その9 木属性の魔法
木漏れ日揺れる森の中、コノハは杖を抜く。
そしてそれを握ったまま──幹を抱きしめた。
……なにをやっているんだ?
「木属性の魔法は、他の属性とは全く違う仕組みなのよ」
怪訝な顔をしていたのか、ネフが教えてくれる。
「火、水、土、風……あと、光と闇。元々は魔法って六属性だったの。でも今よりずっと昔に、ロコステヴィアって魔女が新しく木という属性の魔法を生み出したわ」
コノハをちら、と見て続けた。
「木属性は、他の属性と違って有機物を操る魔法。いうなれば、木という生き物を使役する魔法なの。火や水と違って、生き物には意志がある。言うことを聞いてもらうためには、心を通わせる必要がある」
「──なるほど。コノハのあれは、そのための……」
「ええ。ちなみにどれくらい早く、深く心を通わせられるかが腕の見せ所なの。早ければ発動も早く、深ければ規模も効果も大きくなるから」
わたしはからっきし、っていうか使えないのだけれど、とネフは手をひらひらさせた。
他の魔女を知らないからなんとも言えないが、コノハは多分優秀なのだろうと思う。
まだ一分経ったか経たないかなのに、すでに心を通わせたっぽいからね。
杖を構えて、唱えながらくるくる回した。
「
「おお……すごいなこれは」
ぎぎぎ、と唸り声をあげながら、幹がゆっくり下降し始める。乗っかって絡まった風つかみも一緒だ。
さすが木属性、とネフも感心している様子。
大胆に、されど優しく。
ぼこ、と地面まで幹が埋まって。
僕らの風つかみは、再び土を踏むことができた。
風つかみはオラングの集落、その隅に運んでもらった。
もう一度じっくり、しっかり壊れ具合を確かめる。
損傷はやっぱり、右翼。
運がいいことに、エルロンは無事。コントロールはできるものの、エルロンから先がちぎれ飛んだみたい。
無事な左翼とのバランスが取れず、まっすぐ飛ぶことが難しい状態だ。
それと、両翼についている太陽電池のうち、右翼の一枚が喪失、左翼の一枚が故障。
まあこれは、充電時間を伸ばせば大丈夫だろう。
まとめると、右翼と左翼の空力バランスさえなんとかすれば飛べるってことだ。
それなら、右翼の失われた部分を新しくつくってあげればいい。
木はたくさんあるし……。
「——いや、無理か。強度も精度も話にならないよな……うーん」
「案外、作ってみたらできるかもしれないわよ?」
「形はできるかもだけどね。左翼が無事ってことは、左だけは完璧なわけでさ。そしたら右も完璧なものにしないと、バランスが取れない」
「案外、機械も融通きかないのね──あっ……ごめんなさい」
言ってくれるぜ。
と思ったら、ぱっと口を押さえて謝るネフ。
大丈夫、壊れたのはスラーミンのせいだってば。
「ネフって、思ってることに嘘つけない性格ぽいね!」
コノハがからから笑った。
確かに、と思った。誤魔化したり嘘ついたりしたの、見たことないな。
「あ、いやそうじゃなかった! それを言おうとしたんじゃなくてね!」
コノハもぱっと口を押さえて、笑いを止めた。
首を傾げると、思いついたんだけどね、と話し始める。
「……無事な左もさ、右と同じ分だけ切っちゃえばバランス取れるんじゃない?」
「それ余計壊れちゃうんじゃないかしら」
「あはは。確かにバランスは取れるけど、今度はそこから風が入って翼が壊れ……ん、いや」
風が入るなら、蓋をすればいいか?
翼端を塞ぐだけなら、言ってしまえば
翼内部の部品を作るのに比べたら、木の塊を流線型に整えるだけだからまだ簡単だし。
「……それでいけるかもしれない」
「「ほんと!?」」
三人で顔を寄せ合い、相談タイム。
計算がほとんどいらないのもいい。
翼の断面にあわせて型取ればいいし、空気抵抗を少なくしたいだけだから整形も適当で大丈夫だし。
左右で一つずつ、ぱっと見で同じなら問題ない。
いいな、これだけ甘い条件なら出来そう。
「くっつけるのは、どうしましょうか?」
「あ」
ネフの言葉で気が付いた。
接着剤がいるじゃないか。それも普通のじゃだめだ。
空を飛ぶのだから、温度や湿度とか、環境変化に強く、かつ絶対に外れないような強力な接着剤。
そもそもここは森の中、普通の接着剤すらあるのかどうか……。
「あるよ。作れば」
「「ほんと!?」」僕もネフも身を乗り出した。
「うん、師匠の研究成果のひとつ、
やるじゃないかコノハの師匠! 見直した!
「まあだけど、ちょっと問題あるけど」
「大丈夫、風つかみが直るなら些細なものだよ!」
「そう? ならいいけど!」
僕とネフは興奮しながら、コノハの言葉を聞いた。
「──材料に、スラーミンの羽がいるの」
……。
(その10へつづく)
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