第5話 道化師、戦う

   ◆とある騎士◆



「《スラッシュ》!」

「ギャギャッ!」



 5体目のユニウルフを倒すと、黒い灰になって消えた。

 まだ5体。数体は馬車を追って行ってしまった。

 ユニウルフのスピードは、ダッシュホースをも上回る。いずれお嬢様に追いつくのも時間の問題……!

 だが追いかけようにも、まだ40体近くのユニウルフが残っている。

 クソッ、このままでは……!



「うおおおおお! どけぇ!!」



 ユニウルフを数体吹き飛ばすも、倒すまではいかず。

 軽やかに着地し、牙をわななかせている。

 こちらの体力はもうギリギリだ。傷も浅くはない。全員満身創痍で、武器を持つのがやっとだ。

 くっ、ここまでなのか……!


 旅の道化師よ。頼む、お嬢様を護ってくれ……!



「ぜぇっ、はぁっ……! チッ、キリがない……!」

「ユニウルフの俊敏さは魔物の中でも随一。簡単ではないと思ったが、群れともなるとここまで厄介とは……!」



 互いに背中を合わせ、周囲を警戒する。

 赤い眼光が揺らめき、獲物を狙ってヨダレを垂らす獣が、ゆっくりと円を縮めてきた。



「──むっ? お、おい! あれを見ろ!」

「え? ……なっ!?」



 あ、あれは……なんだ……!?

 遠方に見える土煙と、ここまで伝わる地響きのような揺れ。

 あっちはお嬢様たちが逃げた方角……まさか、ユニウルフ以上の魔物が……!?

 絶望的な空気が場に流れる。もう、おしまいだ……あんな土煙を上げるほどの化け物、もう俺たちでは……。


 ……ぁ……? いや、違う。魔物じゃない。

 旅の道化師だ。道化師がこっちに向かって走っているんだ。

 な、なぜここに……? お嬢様たちはどうなった?



「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」



 旅の道化師が雄叫びなのか、絶叫なのか……とにかく声を張り上げる。

 豆粒ほどの道化師が徐々に大きくなってくると……背後に群がる、無数の何かが見えた。

 魔物……ではない。人だ。無数の人影が見える。

 人……なの、だが……。



「は……?」

「俺は夢を見ているのか?」

「安心しろ。俺にも見える」



 他のみんなも同じ光景が見えているらしい。

 あの土煙の上げている原因。


 それは……無数に分裂した道化師、、、、、、、、、、だったのだ──。



   ◆ミチヤ◆



「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」」



 世界レベーーーーーーーールルルルルルルの道化師にもなれば! 1万人の観客の目を惹きつけるため、100人規模の分身をするのは基礎中の基礎!!

 因みに護衛で、馬車の方には5人くらい残してきました!


 いた! 見えた! まだみんな生きてる!

 ユニウルフはボクを標的に変えたのか、一斉にこっちへ向かってきた。


 怖い、怖い、怖い……!

 でもここで引いたらなんの意味もない……!

 それに、知らないけどこの白い光があれば、なんか行けそうな気がする!



「「「世界レベルの道化師にもなれば、観客を感心させるために鋼鉄を拳で砕くなんておちゃのこさいさい!」」」



 そんな鍛え上げた拳に、想いを乗せる……!



「「「武技──《凄いパンチ》!!」」」



 約100個分の拳が一斉に放たれ──向かってきたユニウルフたちが、一瞬にして黒い灰と化した。

 さすがの異常性を感じ取ったのか、後方にいたユニウルフたちは緊急停止。しっぽを巻き森の中へと逃げ出した。


 辺りに静寂が戻り、ボクたち以外誰もいなくなった。

 お、終わった? 終わったのか? ……はぁ〜……つ、疲れた……。

 気が抜けると同時に、分身が消える。

 すると、逃げていた馬車がこっちへ向かってくるのが見えた。



「あ、あんちゃん、今の……?」

「今の? ……白い光。出た。倒した」

「そっちじゃない。それは武技、《クラッシュ》だろう。じゃなくて、増えた方のやつだ」



 増えた方? あ、分身か。



「できない?」

「できるわけないだろ! 武技でも魔法でも無理だ!」



 なんと、そうなのか。ただの身体能力の賜物だから、鍛えたら誰でもできるやつだけど。



「あんちゃん……本当、何者だ……?」



 みんな呆然とした顔で、ボクを見てくる。

 何者って、そんなの決まってるでしょ。



「世界最高の道化師だよ」

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