第4話

武田先輩はいつも一人でした。


いえ、自ら孤立したとかじゃなくて、多分、周囲のせいで。


どうしてって!そりゃあ!あな...いや、なんでもないっす。


...え?いつからって。別に。言わなきゃだめっすか?


...自覚したのはクリスマスっす。


いや、私がそれをあなたに話すのもおかしいっすよ。


...わかりました。話しますよ。



 厚いコートを羽織った。カイロをくわえてブーツを履き、外に出た。自転車の上に薄く積もった雪を除き、かじかんだ手でハンドルを握る。寒いな。


「お疲れ様っすー!」


クリスマスというのに、今日もバイトだ。


「おう、おつかれ」


普段の数倍目つきの悪い高身長丸坊主。目元にはクマも少しあるようだ。


「あれ?先輩、彼女は?」


「研究があって今日は遊べないらしい」


「クリぼっちじゃないっすか!プププ!」


「今日もバイトお疲れ様だな」


「はっ倒しますよ」

 

「お前ら!早く仕込みを手伝え!今日はとんでもない量の予約だぞ」


「「はーい」」


白銀の世界が蒸発するような気分。コートを脱いでエプロンに着替え、鏡でチェックをした。赤い耳とニヤニヤとしたキモい顔。嬉しいだなんて思っちゃいけないんだろうな。


 今日は本当に忙しかった。掃除と片付けを終えてやっと一息、椅子に座った。もうイルミネーションは終わっているだろう。見たかったな。グルルと腹が鳴り、どっと疲れが押し寄せる。お腹が空いた。でも、一歩も動きたくない。


「疲れたな」


「本当に。もうダメかと思ったっす」


「送ってくぞ、乗るか?」


「いいんすか!?」


「早くしろよ」


「あざす!」


勘違いされやすいけど、人の気持ちが分かる優しい人なのだ。ヘルメットを被り、誰もいない町を走る。黒いバイクに二人乗り。普段は彼女がここに座っているのかな。こっそり、彼の服の裾を握った。けれど、すぐに離した。罪悪感を紛らわすように小さく歌うジングルベルは、マフラーのエンジン音に掻き消された。


「賄いあるけどいるか?」


あっという間に家まで着いて、武田先輩がゴソゴソと鞄を漁り出した。


「いいんすか!ありがとうございます!」


タッパに入ったペペロンチーノ。私が一番好きなメニュー。


「シェフに言われたんだよ。気にすんな」


店長は私がペペロンチーノが好きなことを知らない。


「ありがとうございます。先輩」


「じゃあな」


無愛想に返事を残して雪の中に消えて行った。



 

満足っすかこれで。


...それはどういう意味っすか。


意味深な言葉を残して、カフェから出ていった。何の話だったのかは分からない。ジメジメとした1ヶ月前の出来事でした。


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