科学部病み僕っ娘は不安を拭えない

黒崎

第1話

「ふ、フヒヒ……!」

 悪役みたいな笑い方をして、肩を揺らす。フラスコの中のよくわからない液体が、よくわからない反応を示していた。

「で、できたよ……! 僕の最高傑作だ……!」

 よくわからない液体をコップに移すと、その子は俺に向けてそれを渡そうとしてくる。

「ほ、ほら飲むんだ。これを飲めば、フヒヒ……!」

「これ、なに?」

 そう聞くと、長い黒髪のその子はフヒフヒ笑いながら答えてくれた。

「せ、精力ざ……」

「バカタレがあああ!」

「つわああああん!?」

 

 液体を撒き散らしながら、コップは教室の隅に転がっていった。


「ひ、ひどい……僕の最高傑作……」

「んなもん彼氏に飲ませようとすんな。ていうか作るな」

「だ、だってぇ……」

 オドオドとしながら、液体をぞうきんで拭う。切らずに放置した長い黒髪が、地面に触れそうでハラハラする。

「ぼ、僕のことをもっと好きになってほしくて……」

「好きだよ、十分好きだ」

「ふ、フヘヒヒヒ……」

 ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべているが、精力剤なんて勘弁してほしい。ただでさえ、こっちは理性がガタガタだっていうのに。

 ニヤニヤしているコイツ……騙流沙最仲かたるささなかは、ハッとすると、またオドオドとブツブツ言い始めた。

「で、でもねぇ……不安なものは不安でねぇ……」

「なにが不安だよ。俺はお前のことが大好きだって言ってるだろ」

「こ、行動で示してほしいものだね! 僕はこんなにも行動で示しているというのに!」

「それが精力剤飲ませようするための言い訳か?」

「ふぐ……」

 ため息を吐いて、俺はそこら辺の椅子に座る。

 膝をポンと叩いて、迎えるように手のひらを最仲に向けた。

「ほら、おいでやす」

「……フヒヒ」

 照れたように笑うと、最仲は背中を向けて俺の上に座る……かと思いきや、最仲は俺に抱きつくように、俺の方を向きながら上に乗ってきた。

 身長が高めの方に入る俺と同じくらいの背の高さなので、ちょうど顔が目の前に来る。それのせいで、心臓に悪くてたまらない。

「ちょ、おまっ……」

「ふ、フヒヒ……い、いい匂いだな……」

「お前に言われたくないな」

 そういって鼻をスンスン鳴らすと、最仲は顔を真っ赤にしながら涙目になっていた。

「ぼ、ぼぼ僕の匂いは嗅がないでいい!」

「俺は好きだよ、お前の匂い」

「……た、互沙たがさのほうがいい匂いだよ」

 そういって、俺……葉左馬互沙ばさのたがさの匂いをクンクンと嗅ぎ出した。


 最仲は科学部の部長。そして俺は部員。


 実験に付き合っていたら、最仲と付き合っていた。

 というより、元々俺も最仲も下心ありで実験をしていた。

 互いに好き同士。そんなこと知らなくて、最近になってようやく付き合えた。


「ぼ、ぼぼぼ僕のこと、好きかい?」

「……めちゃくちゃ好きだよ」


 たまに重くて、たまに変で。


 でも、それが嬉しくて。


「……せ、精力剤は飲んでくれないの?」

「……なくてもいいだろ」

 

 ギュッと抱きしめると、制服越しの豊満な胸が押し当てられる。

 ずっと俺の首元の匂いを嗅ぐ最仲に、伝わるようにと呟いた。


「……そんなのなくても、ずっと大好きだよ」

「……ぼ、僕も……」


 言葉の続きが来るかと思えば、口を塞がれる。


 ……粉のようなものを流し込まれたかと思うと、途端に瞼が重くなった。


 ぼやける視界の端に、歪んだ最仲の口元が見えた。



「……大好きだから、ずっと一緒だよ」

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