ホラー日記

まにゅあ

ホラー日記

 最近になって日記を書き始めた。

 クラスの友達の亜美ちゃんから勧めてもらったのがきっかけだ。

「日記を書いてたら、毎日を楽しく過ごせるようになるよ。春奈ちゃんも書いてみたら?」

 私の二大口癖は「やる気ない」と「面倒くさい」。亜美ちゃんはいつも私がそう言うたびに「おじさんか!」って突っ込んでくれるけど、私とあんまりしゃべったことのないクラスメイトとかだと、「……」って一瞬沈黙が返ってくることも多い。

 自慢じゃないけど、小学生の私は顔や体型には恵まれているらしい(亜美ちゃん曰く)。だけど内面が残念過ぎて、近寄ってきた男子をこれまで何度失望させたか分からないそうだ(亜美ちゃん調べ)。

 そんな中身残念系女子の私を変えようと折角提案してくれた亜美ちゃんに、「日記なんて面倒くさい」と返すのは、さすがの私でも気が引けた。だからとりあえずお母さんに頼んで日記を買ってきてもらい、今はこうして家の自室の勉強机でペンを片手に日記を開いている。

「……ダメ、全然書けない」

 いざ日記を書こうとしても、何を書いたらいいのか分からない。その日あったことを書けばいいというのは分かるけど、わざわざ書くようなすごいことを今日したかって思い返してみると、特に何もなかった、いつも通りの学校生活だった――という考えしか浮かんでこない。

 いくら頭を悩ませても全然書けないので、亜美ちゃんに相談することにした。

 ――日記って何を書いたらいいの?

 チャットで連絡すると、すぐに既読がついた。

 ――何でも。春奈ちゃんが書きたいことを書けばいいよ

 ――その書きたいことがないんだけど……

 少し返信に間があった。

 ――日記を書き始めたときの私と一緒だ! 私も始め、何を書いたらいいのか分からなかった。懐かしいな~

 続けて、

 ――日記を書こうと思うと、毎日日記を書けるようなことを何かしなきゃ~ってなるでしょ。それで毎日一所懸命に生きるようになるわけ。毎日が充実して楽しく過ごせること間違いなしだよ!

 ――……でも、それって何だか変じゃない? 日記を書くために何かするって

 ――別にそんなことなくない? 何かのためにがんばるって、私たちがいつもしていることでしょ。家族のために頑張って働くお父さんとか、ファンのために頑張って踊るダンサーとか、だいたいみんな何かの、誰かのために頑張ろうってしてる。そうやって色々「○○のために」ってしないと生きていけない社会になってるっていうのもあるかもしれないけどね」

 亜美ちゃんは小学生なのに、難しいことをよく言う。そんな亜美ちゃんのほうがおじさんみたい、とは口が裂けても言えないけど。

 ――日記を書いて楽しく生きられるんなら、それで充分じゃない? 日記を書くのは楽しく生きるための方法だと割り切って書いちゃえばいいんだよ

 ――……ありがとう、とりあえず書いてみるよ

 ――うん、がんばって!

 チャット画面を閉じて、再び日記と向かい合う。今日の分はとりあえずさっきの亜美ちゃんとのチャットのやり取りについて書くことにした。本当にこれから毎日、日記を書き続けることができるだろうか、面倒くさがりの私が。


 心配は杞憂に終わった。半年後の私も日記を書き続けていた。

 ――今日は、亜美ちゃんの机にムカデの入った虫かごを置きました。クラスの男子に頼むと、嬉しそうにムカデを捕まえてきてくれました。昨日はダンゴムシで、亜美ちゃんはそれを見て声を上げるくらい喜んでくれたから、今日はもっと大きな虫にしてみました。登校してきた亜美ちゃんは、ムカデの入った虫かごを見ると、あまりの嬉しさにその場で涙を流してくれました。明日はどんなことをして亜美ちゃんを喜ばせようかな。楽しみだな。日記を書くようになって、私の毎日は充実しています。日記のことを教えてくれた亜美ちゃんのおかげです。私は亜美ちゃんに恩返しできるよう、これからももっと亜美ちゃんを喜ばせようと思います。

 

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