M13. 輝くモノ
「え?」
「なにそれ?!どうしたの?!」
ロディーナとクレアの二人は驚いた顔で爽志の体を指差している。
爽志は二人が指差す方向に目を向けた。そこは爽志のズボンのポケットだ。眩しい輝きが辺りを照らしている。
「え?!なんだこれ?!」
慌ててポケットを探り、中の物を取り出した。
「こ、これって」
それは爽志のスマホだった。スマホが煌々と光り輝き、辺りを照らしている。一瞬、ライトがついたのかと思ったが、そういうレベルではない。本体そのものが光を放っているのだ。取り出したスマホは光を失うどころか、更にその光を強めていく。
「ソーシさん、一体どうなってるんですか?!」
「そうだよ!これじゃ目も開けていられないじゃないの!」
「そ、そんなこと言ったって…俺にも何が何だかわからないんだよ!」
そうは言ってもこのままにはしていられない。焦った爽志はスマホから出る光を両手を合わせるようにして覆った。その時―
―――パァアアア―――
「うわっ!」
光が暴発するように輝いた。目を閉じていても眩しい光が3人を包み込み、辺りを真っ白に変えたかと思いきや、すぐに収束していった。
しばらくの沈黙の後、3人は恐る恐る目を開けた。辺りは何もなかったかのように整然としている。店の中に乱れはなく、何かが散乱しているわけでもない。驚くばかりの爽志が口を開いた。
「な、なんだったんだ…?」
「皆さん、無事ですか?!」
「あぁ、私は大丈夫…。あなた、何とも無いの?」
「はい、大丈夫です。すみません、何が起きたのかさっぱり―」
爽志は違和感に気付いた。先ほど思わず合わせた両手にスマホが見当たらない。
慌てて手を開くとそこには、船の操縦に使う操舵輪のようなものがあった。だが、サイズはそれほど大きくなく手のひらに収まるほどだ。その中心には何故かサラの石がはめ込まれている。
「うわ!なんだこれ!お、俺のスマホは?!ネックレスも!」
ロディーナとクレアは爽志の手を覗き込んだ。
「なんでしょう…。綺麗…ですね」
「これって…チャクラム…?」
クレアが耳慣れない言葉を口にした。爽志が聞き返す。
「チャクラム?なんですか、それ」
「大昔の武器よ。昔どっかで読んで印象的だったから覚えてたんだけど…一体なんだってこんなものが」
「ソーシさん、手に持っていたものはそれだけなんですか…?」
「は、はい。光を抑え込むようにしっかり握りしめてたので、零れ落ちるようなことは無いと思うんですけど…。スマホもネックレスもしっかり持っていたはずです」
「クレアさん、これって…」
ロディーナはクレアの顔を窺いながら言った。何かに思い至ったようだ。
「あぁ、そうかもしれないね…」
「二人とも何かわかったんですか…?」
「チャクラムが現れた原因はわからないけど、そうなった原因は分かった気がするよ」
「え、それってもしかして」
「そう。ソーシくんがネックレスと機械をくっつけたから」
「そんなまさか…」
「あなたが手に持ってるそれが、何よりの証拠なんじゃないの?」
爽志は何も言えなくなった。自分がしっかり持っていたと証言したのだから、それ以上でもそれ以下でもないのだ。信じられないことだが、二つの道具は融合してしまったらしい。
「そんな…俺のスマホが」
「それを言ったらうちのネックレスもよ」
クレアは険しい表情をして言った。爽志は慌てて平謝りする。
「す、すみません!こんなことになるなんて思わなくって…!」
クレアの険しい顔がコロッと柔らかな表情に変わった。
「良いさ。どうせ売り物にはならなかったからね。…でも、そうね…」
クレアはそのまま思案するように黙り込んだ。爽志は少し不安になり、その先を促すように問い掛けた。
「…なんでしょう?」
「あなたのそのチャクラム。今後どんな影響があるか、しっかりと私にレポートしてちょうだい。返品は難しそうだし、こっちは名物を失ったんだから、それくらいお願いしたって構わないでしょ?」
この世界の通貨を持たない今の爽志にはネックレスの賠償などとてもできるものでは無い。そんな中でのクレアの提案は有難いものだったが、問題は明日にはアルファベースとへと旅立たねばならないことだ。
「あの、とっても有難い話なんですけど…」
「何?まさか断ろうっていうの?」
「い、いや、そういうわけじゃないんですけど。…実は俺、明日この村を出なきゃならないんです」
「出る?どういうこと?」
「実は―」
クレアに事の成り行きを話した。裏山の音災には驚いていたが、爽志とロディーナが協力して解決したことについては不思議と納得をしたようだった。今しがた目にしたチャクラムのことが大きいのだろう。爽志の力については少しだけ触れたが、異世界の人間かもしれないということは伏せることにした。この世界の人たちに不用意に触れ回るべきでは無いと思われたからだ。
「…なるほどね。そういう事情か…。うん、ちょうど良いわ!」
「…ちょうど良い?」
「だってそうでしょ?こんなちんけな村でウダウダ過ごしてたって、そのチャクラムに変化があるとは思えない。だったら、旅にでも出て村の外の刺激を受けた方がよっぽど良いじゃないの!」
自分が住む村をちんけと言い放つクレアには面食らったが、しかし、アルファベースに行くことに賛成している様子に爽志はホッとした。食い逃げというわけでは無いが、このままここを後にするのは心苦しかったのだ。
「ロディーナ、ありがとうね。おかげで面白いものが見れたよ。それに、この先のソーシくんの頑張り次第じゃ私の商売に役に立つことがあるかもしれない」
「い、いえ!喜んでいただけたのなら良かったです!」
ホッとした爽志は急に気が抜けてしまった。すると、何だか頭がずっしりと重くなってきたような気がする。眠いわけでは無いのだが、強烈な眠気が襲ってくるようなそんな重たさだ。
「あの、すみません。どっと疲れちゃって…どこか休めるところって無いでしょうか…?」
「大丈夫かい?もしかしたら、融合の影響かもね。音素を使い過ぎたのかもしれない」
「音素を…?」
「ロディーナ。ジュ爺のとこに連れてってやんな。あの人はお節介だから一休みくらいさせてくれるはずだよ」
どうやらジュゼィのことを言っているようだ。クレアはそう呼んでいるらしい。
「…あ!そうですね!ちょうどこの後お約束していますし、お邪魔させて貰おうと思います」
「それが良いよ。じゃあね、ソーシくん。今日のところはこれくらいにしといてあげる。ロディーナもありがとね」
「はい、すみません。また何かあったら来ます」
それから二人は礼を言って道具屋を後にした。
二人がいなくなった店内で、クレアはポツリと呟いた。
「…ついに、持ち主に巡り合えたのかもしれないね」
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