第12話  亜美の告白






「まあ、私が警察官の話は置いておいて、悠ちゃんが女の子になった話に戻るわね。あの日は友達に飲みに誘われて、遅くなった帰り道だったの。あの日は少し飲みすぎてね……。宇宙船は自動運転にしていたのよ…?」


(んんっ!?)


 俺は突然出てきた単語に驚いてしまう。まさか……? 

 すると、亜美さんは机に突っ伏すと、涙目で天板をバンバン叩きながら話を続ける。


「でも、気付いたら手動になっていて、宇宙船が地面ギリギリを飛んでいたのよ! 地上が真っ暗で…… 気付いた時には悠ちゃんをはねていたのよーーー!!」


「ええぇぇぇ!!!???」


 俺はあまりの出来事に「え」以外の言葉が出なかった。


「あの日、ボクは夜空を見ながら、お散歩をしていたんだ~」


 悠はまるで、他人事のような呑気な口調で話す。

 俺はどこから突っ込んで良いのか解らず、取り敢えずここから突っ込んでみる。


「警察官なのに、飲酒運転したんですか!?」

「えっと…… それは……」


 亜美さんは突っ伏したまま言い淀む。そして、再び机をバンバン叩きながら、言い訳を始めた。


「しょうがなかったの! あの日は、事ある毎に彼氏自慢してきた友達が、三股された挙げ句に別れたって話を聞いたから、お酒がいつもよりも美味しかったの! まるで水みたいに体の中に入ってきたの! だから、飲みすぎちゃったの!」


「それ何の言い訳になっていませんよ……。あと… それは、友達なんですか?」


 俺は思わず疑問を口にする。だって、その理由でお酒が美味しくなるのは、その友達の不幸が嬉しかったということだと思ったからだ。


「智也君…。大人の女にはね…、色々と複雑で面倒な付き合いがあるのよ…… 」


 亜美さんは、死んだ魚みたいな目で遠い目をしてそう呟く。

 そして、さらに話を続けた。


「それで、悠ちゃんをはねてしまった私は、急いで宇宙船に重体の悠ちゃんを乗せると― 」


「ちょっと待ってください!! さっきは驚きすぎてスルーしましたが、その宇宙船って何ですか!?」


 俺は亜美さんの言葉を遮り、今更だが宇宙船について聞いてみた。

 そもそも、宇宙人とかそういう類いの話なのか? そうなると、警察官云々も怪しい……


 しかし、そんな俺の考えとは裏腹に、亜美さんはキョトンとした顔でこう言ったのだ。


「何を言っているの? 宇宙船は宇宙船じゃない。宇宙を航行する乗り物の…… 智也君は詳しいんじゃないの? UFOとか宇宙人とか超能力とか好きなんでしょう?」


「……どうして、それを?」


 俺は子供の頃からUFOや宇宙人などの所謂オカルトが好きで、オカルト番組や月刊アトランティスも愛読している。だが、その事を知っているのは両親と同じくオカルト好きの悠だけ…… 


 あっ! 教えたのは、この何かと可愛いコイツか……


「もう、亜美さん! “その事は誰にも言わないで”って言ったのに~!」


 悠は頬っぺたを膨らませ、両手の握り拳をあげながら、プンスカ怒っている。

 どうやら、可愛い怒り方を何パターンも持っているようだ。相変わらずあざと可愛い奴だ…


「ええ~、いいじゃない~。智也君~、悠ちゃんはね~、アナタと話を合わせるために、特に興味もないオカルト関係の本を読んでいたのよ~? 健気よね~」


「ちょっ!? 亜美さん!?  それも内緒にしてくださいって言ったじゃないですかぁ~!!!」


 悠は顔を真っ赤にしながら、亜美さんに向かって叫ぶ。


(悠がオカルト本や番組を見ていたのは、俺のためだったのか……)


 そして、俺と目が合うと悠は恥ずかしくなったのか、すぐに下を向いてしまった。


(くっそ! 一々反応が可愛いな! 元男じゃ無かったら、今すぐ抱き締めているところだぞ!)


 俺は心の中で激しく葛藤してから、平静を装いながら亜美さんに先程の質問の続きを行う。


「俺が聞きたいのは、亜美さんが宇宙人かどうかということですよ!?」


「ん? ああ、そう言うことね。ええ、宇宙人よ。でも、私から言わせれば、アナタ達だって、宇宙人よ?」


 亜美さんはあっさりと自分が宇宙人だと言うことを暴露した。

 俺はあまりの衝撃に開いた口が塞がらない。そして、やっと出た言葉がいつものこれだった。


「ええぇぇぇぇぇ!!!」


 俺が驚く姿を見て、亜美さんは真剣な表情でこう続けた。


「まあ、驚くわよね。でも、考えてみて。この広大な宇宙に知的生命体が人間だけだと考えるのは、傲慢というものよ?」


 そんな事は、アトランティスを読んでいる俺には、亜美さんに言われるまでもなく解っている事だ。


「俺が驚いたのは、亜美さんが宇宙人だったからですよ!」


 俺は正直な気持ちを伝える。

 すると、亜美さんは一瞬キョトンとしたが、すぐに笑い始めた。


「アハハ! そうよね! 確かに私が宇宙人だと知らなかったら、普通は驚くわよね」


 亜美さんはひとしきり笑うと、再び悠の事を話し出す。

 ※ここからは、三人称視点です


 宇宙船にはねられた重症の悠を、亜美は宇宙船の機能であるトラクタービームで船内に回収すると、すぐさまマザーシップに連れ帰ると医療カプセルに放り込む。


「ふぅ~ 何とか間に合ったわ~。これで最悪の事態は免れたわね…」


 亜美は額の汗を拭う仕草をしながら、そう呟く。そして、悠が入っている医療カプセルを眺めながら、今後の方針を考えることにした。


「とはいえ…… これは…… 」


 亜美は目の前にある悠の容態を見て、思わず絶句する。何故なら、悠の体は激しく損壊しており、もはや“悠だったモノ”という方が正しい。


 それはそうだ。宇宙船にはねられたのだから……

 しかし、亜美はすぐに頭を切り替えると、今後の方針を決めていく。


 悠が意識を覚ますとそこは真っ暗であった。というか、身体の感覚もない。

 ただ真っ暗闇の中に漂っているような感じだ。


(あれ? ここはどこだろう?)


 悠は自分の置かれている状況がよく理解出来ていないようだ。そして、しばらく考えると、ようやく自分の置かれた状況を思い出したらしい。


(そうだ…。確か智也のことを考えながら、散歩していたんだ…。それで、急に後ろから凄く眩しい光が、物凄い勢いで近づいてきて… 全身に衝撃を受けた所で記憶がないや……)


 そこまで思い出すと、悠は慌てて大声で叫ぶ。


「誰か~! 聞こえますか~! ここが何処でボクがどうなったか知りませんか~!」


 だが、何の反応は帰ってこない。


「ダメだ…… 誰もいないみたいだ…… どうしよう…… 智也…… 会いたいよ……」


 悠が不安に押し潰されそうになったその時、若い女性の声が聞こえてくる。


「ごめんね~。作業中だったから、返事できなくて…。どうやら、意識が戻ったようね。よかったわ~」


 声の主は亜美で、悠は返事が帰ってきたので、安心してホッとする。


「えっと~、貴女は誰ですか? というより、ボクは何でこんな所にいるんですか?」


 悠は現状が把握できていないようで、疑問を次々と口にしていく。


「あの~ さっきから何も見えないし、体の感覚が無いんですけど…… 何故かわかりますか~?」


 すると、その質問に亜美がおずおずと答え始める。


「それは… その… 君は不幸な事故に遭ってしまって… その… 今は… 脳だけの状態なの………… ホント、すみません! ホント、すみません!!」


 亜美が悠の脳だけが浮かぶ医療カプセルの前で、一人何度も土下座するその光景はとてもシュールであった。


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