M04. 音方 爽志

 爽志は改めて辺りを見回し、ロディーナに話し掛けた。


「あの、お姉さん。それで、ここはどこなんですかね…?」


 ロディーナは突然の質問に面食らったように慌てて答える。


「あああ、えっと、ここはプローロ村ってところの裏山で…」


「プローロ村…?聞いたことないところだ。それって日本ですよね?」


「…二ホン?いえ、ここはファース地方というところですが…」


「ファース?」


(どっちの名前も聞いたことないな…)


「えっと、そしたらですね。家に帰るにはどうしたら良いんでしょうか?タクシーとかあります?後は電車とか…」


 ロディーナは少し考えてから答えた。


「…ご、ごめんなさい。そういう言葉は聞いたことがないです。」


「そ、そうなんだ」

(スゲー田舎なのかな?きっと、この洞窟?に住んでんだもんな)


 失礼な奴である。


(まぁでも、日本語通じてるし、日本なんだよな?

スマホの位置情報でも見てみるか…)


 爽志はカバンからスマホを取り出した。


「ゲッ!なんだこれ?!」


 爽志のスマホは画面が液晶漏れを起こしたように固まっていた。電源も切れず、再起動も出来そうにない。爽志は頭を抱えた。


「はぁ?!ウッソだろ?!この前買ったばっかなんだぞ…!」


 その様子に少し怯えながらもロディーナが話し掛ける。


「あの、先ほどはありがとうございました。おかげで助かりました」


「え?あぁ、良いんですよ。気にしないでください。今はそれどころじゃなくって。

…そうだ!お姉さん、この辺に携帯ショップってあります?」


「携帯…ショップ…?」


「そうそう。この文明の利器を修理したいんですよ」


「文明の利器…。あ!道具店のことですね!それならプローロ村にありますよ」


「おぉ、ホントですか?!もし良かったら案内して貰えませんか?この辺りの土地勘が無くって」


「構いませんよ。助けていただいたのですから、それくらいお安い御用です!」


「ありがとうございます!スゲー助かります!」


「では、ご案内をする前にこの辺りの確認だけさせてください」


 ロディーナは荷物からモノクルを取り出し、周囲を覗いてみた。


「良かった。問題ないみたい」


 爽志はポカーンとした顔でそれを見ている。


(眼鏡のピント合ってないのかな…?)


「それじゃあ、行きましょうか」


「あ、はい」


 二人は洞窟を後にしようとする。 


「あ!そうだ!最後にこれだけ!」


 ロディーナは思い出したように引き返し、穴の奥の祭壇の前に立った。


「ありがとうございました。あなた様のおかげで命拾い致しました。

このご恩は、決して忘れません」


 ロディーナの真剣な祈りに、爽志も思わず頭を下げていた。


(何が起きたのかはわかんないけど、ありがとうございました)


 その時、爽志のスマホがキラリと光った。爽志は気付いていない。


「お待たせしました。では、参りましょう」


「はい、お願いします!」


 二人はこうしてプローロ村へと向かった。二人の後姿を見送る女神像は優しく微笑んでいるようだった。








 爽志とロディーナの二人は洞窟の外へと出る。先ほどまでの激しさが噓のように、辺りは平穏を取り戻していた。


「うっわ、森?」


「はい、ここを抜けるとプローロ村に着きますよ」


(村…ねぇ。とんでもない田舎っぽいな。俺はなんでこんなところにいるんだ?)


 爽志は少し不安になり、質問してみた。


「近いんですか?」


「そうですね。それほど遠くはありません。歩いて1時間ほどですね」


 それを聞いて爽志は気分が重たくなった。何せ普段は遠回りしても歩いて20分もあれば家に着くのだ。1時間も歩くことはほとんどない。


「け、結構歩くんですね」


「そうですか?…もしお疲れなら休息を取りましょうか?」


「いや、大丈夫です。ちょっと心構えが足りてませんでした…」


 爽志は心底ガッカリした様な大げさなポーズを取った。ロディーナはそれを見てクスクスと笑う。爽志は少し照れ臭くなって、話題を変えるようロディーナに話を振った。

 

「そうだ。どうせ時間が掛かるのなら、道すがらお互いの自己紹介でもしませんか?」


「自己紹介…ですか?」


「はい!こうやって出会ったのも何かの縁ですから!」


「良いですね!それでは、私から…。

私はロディーナ=サピエンティア。ボーダーチューナーとして、各地を調律して回っています。プローロ村へも調律のお仕事で立ち寄ったんですよ」


(ぼーだーちゅーなー…聞いたことないぞ。白線を引く仕事とかかな?)


 爽志は自分が出来る最高の笑顔を作ってコクコクと頷いた。理解が出来ない時はとりあえず笑っておく。


「ロディーナさんですね。宜しくお願いします!

えっと、俺は爽志。音方 爽志です。高校生やってます!」


「こうこうせい?」


 ロディーナが不思議な顔をして言った。


「はい、受験も近いんで今は勉強するのが仕事って感じです」


「まぁ、それは素晴らしいですね!」


 ロディーナはニコニコと笑っている。はたして伝わっているかはわからない。


「あの、そう言えばロディーナさん。俺って何であんなところにいたんですかね…?」


 爽志は直接的な質問をぶつけてみた。何せさっきまでは帰りの通学路にいたのだ、それがいつの間にか知らない場所を歩いている。どこにいるのかくらいは把握したかった。


「あんなところ?」


「あの洞窟です」


「…それは…私にもわかりません…ただ…」


「…ただ?」


「ただ、爽志さんが私の祈りに応えてくれたということ、・・・かと」


(意味はわからんけど、なんだかこっぱずかしい…)

「そ、そうなんですね。祈りって凄いんだなぁ~」


「はい、本当に…!」

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