M07. 力の片鱗
「…わかったよ!!すぐ戻るから!!!」
そう言うと爽志は走り出した。後ろではリトルホロウ達の雄たけびが聴こえる。
(クソ…!振り向くな!急ぐんだ!)
「キャー!!」
ロディーナの叫び声だ。爽志は思わず振り向きそうになる。だが、ここで振り向けばロディーナの覚悟が水の泡だ。振り切るような思いで、けもの道を走り続ける。
―――ドォオオオン―――
背後から大きな爆発音が聞こえてくる。その音を聞いた爽志は何故か軽音楽部で文化祭に出たことを思い出していた。
(な、なんでこんな時に…)
爽志はモテたかった。高校三年間を軽音楽部に費やしたのもその為だ。他人にチヤホヤされたいというのも動機の一つ。不純と言えば不純な動機である。
そんな思いで3年間続けていた軽音楽部、最後の文化祭。その終演後、ある人が爽志に声を掛けてきた。年齢は60代といったところだろうか、見も知らぬ男性だ。その人が爽志に言った言葉がある。
「君の歌は元気が出るね。知らない曲だったけれど、何だか生きる力を貰った気がするよ」
その言葉を聞いた爽志はたまらなく嬉しかった。自分が誰かの役に立ったんだ。何も無いと思っていた自分には他人を元気にする力があったんだ、と。
爽志のモテたいはその時、違う意味を持った。男だろうと女だろうと、子供だろうと年寄りだろうと、人にモテたい。そして、元気があるやつにも無いやつにも自分の歌を聴かせて喜びいっぱいの笑顔にしてやるんだ。
爽志が誰かのために何かをしたい、と思った瞬間だった。
(そうだよ…。俺は誰かの喜んでる顔が見たいんだ…)
(なのに、今俺は何をしてるんだ?)
(…走っている。何故?…逃げるため。何から?)
(…リトルホロウから?…違う!…この状況から?…違う!)
(…自分自身から)
その時、爽志の頭に言葉が響いた。
―――爽志さんが私の祈りに応えてくれたということ、かと―――
「?!」
爽志はその場に立ち止まった。
フラマの爆発はリトルホロウを捕らえたが、消し去るほどではなかった。むしろその怒りの炎に油を注いだ形と言える。
「ギャー!ギャギャギャーーー!!!」
リトルホロウはその爪を一層高く振り上げる。勿論、獲物はロディーナだ。最早ロディーナは逃げることも出来ない。
(ごめんなさい…プローロ村の皆さん…。私は守れなかった…)
ロディーナは身構えるように目を閉じた。その瞬間―――
「ギャッ?!」
という声を上げ、リトルホロウが吹き飛んだ。慌てて他の仲間が駆け寄る。
「な、なに?」
目を開けると、目の前に人影がある。人影はロディーナの方を向いた。
「…良かった。大丈夫ですか?」
「ソーシさん?!どうして?!」
「…すみません。どうしても自分に嘘はつけませんでした。ここで逃げたら俺は俺を一生恨むことになる…!」
「ソーシさん…」
爽志は息を大きく吸った。
「やいやいやい!!!テメェら!!!俺のファンになってくれるかもしれない女性をよくもよくも酷い目に遭わせてくれたなぁ!!!
耳の穴かっぽじってよーく聞けよぉ?この人に手を出す奴は俺が絶対許さねぇ!!!…地獄を越えた先の先、輪廻転生踏みつけてぇええ!!テメェの因果を消し飛ばす!!!俺の目の黒いうちは、なんぴとたりとも傷つけさせねぇ!!!」
爽志の凄まじい迫力にリトルホロウたちは怯え始める。だが、その凶悪性を孕んだ心は、すぐさま敵意をむき出しにした。ロディーナを狙えないのなら爽志をと、その牙を向ける。
「ソーシさん!危ない!」
「大丈夫」
爽志はロディーナを安心させるように微笑んだ。リトルホロウ達に向き直り、爽志が話す。
「ここのルールは知らねぇが、一つ分かったことがある。それはこの俺にも音素ってやつが備わってるってことだ。…じゃあ、どうする?…やることは一つだよな?」
リトルホロウたちは構わず飛び掛かってきた。爽志は言葉を紡ぐ。
「我はくべる 炎の因子…」
「ま、まさか?!」
ロディーナが驚きの声を上げる。
「炎音! 一色ぃ!!」
「フラマァァア!!!」
巨大な火柱が現れた。飛び掛かってきたタイミングと重なり、リトルホロウたちは炎に包まれる。
「ギィヤァアアアアアア!!!」
絶叫にも似た叫び声を上げ、リトルホロウたちは燃え上がった。凄まじい炎の勢いになすすべも無い。やがて、チリも残さず姿を消した。
「へ、へへ、…俺にも出来ました」
ニカッと笑う爽志を見て、ロディーナはただただ驚くほか無かった。
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