明るい道

Γケイジ

第1話明るい道

あの頃から変わらない。

鼻を焼く潮の匂いとうざったいような濃霧。

私と古都、顔も名前も思い出せぬ蓮の花。

牛歩で目の前の奈落へ向かう私の名残惜しいただ一人。

あれ程にも心惹かれていた君の声も香りも忘れた私。

この明るい道を歩く。誰も知らぬ蓮を思う。

僅かに思える夏が過ぎ、渇きの冬。

からりと乾いた心と体が思い出す。

名も知らぬ甘い香りの君を。

たった一度、もう一度君を思う。

忘れかけた声が作られる。

身を委ねた吐き気を催す程の甘い香りが微かに私の鼻を刺激した。

はらりと涙を流したら忘れかけた歩みを始める。

君が作った明るく静かな道を行く。

私は君に明るい道を作れただろうか。

何も知らぬ蓮の花、君だけを恋している。

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明るい道 Γケイジ @13210987

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