異世界異性転生で快活素敵な2周目ライフを

麻倉 じゅんか

ACT.1 元青年の少女パティ

#1 異世界異性転生

 ――なんだか嫌な夢を見た、と思う。


 『思う』と言ったのは、はっきりとは覚えてないからだ。

 普段から嫌なことは忘れるようにしている。じゃないと心が持ちそうになかった。


 ただ、ぼんやりと覚えているのは夢の内容が架空の物語じゃなくて、現実の出来事の再生だったということ。

 ……つまり、いつものイジメやけなし、無視。あとは自分が起こす失敗だとか。

 そんなに俺が悪いのか? 悪いのかもしれない。


 な、覚えておく必要のない事ばかりだ。



 本当、俺は生まれてくる人生や世界を間違えたとしか思えない。


 どうして俺はこの世界に生まれた?

 どうして俺は俺に生まれたんだ?

 せめて女の子に生まれてくれば、多少はマシに……いや、それはそれで苦労はあるかもしれない。

 心の中でもだえ苦しむ。


 ああ、このまま意識が闇の中に溶け込んで、消えてしまえばいいのに。

 生まれてから何度そう思ったことか。


 それでも俺はまだ生きていて、色んなモノを呪い続ける日々を続けている。

 こんな人生、続けたくないのに。


 それでも俺は生きるのを止められない。

 理由は簡単だ。

 俺が臆病だから。死ぬのが恐いから。

 だから俺は生き続ける、今日も、明日も、明後日も。

 生き続ける限り世界を、天を呪う人生を続ける。



 眠りから覚めて目を開ける。

 するとそこには無数の星が漆黒の中に瞬く星の海が広がっている。


 ああ、こんなきれいな星空を呪いたくなんかないのに。



 …………。


 え、? 目に写った光景が明らかにおかしい。

 ぼんやりとしていた意識がはっきりしてきた。


 冷静に、冷静になるんだ。

 眠りに入る前の状況を思い出す。

 俺は今日もいつもと変わらない嫌な日々を送っていた。

 朝起きて、朝ごはん食べて、学校へ行って、家に戻ると夕飯食って、風呂入って、特に疲れていたから特に何もせず布団に入ってすぐに寝て……。

 もちろん寝たのは、いつも通りの俺の部屋で、だ。ちゃんと天井はある。そこに全天が見渡せるといったようなオシャレな天窓なんかない。

 俺の部屋からこんな夜空なんか、見えるはずがないんだ。



「ここは、どこだ!?」


 慌てて上半身を起こした。

 そうしたら体を起こし支えるため近くに広げた手のひらが痛んだ。刺さるような痛みだ。


「あ、痛っ!」


 驚いて手のひらを見てみた。

 ……よかった。血は出てない、怪我もしていない。角張った物に押されたのか、少しくぼんで赤くなっているだけだ。



 …………。



 いや、よくないだろ。

 まずは、今の俺だ。

 誰の手だよ、この細くて柔らかそうな手!  明らかに、無骨な俺の手じゃない。



 そういえば、さっきから声もおかしい。


「あー、あー、マイケルのテスト中」


 ……吹きつけてくる風が冷たかった。自分でも今の冗談は可笑おかしいと思えなかった。1点。


 でも声はやっぱり、明らかにいつもの低い俺の声じゃない。高くて軽い、例えるなら女の子のものだった。

 そういう意味では、やっぱりおかしかった。



 なので今度は喉を、頭を、腕を、体を触ってみた。


 細い首。さらっとした、やや長めの髪。柔らかくて細い腕。すべすべした腕。


 すぐに自分が今どうなっているのかを察したけれど、それをすぐには信じることは出来なかった。



 それから自分がいる辺りを見回した。


「うぉう!?」


 思わず変な声が出てしまった。

 何故なら俺が今まで寝ていたと思われるそこは、ゴミ捨て場だったのだから。


 救いだったのは、そこが木材やら鉄材やらを貯めておく廃材置き場だったということ。

 生ゴミの中に寝転がっていたんじゃ、俺の体はもちろん心も救われなかった。



 そのゴミ捨て場の周囲が森。森の中の開けた場所にゴミ捨て場があるといった感じだ。


 こんな森は知らない。

 普段の生活の範囲はもちろん、写真や動画なども含めて、今まで生きてきて、こんな風景を見たことがない。



 それらの情報から導かれる結論を『今の自分の体』を確認した時に考えたのとあわせて自分なりに答えを出す。


 『異世界かどうかは分からない』。しかし俺は『女の子に転生』して『新しい人生を歩むことになった』。

 信じられないが、そういうことなんじゃないのか。



 抑えきれない思いが、俺の中からこみ上げてくる。


「やったぞ! 俺は人生の勝利者になった!!!」


 両腕を突き上げて、世界にそう宣告した!

 クズ男から女の子に転生。こんなの嬉しいに決まっているだろう!



「……君、こんなところで何やってるの?」


 しかし勝利者気分は、その冷淡な声によって、ものの数秒で終焉しゅうえんを迎えた。

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