Summertime to be

秋野凛花

プロローグ

 少女はいつもの時間に目を覚ました。


 夏とはいえ、朝はまだ涼しい。日光の入らない日陰なら、特に。

 少女は着替え、階段を下りる。今日は朝から散歩をする予定だったからだ。リビングはスルーし、キッチンに入る。漁るのは冷凍庫。目的は、キンキンに冷えたアイス。

 アイスを齧りながら、少女はリビングへ向かった。扉を開け、目に入ったのは。


「……は?」


 そこで見たのは、惨状だった。


 まず見えたのは、赤。そして、その赤のこびりついた、肉塊。その肉塊には、嫌というほど見覚えがあった。

「お父……さ……、お母……さ……ん」

 頭ががんがんと痛んだ。耳元に、外の蝉の音が煩い。それはまるでサイレンのようで、少女の呼吸を奪っていく。煩い、煩い、煩い!

 そこで父親だった方が、少女に手を伸ばした。少女は反射的に身を震わせる。彼は震える手で、どこか一点を指さした。引き寄せられるようにそちらを見ると、そこには小さなシェルフ。アイスを咥えながら、少女がそこにある引き出しのうちの一つを開けると……そこには、書類の束があった。

「お父さん……」

「……ぃ……ぉ」

 少女は息を呑む。その言葉の真意を、聞き出す前に。


「人間、まだ、いたのか」


 横から足音とともに、そんな声が聞こえた。

 少女はその奇妙な格好に眉を顰める。何故ならその人物(?)は……着ぐるみだろうか。無表情の猫の被り物をしていたからだ。

「! それ、寄越せ」

「……ッ!」

 それは少女の持つ書類を見ると、声色を変えて少女に詰め寄った。一方少女は、それに合わせて後ずさる。


 美月、逃げろ。


 数秒前の、父の言葉が少女の脳裏によみがえる。

 逃げないと。

 少女の咥えていたアイスが、重力に負けて滑り落ちる。まるでそれが合図だったかのように、少女は玄関に向け走り出した。

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