転生した少女は悪役令嬢として刺激的な人生を送りたい

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は悪役令嬢。


 乙女ゲームの世界に転生した、悪役となる存在よ。


 だからこれから、ゲームのキャラ通りに悪役らしいことをしていきたいわね。


 え?


 どうしてそんな事をするのかって?


 面白いし、刺激的だからに決まってるじゃない。


 だって、普通の人生はつまらないもの。


 私の前世は山もない谷もない人生だったの。


 とてもつまらない人生だったから、いつも刺激的な人生を送っている人を見ては憧れを抱いていたわ。


 いつか叶ったらいいなと思っていたけど。


 人生って無情よね。


 その夢は叶う事がなかったわ。


 私は天寿を全うする事なく、もろもろの事情で死んじゃったのよ。


「平凡だっていいじゃない、なんて私と同じ境遇になってから言ってよね!」とか言ってる人がいるけど、私は「それがどうしたの」と言いたいわ!


 人間はね!


 平凡すぎると、向上心も何もなくなっちゃうのよ!


 なまけものになっちゃうのよ!


 私はそんなぐーたら人間になりたくないの!


 人が人らしく生きるためにも!


 だから、刺激的な人生を求めるわ!


 そのために、悪役の立場をこなしてみせるわ!







 悪役令嬢として生まれた私は、さっそく悪役に必要なスキルを磨くことにしたは。


 小さなことからコツコツと。


 何事も積み重ねが重要だものね!


 とにかくえーっと。


 悪役らしいことをすればいい、のよね?


「らしい事って一体何かしら?」


 偉そうにしたり、お金の力で人を従えたりする事?


 あと我儘を言って、周囲を困らせる事!


 それくらいしか今の所思い浮かばないわね。


 でもいいわ。


 一つ思いついたなら、やってるうちに、思いつくだろうし。


 よーし、さっそくやってみるわよ!







 料理長が困った顔で私を見つめてきた。


「あの、お嬢様~、そういうことをされると困るんですが」


 ふふふっ、困ってる困ってる。


 さっそく悪役力をあげてしまったようね!


 私はお屋敷の厨房で、キャベツをみじん切りにしながら、にやにや。


 前々からやってみたかったのよね。お料理。


 とっても楽しそうなのに、お嬢様だからってみんなやらせてくれないのよ。


 まったく、こんなに楽しい事みんなだけでやるなんてずるい。


「一玉でーきた。もう一個やってみましょ!」

「お嬢様~! 怪我をしたら危ないです! 包丁を握るのはやめてください!」


 前からの夢が一つ、叶ったわ。


 これって立派な我儘よね!


 この調子でどんどん、皆を困らせるような事をして悪役っぽい事をやっていかなくっちゃ。








「あの、こんなにお買い物して大丈夫なのでしょうか」


 次は浪費よ!


 悪役といったらむやみやたらにお金持ちアピールしてるもの。


 だから、どんどんお買い物をするの!


 使用人と共に町へくりだしてショッピング。


 あれもほしい、これもほしい。


「ここにあるものぜーんぶ買うわ!」


 全部買えるなんて素敵ね!


 令嬢という立場だけあって、お金持ちだからまとめ買いだって簡単にできるわ!


 でも、こんなに買っても自分じゃ使わないのよね。


 だからお金持ち気分を満喫したら、他の人達にあげちゃった。


「えーんえーん。バッグが壊れちゃったよ!」


「ああ、子供にあげるはずの玩具が盗まれてしまったわ、どうしましょう!」


「まさか今日あんなものが必要になるなんて! 困ったな、お金がないぞ!」


 片っ端から必要そうな人たちに恵んでやったわ。


 ふふふ、なんてなんてもったいない行為なのかしら!


 これも悪役っぽい!


 また夢を一つ叶えてしまったわね!


 私の人生充実してる!


 買ったはいいけど、すぐに飽きて、すぐに手放す。


 一つは購入したお店の前で、人に恵んでやったわ!


 こんなに気持ちのいい無駄遣いは他にないわね!


 うふふっ、これでけっこう悪女力が高くなったわね。








「うちのパパは偉いのよ!」


 あとは偉ぶる!


 ところかまわずパパの名前を出して威張り散らすわ!


 うふふっ、すごく他力本願で悪役っぽい行動!


 言ってるその人物は何一つすごい事してないのに、他人の功績で胸をはって、偉くなった気分になれるなんて、人って不思議よね。


 知り合いに偉い人がいたら、自分もなんだかすごく思えてくる心理と似たようなものなのかしら。


 私は精いっぱい悪役らしく胸を張って偉ぶるわ!


「だから私の事は、様付けで呼びなさい!」


 社交界で出会った子供達は「すげー」という反応をかえして、私を敬う様になったわ。


 ちょろいわね!


 社交界で出会った大人達も「素晴らしいですね」と褒めてくれるの。


 ちょろすぎるわね!


 同年代の子達?


 ちょっと痛い子を見るような目で見られたわ。


 そこ!


「子供っぽい」とか「阿保っぽい」とか「馬鹿っぽい」とか言わない。 


「聞こえてるわよ! パパに行ってけちょんけちょんにしてもらうんだから!」






 はぁ、かなり刺激的な生活を送ったわね。


 この調子でどんどん悪役ムーブをかましていけば、前世の人生なんてきっとかすんで思い出せなくなるに違いないわ。


 この間から関わるようになったヒロインにだって、上から目線で物をいったり、偉ぶった態度でふりまわしてあげたんだから。


 自分の行いを顧みて反省する?


 そんな事するわけないじゃない。


 つまらない人生がどれだけ苦痛か分かっているの?


 私はもう、あんな人生は二度とごめんなのよ。


 兄も姉も、弟も妹も。


 同じ血が繋がっているとは思えないくらい成功して、充実した人生をおくってて。


 それなのに私だけが凡人。


 兄弟の事を考えるたびに、平凡な人生しか送れない私がみじめじゃない。


 だから今の世界では悪役でもいいから刺激的な人生をおくるのよ。










「とっても個性的な女の子とお友達になってしまったの」


 私は仲の良い男の子に、最近あった事を話していた。


 私は庶民で、本来ならお金持ちの子供達と遊ぶ事はできない身分だ。


 けれど、とある女の子が私を遊びの輪に加えてくれたのだ。


 ちょっと我儘な所があって、思い付きで派手な事をする子だけど。


 根は良い子なんだと思っている。


 このあいだカバンを壊して泣いている子に、買ったばかりのカバンをあげているのを見たし。


 それに、


 パパが偉いと言って偉ぶっている割には、そう言っているだけで、実際にその力をふりかざしている所を見た事がない。


 とらえどころのない不思議な女の子だけど、これからもいい友達でいられるような気がした。


「お金持ちの子供達って、ちょっと我儘な所があるから友達になれないと思ってたけど、きっとこれなら大丈夫ね」






 そういって、ヒロインは笑う。


「これからもずっとお友達でいたいわ」


 悪役令嬢の頑張りと、その本心を知らないままに。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生した少女は悪役令嬢として刺激的な人生を送りたい 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ