我らがAIする異世界の国立学園都市であれば、元女神と厨二病と転生者がいても全くもって不思議じゃない。
清河ダイト
第1話
整備された高速道路。
制限速度が前の日本より速いのか、小田原に向かう高速道路をはしる黒塗りの車の窓から見える景色の流れが速い。
乗っている車輌は1世代前の物らしいが、水素で動いているという重厚な黒色で塗装された車は、ほとんど無音で振動もなく、乗り心地は抜群だ。
椅子のクッションはふかふかでもカチカチでも、反発が強いわけでもなくちょうど良い座り心地で、これなら何時間でも乗っていられる……だろう。
俺……
「ねぇ、まだつかないの? もう10分も経ってるのに何も見えてこないじゃない」
水のように透き通るほどの水色をした長い髪と同じく水色の瞳、整った顔とするっとしたスタイルはどこから見ても美少女で、もし俺がシスコンであったら間違いなく見とれているだろう。
だが幸い、おれはシスコンではない。
故に、今もこうして平然といられるのである。
「それはそうですよー。この東京と愛知県を繋ぐ東名高速道路は日本で最も設備が整い、安全な高速道路なんですよ!」
運転手である黒髪の女性職員、
「高速道路の天井は全て液晶板が貼られていて、時間帯によって魔法が発見される前で飛行機などしか飛んでいなかった頃の空や、それよりも昔の日本古来の空が映されているのです!」
「へぇ〜すっげぇ……!」
「それなんか意味あるの?」
大野さんは「そうですねー……」と空を見上げる。
だが、何かを話し始める前に俺の隣に座る白髪の幼女、アイチがビシッと人差し指を前に出す。
「魔素が生まれ、魔法が使えるようになったことでそれまで限られていた飛行手段が大幅に増えるかつ簡略化したぞよ。
けどそうしたら無許可で空港や公共道路の上空とかの飛行禁止エリアに侵入する者が後を絶たず、事故も多発したんぞよ。
だから政府は最初は法改正や厳罰化して事故の再発を防止しようとしたぞよけど、それでも事故が多発したぞよ。
それで結局「上を塞げば事故も起きない」ってなって高速道路上空に天井を張ることで事故を減らしたぞよ!」
得意そうに鼻を伸ばして喋るアイチは「ちなみに空港は上空を魔法禁止エリアとして、高価な魔法陣を貼ることで解決したらしいぞよ」と言って話を締めた。
「なるほどねー、それはいい仕事をしてくれたわ」
シュテルンが納得する一方で、セリフを取られた大野さんは悔しい表情をする。
「ぐぬぬ……全て言われた……」
「ふっふーん! みーに知識量で勝とうなど1000年早いぞよ〜!」
アイチは満足そうに腕を組み、椅子に深く座る。
「しっかしまじでアイチ物知りだな。
まあ俺らがこの世界を知らなさすぎるってのもあるだろうけど……」
そう、俺の隣に座る
その知識量は今のような社会的な物だけでなく、魔法に関してもこと細かく知っている。
ゆえに、最初はかなり警戒していたのだが──。
「……まだ、警戒するぞよか??」
「…………」
ニッコリ笑顔。
だが明らかな殺意を秘めている。
俺は数秒間の思考の末、引きつった笑顔で答える。
「い、いぃやー? け、警戒だなんてそんなわけないだろー?」
「みー、可愛いぞよー? だから警戒なんてする必要ないぞよね〜??」
「…………」
再び俺は言葉を詰まらせる。
この質問、答え方は2つに分けられる。
1つは「そーだな! アイチは可愛いぞー!」と肯定すること。
もう1つは「いや! 俺はロリコンじゃないし別に可愛くないぞー!」とロリコンと共に否定すること。
1つ目はおそらくアイチが聞きたいであろう答えであり、みぞおちを殴られることは無いだろう。
だが、この言葉を言ってしまった瞬間、俺は皆にロリコン認定されてしまう。
それは絶対に嫌だ。
そのため2つ目は皆に俺がロリコンではないことを否定でき、目線も痛くない。
だが、こんどはアイチが求めていないだろう言葉だろうから、みぞおちを殴られてしまうだろう。
物理的に痛いのも嫌だ。
──さて、どうしたものか……。
この考えている時間にも危機が迫っている。
早くしないと徐々に近ずきつつあるアイチが、いつ右手を振り上げてもおかしくない。
残す時間は余裕もっても数秒。
──……やるしかない……っ!
俺は意を決し、息を吸う。
そして──。
「……べ、別に可愛くないぞっ!!」
そうこれは肯定も否定もしていない、つまり中立的な立場を取ったわけだ。
これならアイチからの攻撃も、みんなからの評価も最低限で済むはずだ。
──さあどうだ……っ!!
「…………ツンデレ」
「………へ?」
大野さんが呟いた。
「…………ロリコン」
「ちょ……」
シュテルンが呟いた。
「…………」
「……あ、アイチ……?」
アイチはそれまで殺意のこもった笑顔を消し、こんどこそ殺意をむき出しにした目で睨んでくる。
「──ロリじゃないぞよ……」
「っ……!?」
──あぁ、これは……。
どうやら完全にアイチを怒らせてしまったらしい。
「みーは、ロリじゃ! ないっ!! ぞよぉ!!」
「ウグェッ…………!!!!」
アイチの怒りに任せた渾身の一撃は、見事に俺のみぞおちに向けて振られた。
──────────
施設所有の駐車場に停車し、車から降りた俺は圧巻の光景に立ち尽くした。
「こりゃぁ、すっげぇ……!?」
一悶着あったがあれ以降はとくに騒動は無く、10分も経たずに目的地、小田原についた。
そして今視界の先には、俺の想像を遥かに超える情景が広がっていた。
まず中央を通る道路は、片面三車線で上空には同様に光の線が通っており、地上では車が、上空ではほうきや空を飛ぶ車が通っている。
さらに路面電車やアストラムラインも通っており、広い歩道の所々には地下への階段らしき物も見え、どうやら地下鉄も通っているのであろう。
まさに化学と魔法が発展したこの世界で実現可能な交通手段を詰めたような街。
だがこれだけではない。
碁盤のように規則正しく区切られた区画の中には、幾つもの高層ビルが立ち並んでいる。
そして街の中心には、他のビルよりも圧倒的に大きく、さすがに東京にあった都心バベレルタワー程ではないが圧倒的な存在感を持ったタワーがそびえ立っている。
よくもまあこんな壮大な街を造れたものだ。
これだけの規模の街を造ろうとしたら、それこそ国家予算が一瞬で尽きてしまうだろう。
「トオル! なにぼーっと突っ立ってんのよ。置いてくわよ!」
俺が圧巻の光景に見とれていると、シュテルン達はもう先に行っていた。
「ちょ、ちょま……、おまえらこれ見て驚かねぇの!?」
「天界の方がすごいわよ」
「あー……なるほど」
「私は見慣れてますからね〜」
「……たしかに」
「高いだけぞよ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
なんだろう、すごい価値観の違いを感じる……。
「そんなに見ていたいならずっとそこにいれば? 置いてくから」
「わ、わかったって」
駆け足でシュテルン達の元へ行く。
「それでは私に着いてきてください! これより、大東亜連邦国日本国家州立、
大野さんが何故か「転生者案内」と書かれた旗をヒラヒラと振って、意気揚々とアストラムラインに向かっていく。
それに俺たちはついて行き、改札を通るのを少し苦戦しつつもアストラムラインに乗車した。
アストラムラインはゴムタイヤによる衝撃吸収によって乗り心地が良い。
そしてビルの間を通うアストラムラインの中からの景色は、中央道路の横幅が大きいおかげで窓からの景色がよく見える。
20分ほど経っただろうか、大野さんはアストラムラインを降りた俺たちを連れて、こんどは地下鉄に乗り、こんどは10分程で降り、地上に上がった。
「ここが目的地の開成学園の寮です。」
寮もやはり高層ビルのようで、かなりの高さだ。
しかし他のビルと違って、階層ごとにベランダがあったり、さらにどれだけ小さく見積もっても、横の幅が50メートル近くあるんじゃないだろうかと思うほどのサイズ感がある。
「おー! これが寮か……!」
「でっかーいぞよ!」
「休められるならなんでもいいわ」
「この寮の棟は小田原学園県でも1番大きい種類でして、冷房暖房風呂布団ベットテレビ……あんまりに設備が整いすぎてて「自宅より快適!」だなんて言われる事もしばしば、五ツ星ホテルならぬ五ツ星寮なのです!」
「やった言えた!」と案内役の務めを果たせて嬉しいのか喜ぶ大野さん。
すると、もうクタクタだと言わんばかりに腰を曲げ、方を落としたシュテルンが大野さんに問いかける。
「それで、どこよ私の部屋は……。」
「あ、そうそう。この寮は一人一部屋の個室制じゃなくて、仲間の絆を重視する為に四人一部屋の寮なんですよ。」
「え? それってどういう……」
シュテルンは何か嫌な予感を感じ取ったのか身を強ばらせる。
そんな様子に、大野さんは不気味な笑みを浮かべて言った。
「まあ、誰がどの部屋になるのかは学園側が決めることですので!!」
「あっまさか……!?」
学園側が決める。その言葉の意図に気がついたシュテルンをよそに、大野さんは「それじゃ寮監の先生に挨拶しに行きますよー」と寮の中に入っていった。
「ど、どうしたんだ……? 別になんの問題もないだろうに」
「もー、トールは察しが悪いぞよねー」
「え、どゆこと?」
四人一部屋と言っても、男子生徒と女子生徒は分けられるのが筋のはずだ。
おそらくシュテルンや大野さんは俺たちが同じ部屋になる可能性を言っているのだろう。
しかしそのような事態には絶対にならない。
だからあんなにも慌てる必要も無いのではないか?
頭を傾げる俺に、アイチは呆れたように肩を落とす。
「まあ行ったらわかることぞよ」
──────────
寮監の先生に挨拶を終え、部屋番号を渡された俺は、エレベーターで7階のハ702号室に向かった。
「なるほどな……」
部屋の前に立った俺は理解した。
なぜあんなにもシュテルンが慌てていたのかを。
──────────
「……ぐすっ……やっぱり同じ部屋じゃないの……」
本当に嫌で嫌で仕方なかったのか、シュテルンは涙を流す。
「そ、そんな泣くほどか? たしかに驚いたけども……」
「……襲われる」
「襲わねーよ!! 俺はそんなクズ男じゃないから!」
「そうぞよ! トールはミーが見込んだ人間ぞよ! だからそんなクズいことしないぞよ! ……たぶん。」
「最後自信無くすのやめてくれないか!?」
途中まで肯定しておいて最後に下げてくるアイチに嘆くが、幸いシュテルンの中での俺への評価はそこまで低くなかったらしく、「……まあさすがにね」と頭を上げる。
「何かあったら殺せばいいし、寝室とか個室なら鍵かければいっか。」
「一番最初物騒すぎね!?」
「なにか?」
「な、なんでもないです……」
ものすごい形相で睨みつけてくるシュテルンに縮こまりつつ、俺は逃げるように部屋のドアノブを握る。
そういえば四人一部屋と言っていた気がする。
となると残りの二人は誰なのだろうか?
まあ人脈も何も一切ない俺には予測もできないのだが、俺とシュテルンの二人で男女一人づつ。
つまり俺たちの他に男と女が一人づついるかんじなのか?
もしかしてもう中にいるのではないか?
そこに先陣を切るのは割と緊張する。
いっそシュテルンかアイチに先に入ってもらおうか。
だが、もうドアノブを握ってしまった以上、一度はなして二人に開けてもらうなどかなり不自然だ。
──ええいままよ!
そうだ、ドアの先は玄関だ。
部屋の間取りなどはわからないが、いきなり鉢合わせすることはないだろう。
俺はゆっくりとドアを開ける。
引き戸のドアを右にスライドし、玄関に一歩入る──。
「──この、ド変態がっ!!」
入った途端、そんな罵声が聞こえた。
見ると玄関には茶髪と金髪の二人の人影、茶髪の方ははうつ伏せで倒れ、金髪の方は腕を前に組んで仁王立ちしている。
「な、なにごと……!?」
「どうしたのよ、さっさと入ってくれないと後続が……」
四人ともそれぞれ目が合う。
みなどのような感想を抱いたのかは分からない。
ただ、俺が抱いた感想は他の誰とも合わないだろうということは確かだ。
なぜならこの場にいる者の中で、男は一人しか居ないということ。
まずシュテルンは女神(元)。
後ろにいるアイチも女。
一人は玄関の一段上がった所にうつ伏せで倒れている茶髪の人は、前髪を肩の下まで伸ばし、髪の色と対色である水色の瞳、整っていてどこか子供っぽさを感じる顔で、典型的な美少女のよう。
そしてもう一人は目の前で腕を組み、どういうわけか茶髪の人に罵声を浴びせていた金髪の人は、肩辺りまで伸ばした金髪と赤い瞳、茶髪の人と同じく整っていてどこか幼さを感じる顔、そして僅かながら胸元に凹凸があるように見受けられる。
そしてどういうわけか、左眼に特徴的な四角形の眼帯をつけている。厨二病か?
つまりだ、この五人の中で唯一俺だけが短髪で背はそこそこ、別にそこまでイケメンでもない面をした男は俺だけということ。
──俺が何をしたって言うんだ……。
心の中でこの人選をした人に対して毒をつく。
人によったらこの面子で同じ屋根の下で暮らすというのは天国にも勝るものかもしれないが、メンタルなり根性なり度胸なりの精神的強さが弱い俺が、こんな環境で静かに平穏に普段通りに暮らせるだろうか? いや無理だ。
不可能でしかない。
──よし速攻変えてもらおう。
俺はそう心の中で言った。
だがこの人選が神による采配であり、一度決まってしまったら学園のトップレベルの人でないと変えられない事など、純粋かつ無知な俺が知る由もない。
結局、これが俺たち五人の最初の面合わせとなり、始まりの一歩であった。
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