子育てから始まるラブコメ

華川とうふ

第1話 夏休み前日

「明日から夏休みだね」


 放課後の教室、俺と幼馴染のアイは二人だけ残っていた。


 授業が終わって節電のためと、早々にエアコンが消されてた教室は蒸し暑くなる前にほとんどのクラスメイトたちは帰っていった。


 暑さから逃れようとアイが窓を開けると、昨日までの蒸し暑さが嘘のような涼しい風がふわりと舞い込み、予想外に暴走したカーテンがアイの姿を隠した。


「あー、びっくりした!」


 アイはちょっと笑いながらカーテンをはらった。

 ただ、一瞬だけ、レースのカーテンがかかったアイの姿はまるでベールを被った花嫁のように見えた。


 その姿があまりにも綺麗で、俺はいつものように一緒に笑うことができず、ただ見とれてしまった。


「綺麗だよ。まるで花嫁さんみたいだ」


 変な無言を誤解されたくないので、俺は本音を言葉にする。

 アイはそれを聞いて、変に照れ隠しをするでもなく、こちらをまっすぐ見つめて、


「子供のころも、そう言ってくれたね」


 と微笑んだ。


「俺

  と結婚してくれますか?

 私           」


 俺と幼馴染アイはもう何度も繰り返した質問を同時に発する。

 答えなんてとっくに決まっているのに。


 アイはカーテンのベールを脱いで俺の側に駆け寄ってくる。


「もちろん」


 どちらが言ったかはもう覚えていない。

 それくらい俺たちはお互いが、かけがえのない一部になっていたから。

 答えなんて子供のときから決まっていた。


 俺たちは結婚する。

 そのために子供のころからずっと努力をしてきたのだから。


 早期結婚制度、少子化が進む中で政府が新たに打ち出した政策の一つだ。


 名前のとおり、ただ結婚出来る年齢を早めるだけ。

 昔は女性も十六歳で結婚ができていたらしいのでそんなに無茶な政策ではない気がするが、導入にはものすごく反対があったらしい。

 小学生のころニュースで早期結婚制度について様々な人が議論をしていたが導入されたのはつい最近だ。


 しかし、誰でも簡単に早期結婚制度の対象になれるわけじゃない。

 一定の条件を満たし、かつ、政府が必要した試験をクリアしないといけない。


 こんな面倒な試験をクリアしても、縮まるのはたった二年。


 それくらい我慢すれば良いじゃないかと周りからは言われた。

 だけれど、俺とアイにとってはその二年も待てないのだ。


 明日から始まる夏休みを利用して俺たちは早期結婚制度のための試験を受ける。

 条件を満たすためだけでもあんなに大変だったのだから、きっと試験も難しいはずだ。

 俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。


「緊張している?」


 俺の様子をみてアイが小首を傾げる。

 アイとの結婚に心配なんかないこをを絞めそうと俺は首を振ろうとしたが……動かない。

 気づくと制服のネクタイをアイがつかんでいたから。

 アイは優しい手つきでネクタイをたぐり寄せ、そっとささやいた。


「大丈夫。私たちはずっと一緒だから」


 そう言ってアイは俺の頬にキスをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る