ギャップ

(金曜の夜、夕食後にワインを傾ける)

柊「思い出すと、懐かしいですね。……バイトしてたGSで、最初に樹さんと話した時は、随分近寄りがたいオーラの人だなあって思ってました。

 すごくキラキラと綺麗なのに、冷たくて硬い壁の向こうにいるような……。実際雲の上の人でしたけどね」

樹「まあ、あの頃はああいう僕で過ごす以外なかったからね。本当の自分が出せる場所なんて、自分の部屋で一人きりの時くらいだった」

柊「最初のおかしな面接の時に、いきなりあなたの子供っぽい笑顔やいたずらっ子みたいな考え方を知って、第一印象とのギャップに本当に驚いたし、面白かった。……なんだかその勢いで、うっかり契約結んじゃったんですよね。

 今思えば、あんな変人とよくあんな怪しい仕事の契約したよなあって自分に感心します」

樹「ははっ! そうだろうね。

 君の履歴書見て、僕も内心あちゃーと思った。こんな秀才くんでは、胡散臭い仕事なんて即辞退だろうと思ったよ。……もし引き受けたらよっぽどの変わりもんだなー、ってね」

柊「(ちょっとむくれる)すみませんね、よっぽどの変わりもんで」


樹「(くすくす笑う)……でも。

 あの時君が僕のところへ来てくれたおかげで、僕はこうして幸せを手に入れた。

 絶対に手が届かないと諦めていたものを、君が僕に掴ませてくれたんだ」


柊「……(微妙に赤面)いや、それは……どっちかといえば、俺があなたに惚れたのが先で……ごにょごにょ」

樹「(柊を力一杯抱きしめる)どっちが先なんて、どうでもいい。

 ——こうして君といられて、僕は最高に幸せだ」

柊「っっ……(赤くなり照れる)

  ……そっそれで、最初の硬くて冷たいあなたの壁は、今はどうなったんですか?」

樹「んーー? そういえば、最近自分をガードする癖はだいぶなくなったかな。

 ……その代わり、菱木さんが時々絶句したり固まったりしてるような。副社長ってそういう人だったんですか……っていう呟きもちょいちょい……」


柊「…………樹さん、それヤバいです。

 硬くて冷たい壁、少しは維持してくださいっ中身丸見えにならないようにっっ!!!」


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