99人の帰還拒否
「赤羽。お前をゲームの世界に送ることが正式に決まった」
「……はい?」
日曜日。
急遽、予定になかった仕事が飛び込んできたため、映画館に行くという予定をキャンセルして泣く泣く出勤した直後。自分の席に上司が来て頭のおかしなことを言ってきた。
「ゲームの世界って、四葉さん何言ってるんですか? 頭でも打ちました?」
「上司の俺に対してそんな口が叩けるのはお前くらいだな。安心しろ、俺の頭は正常だ」
ふむ……四葉さんの頭が正常となると、ゲームの世界……?
もしかして──。
「──あれですか? 今話題のマジストの」
「そうだ。理解が早くて助かる」
マジカル・ストライク。
通称、マジストは世界初の没入型VRMMOゲームであり、今や世界中で知る人のいないホットな話題を提供しているタイトルでもある。
「あれって主犯が逮捕されてめでたしって話で終わったのでは?」
「ああ、少し情報が古いみたいだな。昨日行われたゲームイベントでのハッキングテロ。首謀者は逮捕されたため事件事態は収束気味だが……今問題になっているのはプレイヤーたちの方だ」
「プレイヤーたちの? ……ってどういうことですか?」
「ゲームイベントに参加した100人のプレイヤーのうち、99人が現実の世界に戻ってきておらず、そのままゲームクリアをめざして攻略を続けている」
「え? そのままって……マジですか?」
オレの上司──四葉さんが言うことには、プレイヤーたちはハッキングされた当初こそ皆不安と恐怖によってゲーム攻略を止めて『始まりの街』に閉じこもっていたが、主犯が速やかに逮捕され、主催者側から安全宣言が出されてしまったせいで逆に安心してゲーム攻略を続行できてしまっているということらしい。
こちらの要望に従って自主的にログアウトしてくれたプレイヤーは100人中たった1人のみ。
残りの99人のプレイヤーは今この瞬間もゲーム攻略を続行しているらしい。
「つまり昨日からずっとゲームにログインし続けているってことですか?」
「そうだ。現時点で連続24時間、現実世界に戻って来ていない」
「24時間……それって問題ありますよね?」
確か、長時間の精神ダイブは身体的にも精神的にも影響が大きいってどこかの大学が論文を発表していた気がする。
「ゲーム開発者の話では、一週間は安全らしい。だから24時間程度は問題ないって話だ」
「そういえば、あのゲーム筐体って医療ポットとしての機能もあるんでしたっけ?」
揺り籠──没入型VRゲームの専用筐体として開発された特殊ハードだ。その名前の通り赤ん坊をあやす揺り籠のような形状をしており、しかし大人がひとり入れる程度の大きさがある。
中は特殊な技術で精製された液体で満たされており、なんと水中で呼吸ができる。さらに排泄物を分解してくれるため、トイレに行く必要もないらしい。
寝たきりの人のお世話がしやすくなり、医療従事者からの支持も高いという。
「ああ、そうだ。だからあと6日は猶予がある状況だが、事件解決に時間をかけると世間が黙っちゃいない」
今回の事件、世間の批判は警察とゲーム内に残ったプレイヤーに向けられている。ゲーム開発側には批判よりもイベントをむちゃくちゃにされて可哀想という同情の声が大きい。
プレイヤーに対する批判は言わずもがな、こんな状況でゲーム攻略を続けていることへの批判。警察に対しては、事前にこういったハッキング行為を予測していたにも関わらずゲームシステムへの侵入を許したこと、そしてプレイヤー救出の目処が立っていないことに対する批判だ。
今回のイベント、インターネット上および現地におけるセキュリティ関係はすべて警察が一任していたのだ。
だからこそ、警察に対する批判の声は大きい。警察が名誉を挽回するためには一日でも早くプレイヤーを全員救出して事件を完全に収束させるしかない。
「現在、開発側からの強制ログアウトの機能はハッカーによって使えなくなった。また、連続8時間のログインで強制ログアウトというセーフティも弄られ機能不全に陥っている。つまり、理論上無限にゲームにログインし続けられる状況に陥っている」
「まずいですね。猶予があるもののプレイヤー側にログアウトの意思がない限り、生命保証期間を超える可能性がある」
「あぁ、プレイヤーたちが自発的にゲーム内で死んでくれればいいが、それをしたプレイヤーは1人だけ。残りはすべて攻略を続行している。強制的にシャットダウンしようとしてもプレイヤーたちにどんな障害が残るかは未知数だ。だから現状、
「なるほど…話が見えてきました」
──つまり。
「
「そういうことだ……だから赤羽」
──ゲーム内に入ってプレイヤーたちを殺害してこい!
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