とくべつなんていらないよ

宮野 楓

とくべつなんていらないよ


 村にでんせつがあった。

 それは村の中心にある宝石にふれて、光ったら、それは神さまの子。


「おぉお」


 五さいになったら宝石にさわる。ぼくは今日、たんじょうびの日。

 さわったら、宝石が光った。

 そんちょーさんはうれしそうにぼくの頭をなでた。でもおとーさんも、おかーさんもちっともうれしそうにない。

 なんでだろう。宝石さわったら、ぼくの好きなお魚焼いてくれるんでしょ?


「やっとだ。神はみすてられなかった。さぁ、しんでんへ」


 そんちょーさんに手を引かれて、ぼくはしんでんってところに行った。

 そこではごうかなご飯も毎日食べられて、神さまの子、神さまの子、って大事にされた。

 はじめはおいしくて、ほめられて、うれしかったんだ。でもおとーさんも、おかーさんも、いない。


「ねぇ、いつ、おとーさんとおかーさんにあえるの?」


「神さまの子だから、あのおとーさんとおかーさんはニセモノだよ。本当のおとーさんとおかーさんは、お空の上にいて、われらを見守ってくれているんだよ」


 意味が分からなかった。そんちょーさんは何で、おとーさんとおかーさんをニセモノって言うの。

 それから、ご飯はおいしくなくなった。神さまの子ってほめられてもうれしくなかった。

 おとーさんに遊んでもらって、おかーさんのご飯を食べたい。あのころがずっとしあわせだった。


 ぼくは七さいになった時に、家出した。


 おとーさんとおかーさんに会いたくて、しんでんからいっしょうけんめい走った。

 そしてようやくお家の近くについた時、おとーさんとおかーさんが歩いていた。ぼくは声を上げようとして、やめた。

 おかーさんが赤ちゃんをだっこしていて、赤ちゃんは泣いていたが、二人ともしあわせそうにわらっていた。

 ぼくはもういらない子なんだ。

 ぼくは泣きながらしんでんに帰った。もうここしかなかった。


 次の日、村が燃えた。


 ぼくはかなしくなかった。

 むしろ赤ちゃんがいなくなって、おとーさんとおかーさんをかえしてほしいと思った。

 みんな、しんでんににげてきた時、おとーさんとおかーさんに会った。ぼくは見ないふりをした。


「りく」


 神さまの子ってずっと呼ばれていたから、ぼくの名前を久しぶりにきいた。

 ふりかえれば、おとーさんとおかーさんがいた。

 ぼくはがまん出来なくて、泣いておとーさんにだきついた。だっておかーさんは赤ちゃんをだっこしているから。


「りく、りく、りく」


 なんども、なんども、名前を呼んで、おとーさんは泣きながらぼくをだっこしてくれた。

 おかーさんも泣きながら、りく、とぼくの名前を呼ぶ。

 ねぇ、赤ちゃんがいたら、ぼくはいらないんじゃないの?


「ほら、りくのおとうとよ」


 おかーさんは赤ちゃんをぼくに見せてくれる。


「おとうとがいたら、ぼくはいらないよね」


 思ったことを口にしたら、おとーさんとおかーさんは二人で目を合わせた後、ぼくの方を見た。


「ばかねぇ。りくはりくでしょ。おかーさんのだいじな子よ」


「そうだぞー。おとーさんは三人きょうだいだ。でもだれもいらない子じゃなかったよ。りくはおとーさん、いらない?」


「ううん。おとーさんもおかーさんもいる! ずっと前みたいにいっしょにくらしたかった……」


 おとーさんはぼくの頭をなでてくれた。

 やっぱりぼくはおいしいご飯が毎日食べられるより、毎日ほめられるより、ずっとおとーさんやおかーさんになでられる方がうれしい。しあわせ。


 村は燃えちゃった。

 でもぼくはおとーさんとおかーさんに会えた。

 そんちょーさんは神さまの子ってぼくを呼ぶけど、ぼくは気が付いた。


「そんちょーさん、あのね、いまは、おいのりよりかたづけしよ。そして家をもどそうよ」


 神さまの子のいのりがひつようって言われたけど、そう言って、ぼくは村にもどって、燃え切ってしまった村を元にもどすようにがんばった。

 いのるのってだいじだよ。でも、それは、神さまにいのればいいと思う。

 ぼくはおとーさんとおかーさんの子だ。神さまの子なんかじゃない。とくべつなんていらない。


 ぼくは大好きなお魚を食べて、おとうとと遊んで、それがしあわせ。


 ね、これもとくべつなのかな? 神さまはどう思うんだろう。

 ぼくはいのることは続けて、ふとそう思った。もちろん返事はないけど、それでいいんだ。


「りく、朝ごはんよー」


 ぼくはだいじなことをおぼえたよ。ね、神さま。

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とくべつなんていらないよ 宮野 楓 @miyanokaede

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