第九話 ラーツィアの恩恵
ラーツィアのお願いごとはオレの予想を上回るものだった。
「ベットを変えさせて欲しい?」
オレの怪訝な態度にラーツィアが縮こまりながら恐る恐る提案してくる。
おっと不味い。
怖い顔してたかなオレ。
「……実は、わたしベットが変わると眠れないんです」
この家にはベットは二つある。
オレの部屋に一つと爺さんの部屋に一つだ。
亡くなった爺さんのベットをラーツィアたちに使わせるのは忍びないから、二人にはオレのベットで我慢してもらおうと思っていた。
その矢先の提案だった。
「う〜ん、流石に悪いけどベットを王城にあるような豪華な物には出来ないぞ。二人にはちょっとボロいけどオレのベットを使ってもらおうと思ってたんだ」
「そ、そのベットの心配は大丈夫です。わたしの恩恵で用意できますから!」
「え?」
「わたしの恩恵は『ベット』なんです!」
詳しく聞くとラーツィアの恩恵はそのまま『ベット』を作り出せる恩恵らしい。
文字通りベットを魔力を用いて生成する力。
取り敢えず『見て確かめて下さい』とラーツィアは急遽物を退かした居間で恩恵を使う。
「えい! 『プリンセスベット』」
「うわっ!」
ドカンと音をたてて天蓋付きの見たこともないベットが居間の中央に出現した。
デカ!
この家の取り柄である広さがなかったら、一室すべてを埋め尽くす大きさだぞ。
「流石姫様の恩恵」
「その……アル様。できればこのベットを使わせていただきたいのですけど……」
「いやー、まあオレのベットよりは確実に良いものだけど、部屋に入るかな?」
「ならこちらのお部屋でも構いません。アル様! どうか我儘をお許しいただけないでしょうか?」
ここ居間なんだけど、そんなにこのベットで眠りたいんだな。
ラーツィアは胸元で両手を組むと祈るように頼み込んでくる。
「ここまでの旅では姫様は禄に眠ることも出来なかったのだ。私からも頼む。この通りだ。姫様に安眠を与えて貰いたい」
「ぐぅ」
コイツさっきまで五月蝿かったのに、ラーツィアのことになると真摯に頼んできやがって……。
深く頭を下げる二人に何も言えなくなる。
「はぁ〜〜、わかった。好きに使ってくれ。ただし、朝の食事の時には消してくれよ。恩恵だからすぐ消せるよな?」
「勿論です。アル様! ありがとうございます!」
ニコニコと嬉しそうに笑うラーツィアを見て、ふと思い出したことがある。
これも聞いておかないと。
「そう言えば魔力暴走の心配はないのか? 吸魔の指輪も返してないし」
白金の指輪はまだオレの小指に嵌っている。
そう言えば返してない。
「その指輪はアル様に差し上げた物です。命を助けていただいたお返しにはなりませんが、よろしければアル様がお使い下さい」
「だけどな……」
「姫様がお渡ししたなら私からは異存はありません。おい、命より大切にしろよ」
この女ぁ。
「それと、魔力暴走ですが……実は指輪を外しても問題ないんです。子供の頃は魔力の大きさに体調を崩して寝込んでしまいましたけど、今は魔力制御の力が自然と身についたのか暴走の兆候はありません」
魔力暴走。
それは、過剰な魔力が体内で暴れだすことで、周囲を傷つけてしまう魔力の発露のことを指す。
ラーツィアの場合は、莫大な魔力が周囲の物を動かし破壊してしまうことが何度か起きたそうだ。
魔力の少ないオレとは縁遠いことだが、魔力が多い、多すぎるとそれはそれで問題らしい。
魔力は殆どの人が生まれながらに持つ力といわれている。
魔法を発動する際にも使うその力は、大気中に紛れて存在しているらしい。
個人個人で許容量が違い、体内に貯めておける量は違う。
ただ、魔力は使えば使うほど魔力容量を拡大することができるとも言われていて、恩恵や魔法という形で使うことが推奨されている。
「じゃあなんで幽閉なんてされてたんだ」
「……都合が良かったんです」
「え?」
この時恥ずかしそうに目を逸していうラーツィアの顔をオレは生涯忘れることはないだろう。
「……眠りたかったんです」
王都の奴らはどうしようもない奴らだと思ったが、そうでもないのかなと思い直した瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます