ソロモンの悪魔
祐希ケイト
Ⅰ ソロモンの悪魔
皇歴九五〇年。この日、ルシフ王国領内にある一つの街がソロモンの悪魔により地図から消滅した。
逃げ惑う群衆のなか、少年フィニスは愛した故郷が燃えて朽ちていく様子を瞳に映しながら絶望する。
「なんで──なんで、家族を殺したんだよ……!」
月明かりの夜、燃え尽きた廃村。崩れゆく瓦礫のなか、年齢にしてまだ八歳と幼いフィニスは目の前で親兄弟をすべて殺された。
かつてフィニスが兄と慕っていた青年の胸には青白く光る剣が突き刺さり、剣が抜き取られる動作とともに、兄だった男の肉体はすこし浮き、そして地に叩きつけられた。
剣を抜き取った黒のロングコートを着た人物は深くフードを被りなおすと、何も言わず一歩、二歩と、フィニスに向かってゆっくりと距離を詰める。フィニスは腰が抜けるように崩れ落ち、後ずさりしながら無我夢中で叫ぶ。
「やめろ! 来るなっ、悪魔!!」
フードの人物は何か言いかけたが、すぐに口を
なんで、どうして俺たちは殺されなきゃいけなかったんだ──と、フィニスは心で思った言葉を最期に、そのまま絶命した。
フードの人物はフィニスの絶命を見届けると、間髪入れず呪文を詠唱する。
「──レイズ」
フィニスに向け放たれた魔法は辺り一面を覆うほどの光を放ち、倒れ込んだフィニスの体を包み込む。剣で刺された傷跡は残ったまま止血され、貫かれた内臓も再生を始める。
「お前は死ぬことを許されていない」
横たわる遺体。手を取り合う遺体。十字架を手に持つ遺体。
フードの人物の視界に、ただ一人を除いて生きている者は既に存在していなかった。
フードの人物はフィニスが絶命する直前の言葉を思い出す。
「……悪魔、か。そのとおりだな」
フードの人物はフィニスを
「生きろ、フィニス」
それだけ言い残すと、フードの人物は颯爽と姿をくらませた。
翌朝、晴れ渡った空。
残ったのは消えた街、そしてフィニスただ一人だった。
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