第2話 帰ってきた幼馴染(♀)
悠が引っ越して2年―
俺
引っ越してから3ヶ月は悠と電話で通話していたが、そこからはメールやコミュニケーションアプリでのやり取りになってしまった。
まあ、悠にも向こうで出来た友達との付き合いがあるから仕方がないのだが、14年間一緒に過ごしていた幼馴染と距離が出来てしまった感じがして、少し寂しさを感じてしまう。
だが、あの日… アイツの告白を断った俺がそんな事を言う資格はない。
そのような事を考えながら、学校の通路を歩いていると目の前から悠の元彼女<
彼女は俺を見つけると「げっ…」という不愉快そうな表情を浮かべ、足早に立ち去ろうとする。青井さんは、悠と別れてからずっとこんな調子だ。
それもしかたがない。彼女からすれば、悠と別れた原因は俺であり、謂わば自分の彼氏を男に【NTR】た訳で、彼女が俺に良い感情を持つわけがないのだから。
なので、俺からも通り過ぎる彼女に声を掛けることはなかった。
因みに噂で聞いたことであるが、NTRて脳が破壊された青井さんは二次元に逃げて、隠れヲタになったらしい。まあ、あくまでウワサである。
そして、その日の帰り道……
いつものように自宅へと帰ろうと下校していると、俺の携帯にメールの着信が入った。
(誰だ…?)
画面を見るとそこには<悠>と表示されており、俺は慌てて内容を確認する。
<町に帰ってきました。あの公園で待っています 悠>
そう書かれた文面を見た瞬間、俺は駆け出していた。
(悠…!)
俺は息切れしながら、町の外れの高台にある小さな公園を目指す
それは帰ってきた親友と再会したいからで、決してBL的なものではない。
あの日以来、悠との思い出があるあの公園には一度も行っていなかった。
行けば嫌でもアイツとの思い出を… 特に最後に告白された思い出が蘇ってしまうから。
(早く会いたい…… 悠に!!)
俺は胸の高鳴りを抑えつつ走り続ける。
「この気持は決してBL的なモノではない!」と大事な事なので2回言っておく。
そして、息を切らせながら辿り着いた公園に悠の姿はなかった。
「悠……?」
不安になり辺りを見回すが、やはり悠の姿は見当たらない。
その代わりに、町の景色が見える展望デッキの柵の前に細身の少女が立っており、後ろで束ねた亜麻布色の髪とスカートを風で揺らしながら佇んでいる。
(あの
俺は少女に近づくと、その背中に向かって声をかける。
「あの~ すみません」
すると、少女は驚いたように肩を大きく震わせて振り返ると、俺の顔を見た途端に安堵の笑みを浮かべる。
まるで俺が来てくれると信じていたかのように……。
俺はその少女の顔を見た瞬間、「悠なのか?」と言いそうになったが、何とかその言葉を飲み込む。何故なら、目の前に立つ少女は悠にそっくりではあるが、アイツは【男】で目の前の子は明らかに女の子だ。
悠も中性的でどちらかと言えば女の子顔であったが、目の前の少女はその悠よりも更に女の子っぽい顔と声をしていて、正直…… 可愛い……
俺が戸惑っていると、悠に似た少女は口を開く。
「どうしたの、智也? そんな目を見開いた解りやすい表情で、驚いて……」
すると、少女は悪戯っ子のような笑顔を浮かべて言葉を続ける。
「あ~、わかった~! この2年間でボクが可愛い美少女に成長していたから、びっくりしたんだね♪」
「……」
「もう、何黙ってるの? そこは、“自分で美少女とか言うな!”って、突っ込むところでしょう?」
「……」
事態が飲み込めずに言葉が出ない俺に対して、悠(?)はひとりボケツッコミを行う。
俺が混乱して呆然と立ち尽くしていると、悠(?)は微笑みながら一方的な会話を続けてくる。
「あ~ 今度こそ解ったよ。ボクがこんなに女の子らしく成長するなら、2年前に告白された時に、”オマエみたいな男女とは付き合えない“って、断ったことを後悔しているんでしょう?」
(あれ? 俺そんな断り方してないぞ…?)
俺は悠(?)の言葉に更に混乱する。
そもそもこの娘が悠だということが飲み込めていないのに、そこに過去改変を加えられますます訳が解らなくなる。
そんな俺にお構いなしに、話し続ける悠。
「でも残念! 覆水盆に返らず。今更ボクと付き合いって言っても遅いからね?」
彼女は一方的にそう言い放って“ざまぁ”すると、俺に背を向ける。
「……」
「……」
お互い沈黙したまま動かない。
それはそうだ。俺はまだ混乱中で”ざまぁ”に反応することも話す余裕も無かったからだ。
俺に背中を見せている悠(?)は、沈黙を続ける俺を横目でチラチラ見ながら、反応を窺っていたがノーリアクションの俺についに痺れを切らしたのかこちらに振り向く。
そして、困ったような声で焦りながら、俺に訴えかけてくる。
「嘘! 嘘! 今でもボクは智也のこと大好きだから! 付き合いたいから! ううん、むしろ結婚したい!!」
「はっ!? 結婚って何言っているんだ!?」
悠(?)の口から飛び出してきた衝撃発言に俺は驚き、思わず声を上げる。
その大声に悠(?)はビクッと身体を震わせると、頬を染めながらモジモジとし始める。
そして、恥ずかしそうに上目遣いで俺を見ながら、小さな声で呟いた。
「……ホントだよ……///」
その姿を見た俺は胸を撃ち抜かれたかのような感覚を覚えて、思わず悠(?)を抱きしめそうになるが“グッ”と堪える。
そもそも本当に彼女が悠なのか解らないからだ。
悠は【男】だ、これは間違いない。小さい時に一緒に風呂に入った時に確認している。
では、この目の前で顔を赤くしながら、俺のことを上目遣いで見つめてくる、この可愛い少女は何者なんだ?
見た目も声も悠を女の子にしたら、こうなるのであろうというほど似ており、双子の妹ですと言われたほうがまだ納得できる。だが、悠は【一人っ子】なのでそれはありえない。
そうなると、今の俺に考えられる結論は5つ。
1.悠が女装している。
2.彼女が悠の名を語っている。理由は追って思考する
3.俺が知らない間に、【悠が女の子の世界線(平行世界)】に来てしまった。
4.俺が知らないだけで、悠には双子の妹もしくは姉がいた。
5.夢オチ
俺はまず5を試すために、自分の頬を叩いてみる。
二人だけの公園に、パチン! という音が響き渡る。
「痛い…」
どうやら、夢ではないようだ。
「どっ どうしたの!? 突然自分を叩いて!?」
俺の突然の奇行に、悠(?)は驚いて心配してくる。
だが、この痛みのおかげで少し冷静になることが出来き、俺は一つの結論を導き出す。
(冷静に考えたら、【1】じゃないか!!!)
「智也!? 大丈夫!? 頭おかしくなったの? それとも、ストレスか何か? 救急車呼ぶ?」
俺がいきなり自分を叩いた理由が解らず、オロオロしてそんな俺を心配している目の前の悠は、少なくとも内面は俺の知っている悠だからだ。
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