ラムレーズンは恋の味【カクヨム版】
茂由 茂子
第1章 誰?
第1話
「一生一緒に居たいと思うのは、今もこれからも、大島ともみっていう女性だけなんだ。だから、ごめん。」
もう一度、やり直したいと思っていた元彼から、きっぱりと引導を渡されてしまった。まったく、冗談じゃない。三年前、「今はまだ結婚を考えられないから、別れよう。」と言って私を振った彼は、さっさと運命の相手を見つけてしまったらしい。――私、なんのためにここまで頑張ってきたんだろう。
「岩崎さん、係長宛のお電話なんですけど。」
「あぁ。私に回して。」
本日の係長の予定は、北海道への出張だ。そういうときには、私が係長の代わりとしてチームの仕事を進める。「お電話変わりました。岩崎です」と電話へと出ると、「いつもお世話になっております」と電話の向こうから聞き知った声が返ってきた。
談笑まがいの声色を出しつつ、相手の用件をすべて飲まないのが私の流儀だ。そうでもなきゃ、この荒波の中でやっていくことはできない。係長代理。それが私の肩書きだ。
それ故か、30歳で独身。意図せずとうとう三十路まできてしまった、と感じている。もっと早く結婚するはずだったのに、どうしてまだここに居るのだろうと、モノクロの世界を見渡す。
「岩崎さんって、ほんと仕事もできて美人で、羨ましいです」と言う後輩に限って、私より先にさっさと結婚というステージに進んでいく。世界で一番要領が悪いのは、私なのではないかと本気で思う。
自分の仕事をこなしながら、午後からは来客の対応が入っていた。そのうちの一つで、私が最も会いたくない人物がやってくる。だからお昼ご飯はお気に入りのカレー屋でバターチキンカレーを食べた。自分で自分の心を持ち上げておかないと、落ちるところまで落ちてしまうからだ。
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