M20. ボーダーチューナー
食堂に着くとモークスは食堂の主人らしき人物のところに行き、何やらごにょごにょと話し始めた。しばらくすると話がついたようで、二人のところに戻ってきた。
「じゃあ、お客人。話はついてるんで、好きなもん食べてください。俺は一旦これで失礼しますよ。宿屋も空けちまってるもんでね。食事が済んだら作戦会議と行きましょうや」
そう言うとモークスは宿屋の方へと戻って行った。先ほどの姿とは打って変わってその足取りは重荷をおろしたような軽やかさだ。気のせいかもしれないが、ステップを踏んでいたような気がしないでもない。ソーシはその後ろ姿をなんとなく見送っていたが、ロディーナが声を掛けてきた。
「ソーシさん、入りましょう!」
「あっ、はい」
爽志がロディーナの後を追うように食堂の中に入ると、先ほどモークスと話していた男が二人を案内してくれた。モークスからは話が通っているようで、好きなものをどうぞと言ってきたので有難く注文することにした。
注文した品が来るまで時間が掛かりそうだ。道中は他のことに夢中で聞けなかったが、せっかくなのでロディーナのことを聞いてみることにした。
「あの、ロディーナさん。結局、ボーダーチューナーってなんなんですか…?」
「…なんです?藪から棒に」
ロディーナは今さらどうしたんですか?という雰囲気でキョトンとした顔をする。
「いや、さっきのロディーナさんの堂々とした姿がカッコよくって、どういう職業なんだろうって気になったんです」
「か、カッコいいだなんて…、そんなことないですよ」
ロディーナは褒められなれていないのか少し顔を赤くして両手のひらでほっぺを上下にスリスリとしている。どうやら顔がニヤニヤするのを誤魔化そうとしているらしい。
「あー、コホン。でも、そうですね。しばらく一緒に旅をするわけですから、ちゃんとお話しておきましょうか」
ロディーナの表情が照れたりニヤニヤしたりキリっとしたりと忙しい。
「それで…ボーダーチューナーとは…?」
「…コホン。ボーダーチューナーとは対音災に特化した人材のことです。《カテゴリースリー》が組織した《トリアディックオース》に所属し、尚且つそこで任命された人物だけが名乗れる特別な肩書きのことですね」
ロディーナはちょっと誇らしげである。しかし、何やらまた知らない単語が出てきて爽志はちんぷんかんぷんだ。この際だから全部聞いてしまえと爽志は思った。
「…対音災って、ホロウノートみたいなやつのことですよね…?そんなに頻発するものなんですか?」
「いいえ、確かに音災被害の最たるものはホロウノートですが、それよりは音災による自然災害の方が圧倒的に多いです」
「自然災害…」
「その為、各地を調律して回るボーダーチューナーの存在は、現時点では必要不可欠なものだと言われています」
「なるほど…。じゃあ、カテゴリー…なんとかっていうのは?」
「《カテゴリースリー》…クラルステラに存在する3つの大国のことです。その3つの大国が、音災対策のために協力して組織したのが、《トリアディックオース》通称T.Oです」
(何だか一気に壮大な話になってきたぞ…)
「じゃあ、ロディーナさんは、そのT.Oってとこから来たんですか?」
「はい、そうですね。私はT.Oの所属です」
爽志にはまた疑問が沸き上がる。ロディーナがそのT.Oの所属であるなら確かにこの村の状況は放って置けるものではないだろうが、こんなところで油を売っていて良いものなのだろうか…。すると、爽志の疑問を見透かすようにロディーナが続けて答える。
「私はボーダーチューナーとしては新米なんです。新米には各地を調律して回る期間、言うなれば修業期間のようなものが1年ほど設けられているんですけど、ある程度のノルマをこなしさえすれば比較的自由な身の上なんですよ」
「へ~!ノルマがあるんだ…。じゃあ、ロディーナさんはもうノルマを達成してるってこと…?凄いですね!」
「…」
爽志の無邪気な問い掛けにロディーナは急に押し黙った。心なしか空気が重たくなった気がする。
「…ロディーナさん?」
「………せん」
何と言ったのか聴こえなかった。
「え?」
「……し…せん」
やはり何と言ったのか聴こえない。
「なんて?」
「達成してません!!!もう!何度言わせるんですか?!」
「うへぇ?!す、すいません!!」
ちゃんと聴き取ろうと耳をそばだてていた爽志はロディーナの突然の大声にビックリした。
「私はまだ調律期間の途中なんです!…だから、まだノルマを達成出来て無いのは仕方ないことなの!」
(タメ口になっちゃってる…!)
「す、すいません!失礼しました!…ちなみに、ノルマを達成するのってどれくらいの期間が掛かるものなんですか?」
「…平均で言えば約半年です」
「へ、へぇ~!じゃあ、残りの半年は各地を旅して回るんだ…。ロディーナさんは後どれくらい残ってるんですか?」
「…」
ロディーナは再び押し黙った。一段と空気が重くなった気がする。
「ロディーナさん…?」
「………げつ」
「は?」
何と言ったのか聴こえなかった。
「………カ月」
やはり何と言ったのか聴こえない。
「なんて?」
「3カ月です!!!もう!何度言わせるんですか?!」
「わー!!ごめんなさい!!」
ちゃんと聴き取ろうと耳をそばだてていた爽志はロディーナの突然の大声にまたもビックリさせられた。
「もー!あと3カ月しか無いの思い出しちゃったじゃない!!!」
(ま、またタメ口…!)
「す、すいません!つい気になっちゃって…」
「私のことはもう良いんです!…それより、今度はソーシさんのことを教えて貰えませんか?!」
「お、俺のこと…ですか?!」
突然、話の矛先が爽志へと向いた。
「そうです!私ばかり答えさせられてるのはズルいです!」
「ず、ズルいって…。わ、わかりましたよ。じゃあ何でも聞いてください!」
「言いましたね?…よーし!覚悟してください!」
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