第8話 電車で揺られて
時が経つのはあっという間ですぐに約束の日が来る。取り敢えず近くの駅で待ち合わせをした。そこから電車でショッピングモール近くの駅まで一直線だ。見るのはテレビで紹介されていた流行りのアクション映画だ。あらすじが何となく面白そうってだけで選んだが、まあ見ていくうちに分かるだろう。
「理人!」
「あ、瀬良」
この二週間くらいの間にかなりの回数蛍とラインした。蛍の友達のことや好きなものの事を色んなこと、今日の事、様々なことを知った。こんな事を知れるなんて思いもしてなかった。これも始業式の日に一歩踏み出してLINE交換に至ったおかげだ。蛍の色んな顔を想像し、知れる。それだけで何だか嬉しくなってくる。
「じゃあ切符買おっか」
蛍が俺の前を先導して歩いていくのでそれに続いてスッと蛍の横に並ぶ。
もし、今……例えば映画終わりなんかに告白したらどうなるだろう。理人はそんなことを考えていた。まず、俺の告白を受けてくれるのか。今の蛍は異性の友達としてはかなり仲がいいほうだと思う。蛍からすると完全に男友達だと思われている可能性が高いな、と思っている。希望を打ち砕くようで嫌だが自分が好かれているなんてナルシストになる気はない。
切符を買って少し混雑気味の電車に乗り込む。
「映画、楽しみだね」
ガタンゴトンと揺られながら隣に立っている蛍が小さな声で控えめに笑いながらそう言ってくる。
「うん。前にテレビでやってたやつを面白そうだなって思ったのを思い出してさ」
実は遊びに行こうという話になって映画に行こうと最初に言いだしたのは理人だ。映画だったら映画の感想で会話をある程度持たせることが出来るし、二人の間での共通の話題も増やすことが出来る。更に一緒にいる時間の割に映画を見ている時間があるので無言の時間が多くある。
「私も、よく見る女優の人が主演だったからちょっと見たいなって思ってたんだよね」
女子との初めての映画でアクション映画というのはどうなんだ、とも思ったが恋愛映画で気まずい空気が流れるよりは全然ましだろう。
「あ、席空いたし座って」
「いいの?ありがとう」
2つ目の駅に止まった時、目の前の人が降りて行ったので蛍に席を譲る。目線の高さが完全に変わって話しにくくなったので会話の流れも止まってしまった。
二人の間に沈黙が流れている間、理人はさっき少し頭の中に浮かんだことを考え直していた。もし今告白したら蛍とカップルになることはできるのだろうか。理人の中でその結論は『なれない』という結果に至っていた。
何故かというと、蛍は同じマンションに住んでいる住人で席が隣になっているとは言っても、結局はよく話すクラスメイトでしかないからだ。これから先、理人自身の言動によって蛍の好感度が今より上がっていく可能性は全然あるが。そもそも、蛍にはもうすでに恋人がいる可能性もある。理人の耳にそんな話は全く入ってこないが、可能性を考えてしまうとキリがない。これは理人の気持ちの問題だが、もし蛍にフラれてしまった場合多かれ少なかれ二人の間に気まずい空気が流れることは確実だろう。その空気を打ち破って今と同じような頻度での会話は出来ないと自分で思っているし、それは一番望まれない形での関係の薄れ方だろう。
「……理人!」
「ん、あ、ごめん。ちょっと考えてた」
「次の駅で降りるからね」
もう着いてしまうらしい。これから楽しく映画だというのに少し嫌なことを考えてしまっていた。やはり家族連れの乗客はここで降りる人も多いらしく、車内でも何人かが降りる用意をしていた。降り口は少し混むだろうなと思う。ドアが開く。
「混んでるから気をつけて」
「……うん」
蛍の華奢な体が乗客の間をすり抜けていく。理人も蛍に少しだけ遅れてやっと電車から降りる。
「久しぶりに来たけど思ってたより混んでたな……」
「まあ日曜日だしね。さっきの理人、乗客の中に飲み込まれそうになってなかった?」
「……瀬良が先行っててはぐれるかと思って少し焦ってた」
「別に急がなくてもいいのに」
蛍が面白げに話す。そんな和やかな雰囲気で理人たちは映画館へ向かった。
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