いい魔女のはなし
雪うさぎ
第1話
「魔法を教えてあげる」
それは幼い少女にとって、なんとも魅力的な言葉でした。
「魔女さん、本当の名前はなんていうの」
「ひみつ」
「魔女さんはどこに住んでるの」
「ひみつ」
「どうして魔法が使えるの」
「ひみつ」
少女が何を訊いても、魔女は教えてくれませんでした。
ただ、毎日、毎日。魔法の使い方だけを丁寧に教えてくれました。
少女は魔女を『魔女さん』と。
魔女は少女を『ひよっこちゃん』と呼びました。
少女は魔女のことを何も知りません。
自分が住む小さな 小さな村に、魔女はいないということしか知りません。
何も分からないまま、いつしか少女は おとなになっていました。
「教える魔法は、これで最後なの」
その日、魔女は心なしか嬉しそうな表情で言いました。
「一番難しいから、今までに覚えたこと、全部使うんだ」
魔女は、一つの呪文を少女に教えました。
「さあ、今のひよっこちゃんならできるはず。私に魔法をかけてみて」
「魔女さん」
「なあに?」
「これ、なんの魔法なの」
二人の間に吹いた柔らかな風は、木々をそっと揺らしてから
またどこかへ去りました。
出会った日と比べ ずいぶんと大きくなった教え子に、魔女は優しく目を細め、答えます。
「不老不死になる魔法」
少女は、今日の朝に見つけた、古びた本の内容を思い出してみました。
自分の家にあるボロボロの蔵で長い間眠っていたそれは、村の子供を襲う悪い魔女について書かれていたのでした。
「私に魔法をかけて」
「だめ。できないよ。魔法は、そんな風に使っちゃだめ」
少女の言葉を聞いた魔女の顔には、絶望の色が浮かんでいました。
「私が、どうして君に魔法を教えたか分かる?
今日の、この時のためよ。ひよっこちゃんに魔法をかけてもらうため」
願いが叶わないなら、もういいわ。
「魔女さん。待って」
少女の伸ばした手は空を切り、魔女の姿は消えました。
少女にはどうしても、本に書かれていた魔女が彼女だとは思えませんでした。
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