第3話 Are you aliens?

「貴方が朝読んでた本ってどんな本?」


 朝読んでいた本。それは、初めていちごと出会った時に読んでいた本だろう。初対面の時、蓮は小説を読んでいた。そこから、いちごの第一印象は小説好きの少年と捉えられたに違いない。

 何を読んでいたのか気になるのは自然なことだし、それを聞くのは不自然ではないだろう。


「ああ、朝読んでいた本のことか。まあ、ちょうどいい。佐藤にぴったりな本だぞ」


 蓮は、鞄から一冊の本を取り出す。ブックカバーがされていて、なんの本までかはわからない。


 そして、蓮はブックカバーがついたままの本をいちごに手渡した。


「ありがとう。ちょっと中身読むね」


「ああ」


 そして、いちごは読み始めた。そして、十数秒後、パタンと本を閉じた。


「ふう、読み終わった」


「はあ!?いくら速読でも早すぎるだろう!」


 蓮が店の中でうるさい声を出した。これは苦情が来るに違いない。

 しかし、驚くのも無理はない。パラパラと本を流し読みしたのだ。しかも十数秒で。普通の人ならできない所業をやってのけたのだ。


「早すぎることないって、普通普通♪」


「早すぎないならここまで驚いてねーよ!」


 そろそろ蓮に苦情が来るぞ、これ。そう思わせるぐらいの大声で蓮はまたツッコミをした。


「まあ、四百ページぐらいだったし、これぐらいで読み切れるでしょ」


「ま、待て。本当に読み終えたのか?」


「む。疑うのかい、そこ。私はちゃんと中身まで吟味したのだけれども」


「そこまでいうのなら、どんな内容だったか答えられるな?」


「ええ。齋藤咲という宇宙人が地球で地球人の偵察を行うために高校生として高校に潜り込み、学園生活を過ごしつつ任務を遂行するお話でしょ。だけど自分が宇宙人であることをバレないように任務を遂行しなければならないのに何回かバレそうになったり、隣の席に座るイケメンの三上陽翔に恋をしてしまったりと波瀾万丈なラブコメストーリー。どう?」


「あ、合ってる…」


 蓮は目の前に信じがたい光景を見てしまい呆然としている。当のいちごは満足げな顔を浮かばせながら追加注文したストロベリーシェイクを飲んでいる。


「私の速読力を甘く見ないで欲しいわね。これでも私有能なのよ」


「自分のことを有能って言ってるやつ見るの初めてだよ。しかも、実際にすげぇところを見せつけられて何もツッコむところがなくて逆にムカつくんだが…」


「さて、この本の感想なのだけど」


「待て、急に感想を述べようとするな。もう少し気持ちの整理に時間をくれ」


「気持ちの整理に時間なんて要らないでしょう。これで一々驚いてその度に時間を作っていたらキリがないわ」


「俺、今後どんだけ大変な学園生活を送らなければならないんだよ」


 肩を落とす蓮。未来への絶望。この気持ちはどれだけの時間を費やしても整理はつかないだろう。


「そろそろいいかしら」


「ハイハイ、ドウゾドウゾ」


 既に返答に力がない。まあでもこれなら苦情が来ることはないでしょう。


「まず、この本だけど、実際ではあり得ないわ」


「うん、フィクションだもん」


「まず、さっきも言ったように、他の星の偵察を行う時、無人機で偵察し、リモートで監視する形で実施するの」


「うん、さらりと怖いこと言うのやめろ。もし、これが本当だったら怖いぞ」


「実際私の星で行っていたことよ」


「そうか、それは怖いな。だとしたら何故知ってる?」


「さっきも言わなかった?私は有能なの。国の軍事機密なんてお手のものよ」


「一周回ってお前の妄想ではないのか」


「だから早く私のことを宇宙人であると認めろよ」


 閑話休題。


「それに、さっきも言ったように宇宙人は他の星の生物と恋に落ちてはいけない。生態系に乱れを起こしてしまうからね。その点咲ちゃんはその重大さを理解していないわね」


「地球人の作ったフィクションなんだから仕方ないだろ」


「そうね。確かに創作物としては良い作品かもしれないわね。ただ、本物からはツッコミどころが多すぎて読めたもんじゃないわ」


 キッパリといちごは言った。それほど齋藤咲というのは宇宙人として偽物のように見えるのだろう。ただ、


「どこが、本物だって?」


「だから、、、はぁ〜」


 蓮は頑なに宇宙人と認めようとしない。ついに、いちごから溜息が漏れた。相当呆れているに違いない。


「ねえ、まず一回でいいから私が宇宙人と認めなさいよ。別に私が宇宙人であることを認めたからって悪いことは起きないでしょう」


「悪いこと大有りだわ。今後佐藤を宇宙人として接してみろ。周りの目が怖いわ」


「貴方にも周りの目が怖いという感覚はあるのね」


「お前、俺をなんだと思っている?」


「私と似たクラスメイト」


「まったく、どこが似ているのだか。さっぱり分からん」


 蓮の方こそ呆れた様子で目を細める。まあ、自分のことを宇宙人ですと言い張る変な人のことを信じる方が不自然だろう。


「そろそろ帰るぞ」


「そうね。また明日たくさんお話ししましょ♪」


「もう、勘弁してくれ」


 あと少しで膝から崩れそうになるところをギリギリで抑えつつ、蓮といちごはハンバーガー店を後にした。

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