M22. 自警団
それからしばらく後。二人は食事を終え、宿屋へと戻ってきた。宿屋に入るとカウンター近くのソファにラギリスとモークスが座って雑談をしていた。ラギリスは爽志とロディーナに気付くと話し掛けてきた。
「おぉ、お戻りですか!お食事はいかがでしたかな?」
「はい、おかげさまでとっても美味しくいただきました!」
ロディーナが眩しいほどの満面の笑みで言う。今なら何をしても許してくれそうだなと爽志は思った。
「それは良かった!では、お戻りになったばかりで申し訳ないのですが、早速討伐会議を始めさせて貰っても宜しいか…?」
「はい、構いません。ソーシさんも良いですか?」
「勿論良いですよ」
「お二人とも、ありがとうございます。モークス、自警団の連中を連れてきてくれるか?」
「あいよ!任されました!」
そう言うとモークスはスタスタと宿屋を出ていってしまった。
「自警団とは…?」
「ここはそれほど大きな村ではありませんが、自衛のために村の者を集めて警備のようなことをやらせておるんです。リトルホロウの問題は村の問題であるから彼らにも来て貰った方が良いかと思いましてな」
「なるほど。それは心強いですね」
「武奏器も扱えぬ者たちですが、お二人の後方支援くらいにはなるでしょう。彼らが来るまで少々お待ちいただけますかな?」
「はい、承知致しました」
(そうだ。武奏器の話)
爽志は待っている間にこの村の武奏器について聞いてみようかと考えていた。ロディーナの方を向くと、こちらと目を合わせてウンウンと頷いている。聞いてみろということらしい。せっかくなので聞いてみることにした。
「あの、村長さん。この村に武奏器ってあるんですか?」
「武奏器ですか?…いえ、残念ながら」
「そ、そうですか…」
爽志の様子を見て村長が不思議な顔をする。
「はて…?その首から下げられているのは武奏器では無いので?」
村長がネックレスを指してそう言った。思ってもみない問い掛けに虚をつかれる。
爽志は思わずネックレス触って感触を確かめるが、特に変化があるわけもなく、そこには当然のように硬質な存在感をした物質があるだけだ。
「これは…アイテムですよ」
「アイテム…ですか?」
「はい、そうです」
(…呪われてるかもしれないけど)
ややこしくなりそうなので、そのことは黙っていることにした。
「…そうですか。私にはただならぬ力を持っているように思えたのですが、武奏器では無いのですね。いやはやすっかり目が曇りましたかな」
「そ、そんなことは…」
村長は意外にも鋭いことを言ってくる。ただならぬというのは合っているので爽志は少し焦った。だが、これも黙っておくことにする。その時、宿屋の外からガヤガヤと声がしてきた。
「あ、誰か来ましたよ!自警団の人たちですかね?」
扉を開けて先ほど出ていったモークスが入ってきた。その後ろには数人の若い男たちがぞろぞろと付いてきている。
「おぉ、モークス戻ってきたか。ご苦労だったな」
「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ。お前たち、このロディーナさんとソーシさんがボーダーチューナーの方だ」
(俺は違うけどな)
爽志は心の中で呟いた。
モークスのすぐ後ろに付いていた男が爽志とロディーナを確認すると口を開いた。
「…どうも。随分若いんですね?ホントに大丈夫なんですか?」
「こら!ディアン!失礼なことを言うんじゃない!討伐の依頼を引き受けてくれたんだぞ!」
ディアンと呼ばれた男は悪びれる様子もなく話を続けた。
「だって、わざわざ頼まなくったって、これまで俺ら自警団だけで何とかやれてたじゃないですか。それをなんで今更討伐依頼なんて…」
「何を言っておる!お前たちだって奴らが来る度に傷付いて、何とかギリギリで耐えておるような状態じゃないか!このままではこの村の前にお前たちが大変な目に遭うぞ!」
「これまで大丈夫だったんだから、これからも大丈夫ですって。なぁ?みんな」
ディアンを取り巻く自警団の若者はディアンの言葉に同調するようにそうだそうだと声を上げた。
「お前たち…!」
ラギリスは今にも怒りを爆発させそうだ。ロディーナがそれをなだめるように口を開いた。
「皆さんの仰ることはわかりました。…ですが、今はこの村の危機ですよね。であるなら、今回は協力して事に当たった方がお互いにとって宜しいかと思いますが、いかがでしょうか?」
ロディーナはピシャリとその場を締めた。ディアンもそれにはわざわざ物申すことも無いと、口をつぐんだ。渋々ながら納得したようだ。
「お二人とも、お騒がせして申し訳ない。改めて紹介する。彼らが自警団の面々だ
そして、その男がリーダーのディアンと言う」
「どうも、宜しくお願い致します」
ロディーナは軽く会釈をするが、それを意に介さずディアンは話を始める。
「で、どうするんです?何か良い案でも?」
「…リトルホロウが現れる場所というのは決まっているのですか?」
「あ、あぁ、はい。連中はいつも村の東の方角から現れることがわかっております」
「東…ですか」
「はい、村の東には大きな湖があるのですが、そこで以前、リトルホロウを目撃したという住民がおりますので、ほぼ間違いないかと思います」
「わかりました。ありがとうございます。では、まず私が問題の時刻に村の東側の入口でリトルホロウを待ち構えます。奴らが現れ次第、チューニング・フォークと符術で対応致します。ソーシさんは私の少し後ろで待機、様子を見て符術で援護してください」
「わかりました!」
「自警団の皆さんは、私たちが打ち漏らしたリトルホロウを村の中に入れないように足止めしてください」
「…ちょっと待てよ。俺らにあんたたちのカバーをやれってんですか?」
イライラとした様子のディアンが口を挟んできた。気に入らないことがあったらしい。
「いえ、そんなことは言っていません―」
「だってそうでしょ?あんたたちが打ち漏らした奴らを足止め?自警団を舐めてんじゃないですか?…これまでこの村を守ってきたのはよそ者じゃなくて俺らなんだよ!」
ディアンの言葉に触発されるように自警団の不満が爆発する。やれ先頭に立たせろ、お前たちは下がっていろだのと、とても協力的な態度とは思えない言葉をぶつけてくる。
リトルホロウを相手にするよりも前に爽志たちと自警団の間で厄介な状況が生まれようとしていた。
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