第2話

「こんにちは。コスモ商事です。」


甘ったるい鈴の鳴るような声が我がオフィスに響き渡る。たったそれだけで、男性陣が浮足立つのが見て取れる。営業にきたのは、どんな男も虜にしてしまいそうな若い女の子の大島さん。事実、私の元彼を虜にした。結婚するらしいことも耳にしている。


「こちらへどうぞ。」


顔も見たくないけれど、仕事上そういうわけにもいかない。私は目尻を下げる努力と声色を整えて彼女へ対応する。


「本日、新しいカタログを持ってまいりました。」


大島さんはいつも、彼女の先輩である谷口さんと一緒にうちの会社に出向いてくる。谷口さんが居てくれるおかげでなんとか接することができるけど、大島さんとはなんとなくギクシャクしてしまう。


大人になれない自分にも腹立つけど、どうしようもないのだ。だって私は、元彼である圭吾のことを本当に好きだったし、彼と結婚するのは私だと思っていたのだから。


「では、ありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ。」

「失礼します。」


新商品のプレゼンが終えた二人の背中を見送りながら、なんだかやるせない気持ちになる。どうして私じゃないんだろう。


大島さんと比べたら、きっと私の方が仕事はできるだろう。それだけじゃない。管理職ならではの悩みも身に染みている。だから、彼の仕事だってなんだって、仕事上のことは全て理解してあげることができる。


圭吾と付き合っていた時、彼はいつも仕事優先だった。恋人が私だったからこそ、それを理解してあげられたのだと自負している。きっと、私の方が彼の気持ちを分かってあげられるはずなのに。それなのに、圭吾は私を選ばなかった。――どうして?


まるで一人だけ宙に投げ出された気分だ。

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