誰が為の惑星の詩 -I.O.S./Infinite Ocean Song-

ブッキー

第一部【OVER THE THOUSAND NIGHT】

第0話

……鼓膜を突き破るような警報が、今にも焦燥で弾け飛んでしまいそうな心臓を小突いた。


うるさい、と吐き捨てて、その骨張った指は必死にコントロールパネル上のキーを叩き、あらゆる制御桿を引き絞っていた。

闇が深くなっていく。あらゆる足掻きを無駄だと嘲笑うように。

彼らを乗せた船体は、青暗い深淵へと、無慈悲に吸い込まれていく。

肺内の気圧の急速な変化による臓器破裂の心配はない。この船には、特殊粒子テトラダイの応用による斥力の防御膜がある。だが。


「艦長!タンク内の排水システムが機能しません!このままでは……」

部下の悲痛な絶叫が、焦燥のギアを更に上げた。そんな事、言われるまでもなく把握しきっていた。

当然、このままでは沈没する。否、既にしている。

今まさに。底の底まで。


──ここまでか。こんなところで。


艦長と呼ばれた男の腕から、がっくりと力が抜けた。

聡明だった男は、だからこそこの船の艦長となり、だからこそ誰よりも先に状況を把握できた。

……このような状況を知っている。この先に待つ末路を知っている。知らなければこの仕事など務まらない。

悲鳴と警報と、船体が緩慢かつ確実に潰れていく金属音の中。

自らの命の走馬灯を見始めていた男の瞳が、"その先" の光景を確かに捉えると、即座に驚愕から見開かれた。


「なんだ── "あれ" は」


──暗い闇の底。


暗黒の、その更に遙か彼方。

誰も、何もいないはずの、この惑星の終着駅。

その深淵の彼方に──男の瞳は、確かに "夜景" を見た。








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