第4話 LINE交換しよう

 二人の住んでいるマンションから学校へはそう離れているわけではない。というより、とても近い。高校選びの時に登下校の楽さを理由の1つにしていたくらいだ。そのため蛍は毎日学校へは徒歩で行く。その事を理人に告げるとどうやら(蛍と話す時間を作るため)彼もそのつもりだったらしい。意見が一致した二人は寒さが肌に容赦なく襲ってくる風を受けながら一緒に歩いていた。

「あ、そのマフラー。前もつけてたよね?」

「そうそう。最近気に入って付けてる」

 あの引っ越しの日にもつけていた青いマフラーを理人は付けていた。制服でも眼鏡でも私服でも何かやたら暗めの色の服を理人は来ていることが多いがその中で見ると青い色はよく映えて見える。少しだんまりの雰囲気に成ったところで今度は理人が話を振ろうと口を開いた。

「え……っと。瀬良は毎日今くらいに家出てるの?」

「うん。朝練がない日は……今くらい」

「へー」

 

 また会話の流れが止まってしまった。二人の間に気まずい沈黙が流れる。いざ何か話そうと思っても何を話せばいいのかが分からないし、何か話そうと思ってもそれをこの空気感で言っていいものか迷う。そういえば理人はLINEを蛍から聞き出すためこの状況にいることを思い出した。言え。一言、スマホを出して「せっかくだからLINE交換しようよ」って言えばいいだけだ。今のタイミングで言うと少し変って思われてしまわないだろうか。いや、元からクラスメイトなんだし。

「あのさ」

 蛍が横を向いたことで顔が理人の前にぱっと現れた。理人は結構背が高いほうで、二人の間には約20cmも身長の差がある。その顔に鼓動が少しだけ早くなるのを感じながら強張る。

「学校のことで分からないことがあったり他にも何か聞きたいことが出来るかもしれないし、家も近くなったからさ、ら」

「理人ーー!!!!!」

 いよいよLINEのことについて本題に入ろうとした瞬間に後ろから回された腕が理人を襲う。驚いた理人によって会話はそこで止まってしまった。理人が何事かと思って後ろを振り向くと中学からずっと友達のしげるが立っていた。

「……おはよう」

 最大級の憎みを含んだ声色で理人も挨拶を返す。あともう数秒来るのを遅くしてくれれば蛍とLINE交換の確約がとれていたのに。蛍も少し困ったような表情で繁に挨拶を返している。繁とは友達だと思っているけど、今ばかりは憎むぞ。

「ほら、早く行かないと遅刻するぞ……って言っても今日早いからゆっくりでも大丈夫か」

 繁はのんきに俺たちの前を先導して歩いていく。

「ごめん、何か急に繁が来た」

「全然いいよ、こんな所で白井くんに会うなんてね」

 

 蛍の心の仲はそりゃあもう荒れていた。繁が来るのは全然いいけど今は来て良いタイミングではない!!! せっかく理人と話すチャンスだったのに、もう学校が見えている。学校に着くと他の生徒もいる、ということは今の繁みたいに自分や理人の友達に自分たちに話しかけてくる人もいる。もう理人と話せる時間はほぼない。

「あ、そう言えば理人は何て言おうとしてたの?」

 蛍にはさっきの理人の発言が何を意味しているのかイマイチ分かっていなかった。単純な疑問を口にする。すると理人は再びチャンスが訪れたことに気づいた。ここでLINE交換を持ち掛けないと結局ズルズル話を流してしまう気がする。今言うべきことだ。

「えーっと……『LINE交換しない?』って言おうと……した」

「LINE……LINE!? そうだよね、まあ確かにそのほうが便利だよね」

「うん、取り敢えずもう学校だから後ででもいい?」

「分かった」

 理人たちの学校は敷地内で携帯をいじることが禁止されている。どうせ外でみんな使うんだからそんなに意味ないだろ、と思っているがもう校門にいる先生の視認距離に入っているので携帯を出すのはやめる。校門を抜けると蛍は何か委員会の用事があるらしく、違う方向に駆けていった。


 校門でしたり顔をして俺を待っていたのは繁。

「やったな、理人!」

「マジでお前いい加減に……っつってもお前に言っても分からんか」

「そうだよそうだよ。それにしてもお前ようやく瀬良と付き合えたんだな」

「は?」

 付き合うどころの話じゃない。丁度今しがたLINE交換を何とか約束したところだ。繁が怪訝な顔をしている。

「瀬良と付き合ってるわけないだろ……冬休みに瀬良がうちのマンションに引っ越してきたんだよ」

「はー!?」

 繁の驚愕の大音声が学校に響き渡った。ちょっと先生に怒られた。

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