第2話 夏休み一日目、またの名を試験開始
「緊張してる?」
幼馴染のアイは俺の手を握る。
「ああ緊張して……る」
緊張しないわけがない。俺たちの運命を決める早期結婚制度の最終試験が今日から始まるのだから。
夏休みの初日にも関わらず、俺たちは学校の制服を着ていた。
しかも、しっかりとアイロンをかけて昨日までよりもパリッととしている。
やっと着慣れてきたきたはずの高校の制服が、自分の物じゃないみたいな感じがして居心地が悪かった。
見慣れた街並み、小学生のころは社会科見学できたことのある役所なのに妙に緊張した。
アイの手も少しだけ震えていた。
真夏なのに、しっとりと冷たい。
あまりにもか弱くて、儚い手がどこかにいってしまわないように、俺はしっかりと握り返した。
アイはこちらを見つめ返す。
二人でゆっくりと頷き合う。
そう、俺たちは大丈夫。
ここまで来るのに色んな努力をしてきた。
きっと、最終試験だって乗り越えられる。
一生をともにするパートナーになるんだ。
俺たちは心に決めて役所の中に入っていった。
***
役所の対応は想像と違ってすごく事務的だった。
該当する部署の窓口で発券機で順番待ちの番号を発行してもらう。
順番になったら、名前を言って身分証を見せる。
しばらくまったら、部屋の端の方にあるパーテーションで区切られた狭いスペースで係の人に必要書類の入った封筒を渡された。
しっかりとのり付けされた封筒はとても無機質で目の前にいる職員の人に似ている。
「必要事項はこちらにすべて書かされています。私は質問にお答えすることはできません。必要であればこちらのブースを使って資料を確認して下さい」
とだけ言って去ってしまった。
仕方なく俺たちは、渡された封筒をあけて中を見る。
中には地図と細々とした説明が書かれた冊子、そして大まかな注意事項が書かれた紙が書かれていた。
俺が冊子を真剣に読み込もうとしている横で、アイはさっと地図に書かれた目的地を検索している。
子供のころから一緒にいるおかげだろうか。
こういうときは二人で頭を付き合わせて冊子を読み込んだ方が、それっぽいのだが俺たちはどうしてもそれぞれの得意分野で役割分担をしてしまう。
「これ、普通のアパートみたい。とりあえず、いってみよう」
アイは自分のタブレットの画面を見せる。
地図をみると、聞き覚えのある俺たちの街のようだった。
俺は思わず安心してため息をついた。
前もって過去の試験について調べたとき、ひどい例だと無人島で二人きりで生き延びるなんてものもあったので、とりあえず見慣れた街で過ごすことが分かっただけでもすごく安心できたのだ。
冊子を読み終える前に、アイに手を引かれるままに俺たちは役所の建物を出て俺たちの街を歩き始める。
もう、俺の手もアイの手も震えていなかった。
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