Ain't No Mountain High Enough-どんな山でも越えられる-

有明の藻塩

Ain't No Mountain High Enough-どんな山でも越えられる-

仕様楽曲『Ain't No Mountain High Enough』Marvin Gaye & Tammi Terrell

https://youtu.be/-C_3eYj-pOM


キャラクター


ヒューズ:

スラムの少年四人組。ここぞという時に頭が切れ、的確な判断が下せるリーダー的存在


ヨハン:

同上。腕っぷしに自信はないが、知識や観察眼の優れるブレーン的存在


ウェイド:

同上。タイマンでやらせたら一番だが、別に脳筋ではない。ちょっとやそっとでは動揺しない強い胆力を持つ仲間想い。映画版ジャイアン的存在


ハッピー:

同上。知識と腕っぷしだけならヨハンとウェイドにそれぞれ劣るが、罠や悪知恵を考えるのは得意。コメディリリーフ的存在


バーンズ:

ギャング【BCファミリー】のリーダー格。Bの方。ヒューズたちを

カルッツォ:

同上。Cの方。あんまり出番はない

レイベン:

BCファミリーではバーンズの右腕的な地位。自分で部下を動かせるくらいは偉い。



ウェイド「...おっせえなヒューズのやろう」


ハッピー「まあまあ、時間にゃなってないんだし気長に待ちましょーや。あと30秒だけど......フフッ」


ヨハン「今日こそは絶対遅れる...! 間違いないさ、今までの負け分...いくらだったか忘れたけどついに取り戻せる!」


ハッピー「え~...本日迄の三人分の総額でジャスト78ドル! そして所定の時刻はまさに...今!」


ヒューズ「よっ、待たせて悪りぃ、全員集合か?」


ウェイド「遅刻だコラァ! 78ドル3倍にして払えぇ!!」

ヨハン「今日という今日は言い逃れできるもんか! 占めて234ドルの支払いは君が決めた賭けのルールだ」

ヒューズ「いやいや、とりあえず落ち着けってお前ら、なんか勘違いしてるぞ」

ヨハン「え、だってついさっき12時だって」


ヒューズ「じゃあ質問、今日一人でも正午の鐘を聞いたやつは?」

ハッピー「あ...」


(鐘の音)


ヒューズ「はっはっは!! じゃ、そういうことで、ツケとくかんな」


ウェイド「ちっくしょうがよお...! おいボケっとしてんじゃねえ次行くぞ次ィ!」


ハッピー「正直俺はもう負けた気でいるよ...遅刻の一点張りだったからな、お宝もしょぼいもんさ」


ウェイド「いいから見せろって、ん~...? ジーンズか、ふ~む......わからん」


ハッピー「まあ......正直俺もよく知らんし。どうなんだ見立ては?」


ヒューズ「惜しいんだよなぁ~、ブランドのロゴとかありゃあワンチャンあるけど...これ3つで全部だろ?」

ハッピー「ああ」


ヒューズ「じゃあ10ドルだ、生地はむしろバラした方が良いかもな」


ハッピー「うへぇ~...俺絶対ワーストだって~~」


ヨハン「諦めるのは早いって、勝負は最後まで分からない。そうだろ、ウェイド?」

ウェイド「そりゃどういうつもりで言ってんだヨハン・ヨハネ・ヨーグルト四世!!」


ヨハン「なにそのY攻め、ヨーグルトは絶対違うだろ」


ヒューズ「早く見せろってほら。なになに... ほぉ~、時計か!」


ウェイド「イグザクトリー! これは結構行くだろぉ? 何しろこの輝きは他では見れぬ美しさをもって──」

ヒューズ「ガラス細工だな、うん」


ハッピー「よっしゃあ!」

ウェイド「クソがぁ!」


ヨハン「そりゃ宝石付きの時計が捨てられてるわけないって...これじゃあいいとこ5ドルだよ」


ウェイド「いや、おんなじのあるから合わせて10だな。......っかぁ~!! つまんね~~っ!!!」


ヒューズ「さぁて、見せてもらおうかヨハン。お前は、またいつものあれか?」


ヨハン「ああ、今日はだいぶいい感じさ。はいこれ、さっき量って2グラムだった」


ヒューズ「上々~! 今の相場なら7...いや、80ドルは行くだろうよ」

ウェイド「80!? マジかよ!? 量こんだけだぞ!?」


ハッピー「毎度思うけど砂金はチートじみてるだろよぉ~! これヨハンに勝てる奴いねえって~!」


ヒューズ「占めて合計が100ドルジャスト! こりゃあ丁度良く分けられるな」


ハッピー「ん? 計算おかしくね? 100ドルを“三人で”割るんだよなぁ...!?? 丁度いいってどこがだぁ...!?」


ヒューズ「あぁ~...そうだったなぁ~...まだ俺のお宝は見せてなかったんだっけかぁ~...」


ウェイド「もったいぶってねえでとっとと出しやがれオラ」


ヒューズ「言っとくが、こいつに値段は付けらんねえぞ...お前ら全員納得するはずだ」


──ゴトン


ヨハン「う、嘘でしょ...これって、本物...!?」


ハッピー「デザートイーグル...50アクションエキスプレス...!」


ヒューズ「それだけじゃぁねえ、見ろよこのクソダササイン...」


ウェイド「アルファベットのC...って、お前それカルッツォ! ジャスティン・カルッツォじゃねえか!」


ハッピー「B/Cファミリーの!? まっ...おい! バーンズのは!? バーンズはねえのか!?」


ヒューズ「流石にリーダー二人ともからパクれるわけねえだろ! けど、ここにあるのは正真正銘──ジャスティン・ファッキン・カルッツォ──奴の物だ」


ヨハン「ぶったまげたよ...これは、うん...僕のなんて足元にも及ばない...参ったヒューズ、君が優勝だよ...」


ハッピー「っつーかどうやってパクったんだよ、道端に落ちてたわけでもねえだろに...?」


ヒューズ「これはまぁ~...聞くも哀れ、語るも哀れなわけがあってだな。あの野郎の行きつけのバーで昨日、ゴミ出しを任されたんだよ。そしたら──」

ウェイド「おいテメェバイトしてんじゃねえか! 俺たちの間でルール違反だろ!」


ヒューズ「ンだよ細けえなぁ、その日だけだしノーカンにしろよ。そんでだ──ふと、魔が刺したんだよ。もしも、俺がこっそりカウンターの酒を入れ替えたら...どうなんのかな~って」

ハッピー「ほほう、いいねぇ~...!」


ヒューズ「そう思い立ったら...チャンスは目の前にあるじゃねえか、ならやるしかねえだろ?  まずはアイスティーとウイスキーを替えて2杯、さらにビールをテキーラ割りでジョッキ3杯、とどめはチェイサー代わりのウォッカ6杯でノックアウトよ! あとはまあお察し、無防備の腰元からチップを弾んでもらったとさ」


ウェイド「ったくヒューズ、お前ってやつは......最高かよ!! よくやりやがった! 今日だけはお前に敬意を表してもいいぜ、将軍閣下」


ヒューズ「いやまさか、自分でもこれほど簡単に行くとは思わねえもんだ。仮にも表向きは一人前のギャングがよ、あっさりタマも竿も取られやがって、スラムのガキの悪戯でだぜ?」


ヨハン「カルッツォにもしもまだ面子を考える頭があれば、とてもじゃないけどこんな醜態人には言えないね。今頃ゲロ吐いてでも探し回ってるよ」


ハッピー「違いねえよ! ハハハハハハ!!」


ヒューズ「さ〜てと、あとはこいつをどうするかだよな。愛しきイーグルよぉ〜...」


ウェイド「何が愛しきだ気持ち悪ィな、戦利品だからって自慢しやがってよぉ。さっさと服ん中にでもしまわねえと、どこぞの

間抜けギャングの二の舞だぜ?」


ヨハン「まあまあ、今日ぐらいはいいだろ? どうせ自分の立場だったらみんな同じことするって」


ハッピー「いや、俺なら売るね。こんだけの曰く付き、盗むのはもちろん手元に置くのも心臓に悪りぃよ...!」


ヒューズ「帰ってケチ臭え考えだなそりゃ、売っ払うのとコレクションすんのじゃ付加価値ってもんが違うんだよ、こんなんせいぜい1500ドルが限界だぞ」


ウェイド「テメエみたいなやつほど安く買い叩かれて高く売りつけられんだよ、どっちにしたってふさわしくねえな」


ハッピー「なんだよさっきから言いたい放題ィ! 別に良いし~! 俺は自力で稼いでやるし~! ってわけで秘密の場所を教えていただけますでしょうかヨハン教授」


ヨハン「自力って自分で言ったの忘れた? あと鉱山の場所は死ぬまで秘密だって言ってるだろ。知りたきゃ墓場で教えるけどね」


ハッピー「クッソォ~!! 血も涙もないのかお前ェらは!! 明日には絶対吠え面かかせてやるから覚悟しやがれよ!! じゃあな!」


ウェイド「オウ! 走りながらだと小物っぽさが増して見えるぜ〜!!」

(ハッピー「ファァァァック!!」)


ヨハン「じゃあ僕もここらで、そろそろ畑の時間だから」


ヒューズ「ああ、俺はマスターに未払いの分をせびりに行きますかねっ..と」



ヒューズ「...~come and get your love come and get your love come and get your love now♪ 

come and get your love come and get your love come and get your love now フッフ~♪

come and ge──あいてっ ......ったく誰だよオイ......」


カルッツォ「...よォ、奇遇じゃねえかクソガキ」


ヒューズ「──あぁ...確かに、珍しい出会いだ...Mr.カルッツォ」

カルッツォ「ミスターだぁ? 随分礼儀正しいじゃねえかよ、スラムだぜ?」

ヒューズ「...どこであろうと大切なことだろう、礼節ってのは人の基本だ」

カルッツォ「ふ〜ん...なるほどごもっともだ。相手は誰でも超えちゃいけねえ一線はある、例えば...人のものを借りたまま返さない、とかなぁ?」

ヒューズ「なんだ、ギャングの割には可愛い一線だな」


カルッツォ「そうでもねェさ、ものによっては許されない時だってあるんだぜ? スラムのガキが、ギャング様のモンを盗みやがったりしたら特になぁ...」

ヒューズ「なんのことだか」

カルッツォ「とぼけてられんのは今のうちだって言ってんだよ。罪より罰が軽い方がまだいいだろ?」

ヒューズ「悪いが心当たりは何もねえ」

カルッツォ「テメェになくとも俺にはある。あるいは俺の...銃のグリップにもある、かもな...」

ヒューズ「だとしたら、そいつがどうやって喋るんだ? ただの塊が犯人を教えてくれるってのかよ」


カルッツォ「そうであったら嬉しいが...そうじゃねえから聞いてんだよ、ヒューズ。な、俺に質問に答えるだけだ、簡単だろ? ──俺の銃を盗んだやつは誰だって聞いてんだよ」


ヒューズ「......知らねえな。嘘偽りない本心だ、アンタの銃とは面識がねぇ」


カルッツォ「ヘェ~......それがマジに正直な答えなら、俺はお前を信じるぜヒューズ。よく言ってくれた、あとは残りの三人を殺しゃいいんだ」


ヒューズ「──は? オイなんつった今」


カルッツォ「だから殺すっつったんだよ。昨日バーにいたやつに聞いたら、テメェくらいの歳と背格好のやつが俺の銃を盗ったのを見たっつったんだ。お前が違うってんなら、残る候補はハッピー、ウェイド──それにヨハン。この三人しかいねえだろ?」


ヒューズ「ギャング様ともあろうもんが、随分極端な手段に出んだな? ガキ相手に殺すなんて軽く使うもんじゃねえぞ」


カルッツォ「ギャングだからこそ、舐められたら容赦しねえのが常識だろ? あいつらは殺されても仕方がねえことをした、それだけだ」


ヒューズ「銃は手元にねえんだろ?」


カルッツォ「安心しろよ、殺し方ならいくらでもある。ナイフがいいか? 屋根から落とすか? それとも勝手に首吊ってるかもしんねぇな。ハハッ!」

ヒューズ「そうじゃねえよクソボケが。ダッセェ銃すらないテメェを誰がギャングだと認めんのかって話だよ...!」


カルッツォ「オイオイオイ...! せっかく命拾いしたってのに口の悪りィ野郎だな、テメェの命もアイツらの命も握ってんのは俺だってこと忘れたかヒューズ!」


ヒューズ「テメェこそメンツと命(タマ)が誰に握られてんのか言ってみろよ! 去勢済みの駄馬がイキんのか!? あぁ!?」


カルッツォ「そうカッとなるとこがガキなんだよ...! テメェ一人でBCファミリー敵に回すのがどんだけのバカなのか、後悔できる時間はもうねえんだぞ!!」


ヒューズ「俺の後悔よりもこいつの長さよりも、テメェの寿命と竿の方がよっぽど短いだろうがよぉ!!」

カルッツォ「テメェがソイツを握ってんじゃねえ! うすぎたねえ血のクソガキがァァァ!!」




ヒューズ「ハァ...ハァ......! オイ...死んだかよ......」


ヒューズ「答えてみろよファッキン・カルッツォ...!」


ヒューズ「なぁオイ、無様な話だと思わねえか? 年下のガキに、舐められて、潰されて、挙句の果てそいつに詰め寄って脅したが最後、自前の銃で殺されるってよ。ギャングのしていい死に様じゃねえだろに、ほんっと情けねえなテメェは......」


ヒューズ「そうだ、黙ってりゃよかったんだよ......何もしねぇで、テメェがただの負け犬のまんまでいたんなら......引き際をわきまえられる野郎なら、こんなことにはならなかったんだ......」


ヒューズ「なのにテメェは来やがった。わざわざ、バカな死に方をするためだけに......自業自得も極まりねェ......」


ヒューズ「ハハッ...ハハハハ......ハァ、あ~あ。──チッ...あ~~......

――ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!! クッッッ...ソがよォ!!!」


ヒューズ「っザけんじゃねえよカス野郎!!! 全部テメェのせいだろうが!! 迷惑だけ残して逝ってんじゃねえよ!! 死にてぇんなら勝手に死にやがれ!!!」



ヒューズ「─―燃やすか......いやダメだ、煙が目立つ。食わせるか...? いや運べねぇ、クソッ......結局埋めるしかねえじゃねえか......一人で面倒くせえこと押し付けやがってよぉ......まあ、やるしかねえか」


ヨハン「素手じゃ大変だろ、スコップ要る?」


ヒューズ「あぁ、そりゃ便利だ――って、おま! なんでここっ...! ってかいつから!?」


ヨハン「銃声の辺りから」


ヒューズ「じゃあ、ことのあらましってのは......」


ヨハン「まぁ~、大体わかるかな。独り言は全部聞こえてたしね」


ヒューズ「そうか......なら、ヨハン。一つだけ頼みがある」


ヨハン「手伝いなら高くつくよ?」


ヒューズ「違う、聞いてくれ。――お前は、この件から手を引いてくれ。ここで見たこと、聞いたこと、一切忘れてくれ」


ヨハン「無理だよ、ハッピーじゃあるまいし。見ちゃったからには手伝わせてよ」


ヒューズ「忘れろっつっただろ、これは俺がしたこと。お前は徹頭徹尾無関係だ、分かったらとっとと帰れ」


ヨハン「嫌だ。帰らないよ、君の言うことは納得できない」


ヒューズ「いいから帰れって言ってんだ! ガキの遊びじゃねえんだ!! 俺はギャングを殺したんだぞ!! ファミリーのやつらは俺を絶対に許しはしねえ! 事の重大さが分かんねえのか!?」


ヨハン「君こそ自分がどれだけちっぽけか分からないのか!? 君一人でBCファミリーの相手になるわけがない!! 所詮スラムのガキに何ができる!! 惨めに殺されるのが関の山だろ!」


ヒューズ「ならここでじっと居座って、黙って殺されるのを待てってのかよ!! 俺がここにいたらお前らも狙われるんだぞ! 俺のせいでお前らが殺されるんだ!! 俺一人の命で済むなら、それが最善策だろうが!!」


ヨハン「甘すぎるんだよ考えが! 君はただ、自分の犠牲で仲間を救った気になってるだけだ! それは無力で無意味で無責任な犠牲に過ぎない!! 僕らが問い詰められたときに、無関係でしたで見逃してくれると思うのか!?」


ヒューズ「それはっ......!」


ヨハン「もっとも、残った僕らがなりふり構わず逃げまくれば、いくつか助かる命だってあると思うさ。けど、僕らの内誰かを囮にするなんて、そんなことしたくはない。――仲間だからだ」


ヒューズ「仲、間......」


ヨハン「いつも一緒に生きてきただろ。...なのになんで、一人で行こうとするんだ。僕は怖くなんてない、傷つくときも死ぬときも、戦う時も、君といるなら怖くない...! 最後の最後まで、僕は君の仲間だよ」


ハッピー「その通り! ただし細けえこと一つ言わせてもらうと、『僕らは』だぜ? ヨハン」


ヒューズ「ハッピー...! お前まで...!」


ウェイド「ったくよぉ、銃声が既にうるせえってのにそれ以上騒がしくしてどうすんだよ。ちったあ周りも見やがれってんだ」


ハッピー「そういうわけでよ、もう全員集まっちまったんだし、開き直っていいんじゃねえか?」


ウェイド「言っとくが、この期に及んで誤魔化しでもしたら、俺がお前を殺す! 今俺が一番ムカついてんのはな、命賭けて決めた仲間の覚悟を見ねえ振りしてるその態度だ! 俺も、ヨハンも、ハッピーでさえも!」

ハッピー「俺でさえって何!?」


ウェイド「何もかも捨てて戦う覚悟は出来てんだよ! あとはお前が腹括るだけだ!」


ヒューズ「お前ら、本当にそれでいいのかよ......!?」


ヨハン「もちろん」

ハッピー「やってやろうじゃねえか」


ヒューズ「そうか......ハハッ、なっさけねえな、お前らに発破かけられるなんてよ。中途半端はやめだ、四人全員で――行くぞ」


ウェイド「ああ、上等だ...!! ......で、なにからすりゃいいの?」

ハッピー「そこ考えてなかったのかよ!」

ウェイド「ったりめえだろ! 完全にノリと勢いだわ! 俺にプランを期待すんなバカ!」


ヒューズ「だぁーもう、分かったよ。プランは俺に任せろ、まずはこの死体をどうにかする」


ヨハン「あっ、ショベル持ってこようか」


ヒューズ「いや、掘るのは時間がかかる。それよりも......よし、ここの隣の廃工場に土管の置き場がある。そのうちの適当な一つに入れて、土のうで蓋をする」


ハッピー「OK!」


ヨハン「その次はどうする?」


ヒューズ「ああ、ここが一番肝心なところだ。死体を隠した後、俺たちはこのスラムから逃げる。少なくとも、今日中には」


ハッピー「待ってました! そう来なくっちゃあ!」


ウェイド「お前のその感じだと、目的地も決めてるみてえだな。まあ、行くあてもないぶらり旅なわきゃねえだろうが」


ヒューズ「ああ、ここから西の方の山を二つ超えると街に出れる。俺の記憶が正しいなら、BCファミリーと敵対してるギャングチームの『ホッブズ』がそこにいる。そこへ入れば、あいつらも迂闊に手出しは出来なくなる」


ハッピー「なるほどォ...けどどうやって? それこそ、ホッブズなんてガキの集まりじゃねえマジのシティギャングじゃねえか。俺たちみてえなただのガキが頭下げたところで、仲間に入れてくれるような仲良し集団じゃねえだろ?」


ヒューズ「そういうと思ったよ、だからお前は取引が下手なんだって。...大事なのは、付加価値だって言ったろ?」


ウェイド「そうか、カルッツォの拳銃! 首の代わりに持ってくつもりか!」


ヨハン「確かに...敵対チームのリーダー格を倒したとなれば、手放したくは無い人材......あのクソダササインを知らないやつはいないよ」


ヒューズ「そういうことだ。ホッブズの本拠地まではこっから直線で50㎞、実際には山道もあるし二日はかかる。逆に言やあ、二日で着くんだ。俺たちがこのクソスラムから抜け出せる、またとないチャンスだ」


ウェイド「よし、じゃあカルッツォの死体は俺とヒューズで運ぶ。ハッピーとヨハン、お前らは掘った分の土を持ってこい」


ハッピー「おうよ、分かった」


ヨハン「しかし、一人じゃあんだけ悩んでた割には、ずいぶん立派なプランが湧くもんだね」


ヒューズ「――正直、自分でも気づいてたんだよ。最初っからこれ以上の選択なんてないってな」




ヨハン「ふんっ...! よし、これで最低限は隠せたかな」


ウェイド「ま、わざわざこんなとこまで探しに来るほど暇じゃねえだろ、あいつらも」


ヒューズ「確認だが、誰にも見られてねえよな?」


ヨハン「大丈夫なはずだ、結構短い時間で終わらせられたし」


ウェイド「んで、この後はどうすんだ? 準備もあるし、すぐにとはいかねえだろうが、できるだけ早く出発してえだろ」


ヒューズ「そうだな......いったん各自帰って、荷物を詰めたら6時までに集合だ。量は最低限でいい、二日だけとはいえ、ほぼ山登りだからな」


ハッピー「よしウェイド! お前あれ持って来いよ! 俺は先行ってるからな!」


ウェイド「おいテメェ抜け駆けかよ! ...ああそうだヒューズ、集合の場所はここと同じでいいか?」


ヒューズ「いや、死体と同じ場所にいるのはマズイ。昼と同じ秘密基地にしよう」


ハッピー「OK!! ウェイド、早くしろよ! 鍵持ってんのお前ェなんだからよ!」


ヨハン「じゃあ僕も...ちょっと気になることがあるから遅れると思う、時間には間に合う...はず」


ヒューズ「もしもん時は置いてくぞ、そこまでは面倒見切れねえ」


ヨハン「置いてかれたらついてくさ」



ヒューズ「ふう...これでこの町ともおさらばか。まあ、感慨なんてありゃしねえが」


ハッピー「ようヒューズ、流石にお前が一番早ぇか」


ヒューズ「おお、準備に不足はねえだろうな?」


ハッピー「モチのロンよ! 飯は缶詰と、あとライターに着替えくらいで...――最後にこいつだ」


ヒューズ「コルト...ガバメントか!? お前、こんなん持ってたのかよ! っていうかいつから!?」


ウェイド「そいつは半年くらい前だ、俺の親父の引き出しにあったのをパクって倉庫に隠してよ」


ヒューズ「ってことはまさか...お前もか? ウェイド」


ウェイド「生憎、そんなちんけなのと一緒にされたかねえな。ガバメントと比べりゃ雲泥の差だぜ? M500はよ」


ヒューズ「オイオイオイ...冗談じゃねえよ、俺のDEを霞ませる気かって...! それはそうと、本当に撃てんのかこれ?」


ウェイド「知らね。コレクターじゃあるまいし、持ち主はクソ親父だからな。ろくな保存もしてねえだろうから弾より頭が吹っ飛ぶかもな」


ハッピー「縁起でもねえこと言うなって...そんなこと言ったらオートマチックの方が怖えじゃねえかよぉ...!」


ヨハン「ハァ...! ハァ...! 遅れてごめん! まだ時間大丈夫だよな!?」


ウェイド「まだ五時だぜ? そんな急いで何があったよ」


ヨハン「さっきBCファミリーのやつらが話してるのを聞いたんだ! カルッツォが戻ってこないことをバーンズに怪しまれてる! ヒューズの行ってたバーが荒らされてたから、ひょっとしたらもう僕らは狙われてる!」


ヒューズ「クソッ!マジかよ、こんな早く動きやがるとは...!!」


ハッピー「じゃあモタモタしてられねえじゃねえか! 一刻も早く逃げねえと!」


ヨハン「今はダメだ! まだあいつらは僕らの家を探してる段階で、ここには来ない」


ウェイド「だからってここで時間潰してりゃ時間の問題じゃねえか!」


ヨハン「その『時間』が重要なんだ。僕が調べた情報が正しければ...あと数分で豪雨が来る。どうせ動くなら、視界の悪い中の方が見つかりにくい。あっ、あとこれ雨合羽ね」


ヒューズ「準備万端かよ、頼もしい野郎だ......そういや、ヨハン。お前銃持ってるか?」


ヨハン「へっ? いや、あるわけないけど...」


ヒューズ「だったら持っとけ。火力は期待できねえが、こいつは隠しやすいのが一番良い」


ヨハン「ワルサーPPKか...懐かしいな、モデルガンが昔あったんだ」


ウェイド「おい...! 降り始めてきたぞ、今がチャンスじゃねえのか!? どうするヨハン!」


ヨハン「僕は情報を伝えただけだ、決めるのは...君に任せるよヒューズ」


ヒューズ「......よし、絶対あいつらに見つかるなよ。大脱走と行こうじゃねえか!」





バーンズ「おい...どうなってんだよ、俺がてめえらに命令してから何時間経ってると思う。あの野郎を探し出せと、確かにそう言ったよなレイベン?」


レイベン「いや、その......カルッツォのことなんすけど......実はさっき、他のやつから死体で発見したっていう連絡があって......」


バーンズ「死体...? なにで殺された絞殺なら首の線があるはずだ、それか弾痕は...?」


レイベン「あ、頭に二つ...こいつがその薬きょうで......」


バーンズ「50アクション...! そうか、なるほど......あの野郎とんでもねえことしやがったな...!」


レイベン「ボ、ボス......? 一体だれがカルッツォを――」

バーンズ「ヒューズだ!! ダグラス・ヒューズ! あいつしかいねえ!!あいつを殺せ!! それから仲間の三人...ハッピーにヨハンにウェイドォ......!!! あいつら全員の首を持ってこい!!」


レイベン「あっ、ハッ、ハイ!! オイ、カルッツォのアニキがヒューズに殺された! 何人使ってもいいから探し出せ!! 家でも隠れ家でも畑ん中でも徹底的にだ!」


バーンズ「クソッ! 生ガキどもが舐めた真似しやがって...! ギャングに喧嘩売るってことがどんだけ重い罪か、思い知らせてやるよ!!」


ハッピー「ウェーイド...! どうだ、やれたか...!?」


ウェイド「あぁ!? 悪ぃ!雨音で全然聴き取れねえわ! とりあえず橋ならぶっ壊したぜ! これで追手もあれ以上は進めねえよ!」


ヒューズ「お前は逆にデカすぎんだよ声が...! まあ、もうほとんど雷雨みたいになっちまったしな。これなら普通に喋っても問題ねえだろう」


ヨハン「見てよあれ、こっからでもライトの明かりが見える......完全に総動員の捜索態勢だよ」


ウェイド「あと何分遅れてたら見つかってたか......想像するとゾッとすんな...!」


ヒューズ「まだ安心は出来ねえぞ。早いとこ山頂まで行かねえと、こんな崖ばっかりじゃあ寝床にする場所もねえ......」


ハッピー「分かってるって。ようやく外の世界に出れるんだ、ノロノロなんてしてられんねえのは全員同じだぜ。...むしろ、武者震いするくらいには逸る気持ちが抑えらんねえよ......!」


ヨハン「いや、このぬかるみで武者震いは酒落になんないからやめた方が良いと思う」


ウェイド「ってかお前さっきから足元危なっかしいんだよ」


ハッピー「あんま文句言うと突き落とすぞオメエら!」


ヒューズ「声でけえって!」



レイベン「ボス! ボス! ヒューズの野郎なんですが、どこ探しても見つからねえらしくて...! 俺たちの動きが嗅ぎつけられたか分かんねえすけど、隠れ家までもぬけの殻で!」


バーンズ「だろうなァ...! あいつのことだ、場合によっちゃもうこの町から出ててもおかしくはねぇ。問題は、どこを目指して進んでるかってことだ。それさえ分かりゃあ......――待てよ、今カルッツォの銃を持ってんのがヒューズってことは......まさかあの野郎...! 目的はホッブズか!」


レイベン「ホッブズに!? なら今すぐバイク出して全員山の方に向かわせりゃあ...! いや、でもこの雨ん中じゃ山道は......クソッ! オイ! 誰か動ける奴いるか! ヒューズは山を超えるつもりだ! 今すぐに徒歩で登る準備整えろ!!」


バーンズ「BCファミリーの名に懸けて、必ずあいつを見つけ出せ!! 夢も希望も削ぎ落して、絶望の中で死ぬ時が...テメェの最期だ、ダグラス・ヒューズ!!」


ヒューズ「ヨハン! 手ェ伸ばせ! お前で最後だ!!」


ウェイド「踏ん張れぇ!!」


ヨハン「ふんっ...! うああああ~っ!!」


ハッピー「ハァ...! ハァ...! マジで...これでっ...全員、山頂......!」


ウェイド「...ッハハハ! ハハハハハハ!!! ハッハッハッハ!! やったぞォ!! オイ!!!」


ヒューズ「ザマァ見やがれカルッツォ!!! ファッキン! ファッキン・カルッツォォ!!!! 」


ハッピー「&バ~~~~~~~ンズ!!! バンズ!バンズ!バンズ野郎ォ!! パティもつけてやろうかァ!!」


ヨハン「......ッ! FOOOOOOOOOOOO!!! これが!! 僕らの力だァ!! 僕らの仲間だァ!!!」


ヒューズ「ハハハ......! ――......Listen, baby~♪」


ヨハン「...Ain't no mountain high~♪」


ハッピー「Ain't no valley low!」


ウェイド「Ain't no river wide enough, baby~!」


ヒューズ「If you need me, call me! No matter where you are! No matter how far!」


ハッピー「Don't worry, baby~」


ウェイド「Just call my name I'll be there in a hurry You don't have to worry!」


ヨハン「'Cause, baby, there!」


『Ain't no mountain high enough!

 Ain't no valley low enough!

 Ain't no river wide enough!

 To keep me from getting to you~...!』



ハッピー「ふわぁ~~あ......なあ、今何キロぉ?」


ウェイド「知るわけねえだろ。こんな森のど真ん中に案内版があるかってんだ」


ヨハン「地形図通りなら、山はいったん下りたから少なくとも10キロくらいは進んでるはず――ぅおわっ!?」


ヒューズ「あっ、ぶねぇ...! 大丈夫かヨハン。お~い、ここの地面大分やべえから気ィつけろー」


ハッピー「まだあんのぉ!? もういい加減アスファルトとかになってもいいんじゃねえ~?」






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