2. CSR とサステナビリティの到来
前節で挙げた SDGs、ESG、CSR の用語のうち、CSR (企業の社会的責任) が一番古くから使われている。CSR は企業が事業を執り行う際に、自社の事業が与える社会への影響を考慮することである。その範囲は環境、労働、不正防止と広い。また、現在だけでなく将来の影響や、国際企業であれば自国だけでなく世界的な規模で考える必要がある。
CSR という概念が構築された歴史的背景としては、企業の大規模化 -> 社会問題 (労働、消費者) -> 慈善精神に基づく問題緩和というパターンが見られ、社会からの批判を躱すための隠れ蓑という側面もあったようである。かつては企業は利潤だけ追求していればいいんだ、という考え方もあったようだが、環境や社会という企業が存続していくための前提を無くしては企業活動が続かない。実際に企業による環境破壊が起きて裁判になれば、環境法も出来るし、企業もそれを意識した経営に転換せざるを得ない。また、企業の不正をきっかけに米国で SOX 法が出来て、日本にも金融商品取引法が施行されたときには、内部統制や監査といったガバナンス (企業統治: 法律や道徳に従って事業が行われていること) の重要性が日本企業間に浸透した(*1)。
このあたりまでは企業も法律に押されて CSR を嫌々やっていた感がある。しかし、サステナビリティ (持続可能性) という概念が一般化されて、ビジネスに環境・社会貢献の側面を加えれば、利益を得ながら社会のためにもなるし、自分たちの事業も存続できる、という貢献の先に利益を組み込んだ CSR の考え方が広まった。これによって、企業間には CSR を積極的に行う空気が出てきたように思う。日本の地球温暖化対策推進法の骨子が経団連下の企業委員会で作られたことや、英国のボリス ジョンソン首相の辞任予定のニュースを受けて、首相が交代しても温暖化対策を続けるよう英国企業が政府に陳情したこと(*2) などを見ると、少なくとも国際的に主要な企業にとって CSR は当たり前になってきているようだ。
(もちろん、経団連は政府の要請で企業を招集したんだろうし、英国企業もせっかく続けてきた環境投資に対する政府のバックアップを外されては困るという大人の理由もあるはずだが。)
次回は、CSR を基盤として出来上がったサステナビリティの歴史を見てみる。
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