第4話 裸エプロン
大好きな幼馴染と一つ屋根の下で暮らすことになったのにセックスは禁止。
高校生男子にとっては蛇の生殺しみたいなものだ。
俺は何度も冷蔵庫に学校プリントのごとく貼られた、注意事項というか警告を読み返す。
赤で大きく書かれた文字の他に、黒く小さな文字でいくつかある注意事項に例外が書かれていないか見直すが、残念ながらそんなことはどこにも書かれていなかった。
分かっている。
この状況でセックス何てしている場合じゃないって。
だけれど、大好きな女の子と24時間一緒にいて、今まで長い付き合いでも見えなかった表情がみえたとき、はたして多くの男子高校生は我慢することができるのだろうか?
「ねえ、ねえ。キッチンと言えばエプロン持ってきたんだ。見てみて~」
俺の心配を余所にアイはさっそく、もってきたエプロンを着てくるりと回ってみせる。
アイのエプロンなら何度もみたことがある。
そう、子供の頃のままごとでも、小学生の時の調理実習でも、中学のときだって家庭科の授業でエプロンを縫った。
アイのエプロン姿なんて何度もみたことがある。
ああ、子供の頃のままごとのときお母さんから借りたエプロンはだぼだぼで背伸びしている感じが愛しかったし、小学生のときのアイの黄色い『ひよこさん』のアップリケのエプロンは可愛かったなあ。中学のときに作ったエプロンは紺色のシンプルな物だったがそれがまた清楚な感じ出よかった。
いままで見た可愛いアイの姿を思い出して俺は覚悟して振り返る。
だけれど、そこにいたアイのエプロン姿はただのエプロンじゃなかった……。
……裸エプロン??
俺は慌てて目を擦る。
男ならば誰もが夢にみるシチュエーションだけれど、これは悪夢だ。
だって、指一本触れられないような(触れたら爆発する!)状況で裸にエプロンなんてあんまりだ。
やわらかそうなミルク色の肌の上に、レースと刺繍で飾られた清楚なデザインのエプロンが直接触れている様子は、さながら高級なランジェリーを身にまとっているかのようだ。
だけれど、靴下は身に着けたまま。
完璧に俺の好みだった……。
「気に入った?」
そう言って、アイは後ろから軽くハグしてくる。「ぜったい気に入ると思ったんだ~」なんて嬉しそうにつぶやく。
「いや、すごく好みだけどっ。でも、その格好はまずいでしょ」
「えっ、気に入らなかった?」
「でも、誰かに見られたらっ」
「これくらい見られてもいいじゃん」
よくない。よくない。よくない。
まずいですよ。アイさん。
できるだけ目をそらして直接見ないようにしていたが限界だ。
「服を、服をちゃんと着てくれ!」
俺は叫ぶように言って、アイから少し距離を置く。
「……何を怒っているの?」
アイの声色からとても困惑していることが分かった。
「とにかく、話は服を着てからするから」
「なんか変だよ」
そう言いながらもアイはごそごそとエプロンを脱いだ。
「はい、じゃあどういうわけか話して?」
エプロンを脱いだアイはちょこんとその場に正座をする。
ん?
俺は目の前の光景にあぜんとする。
アイはエプロンを脱いだだけ。
そうすれば、当然目の前にいるアイは裸のはずだが違った。
彼女は薄いベージュのノースリーブワンピースを着ていた。
裸……じゃなかった……。
俺は安堵すると同時に、自分が見てしまったと勘違いした光景を思い出して困惑する。
ただのベージュのワンピースを裸と見間違えるくらい俺は○○なのだろうか?
「……ごめん」
俺はアイに自分の勘違いを説明するのは恥ずかしすぎて、謝ることしか出来なかった。
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