自警団の間をすり抜けて凄い勢いでこちらへと近付いてくる。突破されてしまったのだ。
「ソーシさん、よく見ておいてください」
戦場には怒号が飛び交っている。しかし、臆せず落ち着いた様子のロディーナはそう言うと詠唱を始めた。
「我は
「アクア!」
ロディーナの手のひらからバスケットボール大の水球が現れた。水球はリトルホロウを目掛け、飛んでいく。突然のことにリトルホロウは避ける間もなく、直撃を受けた。たまらずそのまま倒れこむと、あっけなく消滅してしまった。
「これが水音の一色です」
「おぉ!凄いです!」
リトルホロウを倒したのも束の間、再び自警団の間を抜け、次のリトルホロウが突っ込んでくる。ロディーナは再びアクアを放つが、今度はすんでのところで避けられてしまった。リトルホロウはロディーナを無視して、真っすぐソーシの方へ向かってきた。
「ソーシさん!」
「俺が戦えないと思ってやがんな?…舐めんなよ!
…我はくべる 炎の因子
爽志の手からソフトボール大の火球が放たれる。リトルホロウは予想外の攻撃にとっさに回避しようとするが、それはかなわず空しくその身を焼かれた。
「よっし!ちゃんと出た!」
爽志は昼間に読んだ符術書の効果で、安定してフラマを放てるようになっていた。プローロで放ったフラマの威力には遠く及ばない状態ではあるが、リトルホロウならば十分に倒せる威力である。
「ソーシさん、凄いです!このまま気を抜かずにいきましょう!」
「はい!」
――――――――――
爽志とロディーナの二人が奮闘するその前方、自警団のリーダー、ディアンはイラついていた。村に向かって10匹以上のリトルホロウが次から次へと攻めてきている。
自警団で対応しているものの、何匹か討ち漏らしてしまい、あのよそ者の方へと逃がしてしまった。
「お前らしっかりしろ!音災なんかに手間取ってんじゃねぇぞ!」
「ディアン、そんなに熱くなんなよ。リトルホロウの一匹や二匹、お土産にくれてやりゃあ良いじゃねぇか」
「馬鹿野郎!お前らがそんなんだから村長がよそ者に依頼しようなんて考えるんだよ!これ以上舐められてたまるか!」
ディアンが声を荒げるのも無理はない。今まで村を襲ってきていたリトルホロウは多くても五、六匹くらいなもの。それも毎日ではなく、月に一度来るか来ないかの頻度だった。それが、いきなり十数匹ものリトルホロウが徒党を組んで襲ってきているという有様である。ディアンは焦りとイライラを募らせていた。
「ちきしょう!こいつら!どこから湧いてきやがる!」
一匹仕留めたと思えば、二匹目が現れ、それを仕留めたところに三匹目が襲い掛かってくる。しかも、気を抜けば間を抜けて村の方へと行くリトルホロウがいる。段々と自警団の気力と体力が奪われていた。
「お前ら踏ん張れ!もう少しだ!」
ディアンが自警団を鼓舞する。メンバーの奮闘のおかげでリトルホロウは残り数匹になっていた。ここを乗り切れば奴らを撃退出来る。自警団のメンバーは残った力を振り絞る。
「ギャーーー!!」
ディアンの一振りがリトルホロウを捉える。リトルホロウは断末魔の叫びを上げ、空中に霧散していった。
辺りを見回すが、リトルホロウが襲ってくる様子は無い。どうやら今のが最後の一匹だったようだ。
「はぁ…はぁ…。やったぞ…!!これで終わりだ!!!」
ディアンは大の字になって空に向かって叫ぶ。自警団の面々も座り込んでクタクタといった様子だが、ディアンの叫びを聞き、一安心というような笑みを浮かべていた。
――――――――――
「終わったみたいですね」
離れた場所から自警団の様子を見てロディーナが言った。戦闘で付いた服のホコリをパンパンと払っている。
「良かった。これでこの村も安心ですかね?」
「えぇ、…恐らく」
「…恐らく?まだ何かあるんですか?」
「いえ、そういうわけでは無いんですが…。きっと気のせいです!
ところで、ソーシさんはすっかり符術が様になっていますね。とっても頼りになりましたよ!」
「そ、そうですか?ありがとうございます。それもこれも、ロディーナさんが協力してくれたおかげですね」
「そんなことありませんよ!ソーシさんの努力の賜物です!」
「ははは、だと良いな。今度は水音を使えるように―」
―――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛―――
その時、地響きの様な音が聞こえてきた。二人は辺りを見回すが、変化は見られない。しかし、自警団の方に視線を向けると、その地響きの正体がわかった。
「あ、あれは…!ホロウノート?!」
「白黒?!なんであいつが?!」
「…わかりません。でも、このままでは自警団の人たちが危ない!…ソーシさん行けますか?」
「はい!勿論!」
二人は急いで自警団の元へと向かった。
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