最強騎士の学園生活 ~身分を隠して学園に入学したけど、次から次へと貴族達が問題を起こして忙しいんだが!?~

日野いるか

第1話 クラーク・シールド

 山岳のとある森の中。


 俺、クラーク・シールドは、緑の戦闘服を着て疾走していた。

 その後ろには数名の部下が付いている。彼らも俺と同じ森の中に隠れやすい色の戦闘服を着ていた。現在、馬の全速力並みのスピードを出して走っているのだが、彼らが遅れてくる様子はない。障害物だらけの森の中だというのに相変らず大したものである。



『少佐。2時の方角に目標を捉えました』



 感心していると、部下から通信魔導具での連絡が届いた。どうやら敵を発見したようである。

 少佐と呼ばれた俺は、部下の報告に対し端的に応えた。



『数は?』


『100人です。全員魔剣を装備しています』


『全員魔剣か。さすがはノーザンハイドの司令部だな……。敵に気付かれる前に俺が叩く。お前らは俺の援護を頼んだ。総員戦闘準備!』


『『『了解!』』』

 


 無駄の少ない簡潔なやりとりを経てから、俺達は進路を2時の方角へと変える。

 そして、『行くぞ!』という俺の簡潔な合図と共に敵陣に向かって全員が突貫した。

 敵との距離が50メートルに近づくと、森が開けた広場が見えてくる。

 俺は太い木の枝を踏みながら、その広場の上空へと躍り出た。


 すぐさま何人かの兵士が気付き、こちらに視線を向けて驚いた表情を見せる。彼らもまさか本陣に迫っている敵部隊がいるとは思わなかったのだろう。すぐさま慌てて剣を構えようとする。


 まあ、そんなことしても意味ないんだけどな。


 俺はその場で両手を敵に向かって構えた。

 その瞬間。「キィィィィ!」という音と共に両手の前に膨大な熱と光が集まり始める。 

 その様子を見たノーザンハイドの騎士達は、一瞬呆然として、次の瞬間には逃げようとした。


 しかし、それはどうあがいたって叶わない。


 なぜなら、の前にはどんな戦法も無意味だから。


 俺は彼らを冷たい眼差しで見据えながら、一つの言葉を紡ぐ。

 彼らにとっては死の呪言を。



「燃え尽きろ。『竜砲』」



 刹那。


 破壊の権化ともいえる熱光線が広場全体を襲った。



 たっぷり10秒ほど続いただろうか。

 すべてを飲み込む轟音が止んだ後には、赤熱化した大地と原型をとどめない無数の屍が転がっていた。焦げ臭い匂いが鼻を掠め、俺は眉を顰める。


 そんな灰塵と化した戦場を眺めながら、俺は思わず一言呟いた。



「敵でなかったら殺さなくて済んだのにな」



 一見して冷徹で傲慢に聞こえる呟きだったが、部下にとっては異なる意味に聞こえたらしい。


 通信魔導具を通じて部下から励ますような声が聞こえてきた。



『少佐。考えても仕方ないですよ。俺達の仕事は戦争屋ですから』


『そうですぜ。戦争を止めることを考えるのは上の連中の仕事です』


『同じ人が敵同士になってしまうのは残念なことですが、そこは割り切るしかないでしょう』


『そう……だな』



 俺は部下の言葉を聞いて、自分を無理やり納得させることにした。


 そう、いつものように。




 ◇ ◇ ◇




 任務を終えた俺は王都に戻ってきていた。


 王都はこのサウザンロード王国の中心だけあって、非常に華やかで美しい街だ。色とりどりの建物は街の雰囲気を明るく彩り、活気のある人々の営みは程よく騒がしく、喧騒の中にいるだけでなんとなく楽しい気分にさせてくれる。


 そんな王都の街並みを貫く大通りを馬車に乗りながら進んでいると、同じ馬車に座った部下達が話し始める。



「最近の王都は賑わってるなぁ」


「そろそろ学園の入学式が近いからじゃないか?」


「ああ、確かに。全国から学生が集まってくるもんな。それで活気づいているのか」


「そういえば、俺も学園生時代は春休みによく遊んだよ。当時は——」



 どうやら学園の話をしているようである。

 彼らの言う学園というのは、この王都に存在する『ローゼン王立総合学園』のことだ。

 全国から優秀な学生が集まる国内最高峰の総合教育機関で、完全実力主義が取られていることで有名だ。

 卒業生には豊富な進路選択と立派な経歴が約束されるので、この学園を目指して受験する人は非常に多い。もちろん、青春らしいイベントも満載であるため、交友関係を広げることを目的に入学を希望する貴族も多いとか。


 ……まあ、俺には関係ない話題だけど。


 と、そんなことを話していると、部下の一人が耳を抑えて集中しだした。

 どうやら通信が入ったようである。


 

「少佐。陛下がお呼びだそうです」


「陛下が?」



 珍しいな。普通は軍の上層部を通して命令が下るんだが……何か重要な用事だろうか?

 そう考えた俺は気を引き締めて、部下に謁見の時間を聞いた。



「時間は?」


「到着し次第すぐだそうです」



 ふむ。ちょうど褒章の授与式のために王城に上がるところだったので、その前に話しておきたいことがあるのだろうか?

 そんな予想を立てつつ、部下に「分かった」と返事をする。

 その後は適当に部下達との会話に講じていると、あっという間に王城に辿り着いた。


 敷地内をしばらく移動して一番大きな宮殿に入ると、まるで別世界に入ったかのような荘厳な空間が広がっている。金の縁取りに瀟洒なデザインをした壁、床、天井が視界いっぱいに飛び込んできた。

 とはいえ、そんなものは既に飽きるほど見ている俺は、宮殿の美しい姿に見惚れることなくスタスタと歩を進める。そして、一切迷うことなく一つの部屋の前へとやってきた。

 その部屋とは、巨大な両開きの扉を備えた、謁見の間である。



「相変らず、威圧感がすごいな。思わず佇まいを正したくなる」



 そう呟いた俺だが、それに応える部下はいない。彼等とは現在別行動をとっていた。


 俺はべージュ色の軍服の襟を直しながら、扉の両端に構える兵士に目配せをする。

 俺の視線を受けた兵士達は、大きな声で俺の到着を述べながら、謁見の間の扉を開いた。

 ゆっくり開く扉の隙間から、玉座が見える。

 その玉座の上には金の王冠に赤いマントを羽織った40代ぐらいのがっしりした男が座っていた。

 

 彼こそは、このサウザンロード王国の国王、アレクシス・ケーニヒ・フォン・ローゼンハイム。

 この国の頂点に君臨する者であり、俺達『特務騎士団』の最高指揮官でもある。


 俺はレッドカーペットの敷かれた道を進みながら、玉座の手前までやってくる。


 そして、短い金髪の下に輝く青い瞳を見据えながら、膝をついた。



「クラーク・デ・バロン・フォン・シールド。ただいま参上いたしました」


「うむ。面を上げよ」



 俺が名乗りを上げると、陛下は泰然とした声で返答する。

 俺は言われたとおりに顔を上げた。


 ちなみに、クラーク・シールドというのは俺の本名であるが、この名前の時は表向き平凡な男爵子息ということになっている。先ほどの戦いで見せたような破壊行為なんかは欠片も再現できないような、ごく平凡の男爵子息なのだ。

 そして、力を振るう時は『アーク少佐』という別の身分を使う。いわゆる裏の顔という奴だが、この偽の身分を用いることによって、俺のような規格外の力の持ち主の所在を隠蔽しているのである。 



「まずは此度の戦での活躍。まことに大義であった。賞賛に値しよう」


「もったいなきお言葉にございます」



 陛下の賞賛に俺は無難な答えを返す。


 この流れだと、やはり陛下は先の戦争に関連する何か重大なことを伝えたいのかもしれないな。わざわざ謁見の間に呼び出すくらいだし。

 正直つい最近まで戦場暮らしだったため、今すぐ部屋に入って休みたいけれど、陛下の呼び出しとあっては粗相はできない。気を引き締めなければ。


 そう身構えていると、陛下が再度口を開いた。



「この功績については別途褒美を与えよう。して、此度、貴殿を呼び出した理由だが、実は貴殿にある任務を与えようと思っておる」


「任務……ですか?」


「そうだ」


 陛下は俺の疑問に対し、鷹揚に頷いた。


 どうやら、今回呼び出されたのは任務内容を告げるためだったらしい。


 しかし、それならなぜ『クラーク・シールド』としての俺を呼び出したのだろうか。本来、軍での任務を請け負う場合は『アーク少佐』という身分を使うのが習わしだ。最終兵器の居場所がバレないようにする配慮なのだが、今回陛下はそれを無視している。

 何か意図があるのだろうか?



「今回与える任務だが……」



 俺が考え事をしていると、陛下が話を先に進める。


 俺は無意識にごくりと唾を飲んだ。


 一体どんな任務が課されるのだろう?

 最も最悪なのは、無茶な任務を課されることだが、それは現状考え難いと思う。

 たとえば、敵国に潜入して暴れまわれ、なんて任務は多分出さない。それ以外にも単独で敵師団を撃破しろとか、そういった類もないだろう。正直、現在のノーザンハイドとの関係はそこまで悪化していないからな。


 しかし、そうなると、本当に心当たりがないぞ。

 予測できない物事ほど怖いものはないと言うが、今まさにその言葉通りの感情が沸き上がってきているな……。

 

 そんなことを考えていると、自然と緊張が増してきた。

 俺は陛下の次の言葉に意識を集中させる。

 頬の横をにじみ出た汗が流れていき、床についた右手が緊張で硬く握られる。


 

 

 ————先の言葉より、たっぷり5秒ほど置いてから、陛下はごく自然な態度でこう言った。



「貴殿には、身分を隠して学園に入学してもらう」


「…………は?」



 その瞬間、俺の頭は真っ白になった。







〇 〇 〇


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