第1票:ゼロのスタート!


 昨年の夏に行われた県知事選挙――。



 十八歳になり選挙権を得た僕にとって、それが初めての公職選挙となった。


 その際、自分の氏名である『兵藤ひょうどう統司とうじ』と書かれた投票所入場券を手にした瞬間の感慨深さは、今でも鮮烈に覚えている。


 そして『絶対に投票しに行くぞッ!』と意気込みながら投票日が来るのを待ち続けた。


 ただ、投票日前日の夜、想定外の事態が起きることとなる。なんと高校のクラスメイトから遊びに誘われ、投票日に予定がかぶってしまったのだ。もっと早く連絡をくれれば、期日前投票という手段も取れたのに……。


 そこで僕は仕方なく投票日の早朝に投票を済ませることにした。それなら予定の時間がかぶらず、しかも投票を終えてしまえばあとは心置きなく遊べるからだ。


 なお、投票所に長い列が出来ていると投票を終えるまでに時間がかかるだろうということで、僕は投票が開始される午前七時より少し早めに投票所へ到着できるように自宅を出発。


 結果、たまたま僕は投票所一番乗りを果たし、投票箱の中がカラであることを確認する『ゼロ票確認』を経験することになったのだった。





 ――ゼロ票確認は公職選挙法の定めによるもので、投票箱に不正な票が仕込まれていないかなどを確認する大事な手続きだ。その実施方法の詳細は選挙を実施する自治体によって異なるが、僕の投票所では投票に来た先着三人までがその役目を担うことになっている。


 そしてそのゼロ票確認を終え、投票を済ませた僕は不思議な感覚に陥ることとなる。


 民主主義の根幹である『公正な選挙』の証人になったのだという責任感と達成感、高揚感、様々な感情が僕の心を捉えて放さない。


 気付けば僕はゼロ票確認の魅力に取り憑かれていて、その任務ミッションに情熱を注ぐ『ガチ勢』となっていたのだった。



(つづく……)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る