051

 午後のディスティニーランド。

 改めてさくらを意識をしてしまった俺は、触れられるたびドキドキしながら彼女に手を引かれていた。


 飛魚みたいに飛び上がって水中に潜って回転するウォータースライダー。

 壁や天井どころか身体から手や顔が生えたりするお化け屋敷。

 香と同じアトラクションをチョイスしているはずなのに、相変わらず未来仕様は驚かされるばかりだ。



【あはは! とっても楽しいです!】



 さくらのテンションは上がったまま。

 本当に楽しそうで、いちど落ちた俺のテンションも無理矢理に引っ張り上げられた。



【楽しめるときに楽しまないと。幸せになるために生まれてきたんだからな】



 そのテンションを鎮めるためにローテンションのつもりで人生論を語る俺。

 現実逃避をしているせいだ。

 というかさくらを意識しているといい加減ヤバいのでこうして別のことを考えっぱなし。

 このまんま一緒にいたら共鳴しちまうよ。



【満足してくれたかい、お姫様】


【むー! お姫様はソフィアさんです!】



 ちょっと不満げに頬を膨らませていても上機嫌なのは変わらず。

 ぐいっと俺の腕に抱きつくさくら。

 この胸を押し付けるのも意識してなのか。

 すっかり恋人ムーヴだ。


 そうしてあちこちを周り、今はあの・・さくらの悲鳴を聞いたベンチにふたりして腰掛けていた。

 そう、ひととおりアトラクションをこなしたのだ。

 あとは例の観覧車だけ。

 もちろんさくらは乗るつもりだろう。


 ふたりでドリンクを購入してひと息ついていた。

 テンションが少し落ち着いたのか、ほう、とさくらが息をついた。



【あの日、武さんは絡まれて困っていたわたしを助けてくれました】


【そっちらへんだったっけな】


【はい。橘先輩にはやりこめられましたけれど、とても嬉しかったのです】



 砂糖マシマシのカフェオレを口にしながら、さくらは空を見上げていた。

 少し傾いた陽が彼女の白い横顔を照らす。

 絹のような美しい肌が西日に輝いていた。



【わたしのディスティニーランドの想い出は、今日、菜の花みたいに明るい色にすることができました。武さん、1日お付き合いいただきありがとうございました】



 お礼のはずなのに独白のようなセリフ。

 彼女の心に刺さっていた何かを抜くことができたということだろう。

 だけれども、これで満足なのか。

 まるで塗り替えてお終いかのような儚さだ。

 シンデレラは時間を使い切ってしまったと思っているのかもしれない。



【ん。俺は引っ張ってもらっただけじゃん。さくらを楽しませられていねぇよ】


【ふふ、武さんが思っている以上に良かったのですから】


【・・・それによ、まだアレに乗ってねぇだろ】



 俺は観覧車を指した。

 さくらは俺の指先を見やるとひと息ついて、少し思い詰めたような表情をした。



【あの。武さん】


【うん? どうしたの?】


【観覧車、ご一緒していただけますか?】


【もちろん。そこまでやって全部、だろ】


【はい・・・その。我儘はこれで最後です。橘先輩と同じことを・・・してほしいのです】


【!】



 言い澱みながらも、さくらはお願いしてきた。

 香と同じことをしてくれ、と。

 香と同じこと・・・。


 どきりとした。

 自分があのとき何か疚しいことをしていたのではないかという変な罪悪感さえ抱いてしまった。


 あのとき。

 3年前、あの観覧車で。

 俺は香に迫られ、彼女と約束をした。

 中学を卒業してから告白の返事をすると。

 そうして我慢してもらう代わりに・・・彼女を抱きしめた。

 キスは・・・しなかった。・・・よな?



【その、さ。香から何をしたかって聞いたの?】


【ええと・・・少しだけ。キスはできなかった、ということくらいです】


【そっか】


【・・・】



 さくらは戸惑っている様子。

 言ってはみたけれど、中で何があったかはわからない。

 わからないからこそ、最後の刺抜きなのかもしれない。


 俺も何だか緊張してきた。

 乗るだけなのに、どうしてこんなに怖さを感じるのか。


 ん? さくらがやたらそわそわしてるな。

 ・・・あ、俺、考え込んで返事してねぇじゃん。



【よし、乗ろう。乗って同じことをしよう】


【! はい!】



 ほっとした様子のさくら。嬉しそうだ。

 うん、悶々とさせてしまうくらいならやってしまったほうがいい。

 15分くらいだし抱きしめるのも問題ないだろう。

 問題があるとしたら・・・それで共鳴しちまわないかが心配なくらい。

 香のときと同じく無心になるんだ。

 難しい話を考え続けるんだぞ、俺!


 とにかく決心をしてエスコートしようとした俺の耳に。

 不穏なやり取りが聞こえてきたのは何の因果なのだろうか。



【なぁお姉さん。そんな暇してんなら遊ぼうぜ】


Was möch何をしたten Sie tun?いのですか


【あ? マブいねぇ。俺、世界語できるんだぜ】



 聞いたことある女性の声でドイツ語とか。

 おいまさか、だよ。



「お嬢さん、一緒しようぜ」


「わたくし、忙しいのです。お断りですわ」


「いいじゃん、俺もつきあってやるって」


「結構でございますわ。間に合っておりますので」



 世界語となって遠くから聞こえるその声。

 急にあらぬ方向に目をやった俺の視線を追うさくら。

 ふたりでその方角で起こっていることを確認した。



【さくら】


【はい、いつでも】



 持っていたドリンクのカップをベンチに置いて。



【お前、右腕な。俺、左腕】


【承知しました】


【いくぞ】



 ぐっとふたりで構えて。

 掛け声もないのによーいどん、と同時に地面を蹴った。



「嫌! いい加減になさい・・・きゃ!?」


「いいじゃな・・・うわ!?」



 ふたりの大学生らしき男性が白人女性に声をかけていた。

 両腕をそれぞれに掴まれて困惑している白人女性。

 俺とさくらは同時に飛び込んで、男性の腕をそれぞれ引きはがす。


 ジーンズのパンツにグレーのシャツ。

 黒っぽい薄手のジャケットを着ている。

 黒いエレガント帽にサングラスで髪や顔を隠れるようにしていた。

 どっかのお忍び俳優かよって格好で目立つな、おい。


 その女性に絡んでいた男性ふたり。

 突然の俺たちの乱入に、たじたじになっていた。

 ナンパはテーマパークでするもんじゃねぇよ!


 俺とさくらはそれぞれ女性の腕を掴んだのちに有無を言わさず走り出す。



「走るぞぉー!!」


「はい!?」


「全速力、いきますよ!」


「え!? ちょっ、ちょっと、お待ちになって!!」



 両腕を抱えられ有無を言わさず走らされる女性。

 勢いで帽子が取れてしまい彼女の綺麗な金髪が露わになる。



「走れ走れ! 噴水広場まで2分くらいだ!」


「あははははは! 走りますよー!」



 前回よりも余裕があるのか、周囲を見渡すことができた。

 俺と同じ動きをしているさくらはこの逃避行をエンターテイメント化している始末。

 引っ張られている彼女は訳も分からずただ脚を動かしていた。

 マラソンで君たちの速さは確認済みだからね、遠慮なく全力だぜ。



 ◇



 噴水のある広場にて。

 ここまで来れば人目もあるので不埒な輩も声をかけたりはできまい。



「あ、あの! 武様、さくら様、ありがとうございます!」



 見つかったことに焦っているのか。

 尾行していたと思われるソフィア嬢はどぎまぎした様子だった。

 サングラスを外してしょんぼりしている。



「ソフィアが無事なら良い。怪我とかないよな?」


「はい、お陰さまで・・・おふたりの邪魔をしてしまい申し訳ございませんでしたわ」



 そう言って思い切り頭を下げるソフィア嬢。

 日本式の謝り方を知っているのか。ちょっとびっくり。

 つーか最敬礼するような内容じゃねぇだろよ。



「ソフィアさん、頭を上げてください。貴女は悪いことをしていません」


「ですが、好奇心でこうしてお邪魔をしてしまったのは事実です。なんとお詫び申し上げればよいか・・・」


「・・・ふふ!」


「はい?」



 本当に申し訳なさそうな雰囲気のソフィア嬢。

 宥めているさくらは笑みを浮かべていた。

 ゆらりと歩み寄ったかと思うと、さくらは彼女を抱きしめた。



「ソフィアさん! ああ、ソフィアさん!!」


「え!? そ、その、さくら様!?」


「ソフィアさん! わたし、わかります!」



 唐突な抱擁に焦るソフィア嬢。

 さくらはそんな彼女を慈しむように両腕に力をいれた。



「気になる方が他の方と逢瀬している。わかります、わかりすぎます!」


「・・・」


「貴女まで苦しみを抱えなくて良いのです」


「さくら様・・・」



 ・・・なんか間に入り込めない雰囲気。

 えっと。これ、俺はどうすりゃいい? どっか行ったほうがいいのか?

 あんときは蚊帳の外に置かれたから、今もきっと外にいたほうが良いんだろう。

 百合っぽいし(何


 さくらの熱い抱擁に驚いていたソフィア嬢もそっとさくらの背中に手を回す。

 噴水前、衆目のあるところで百合カップルの誕生である。

 その尊い光景を邪魔しないよう、俺はそっと傍を離れた。

 何やらあれこれ話をしているようだが耳にするのも野暮というものだろう。


 ・・・そして10分。

 俺は噴水の反対側で様子を見ていた。

 ふたりは落ち着いたのか、揃ってこちらまで来た。



「武さん、お待たせしました」


「改めまして。武様、お邪魔をして申し訳ございません」


「俺は何とも思っちゃいねぇよ。ふたりが納得してんなら構わねぇから」



 さくらもソフィア嬢もすっきりとした顔で微笑んでいた。

 ・・・よくわからねぇけど、ふたりが親密になってくれたんなら好都合だし。

 しっかり互いに攻略してくれ。



「それで、ご相談があります」


「ん? この後、ソフィアをどうするかって?」


「はい、そうなのです。皆で観覧車に乗りませんか?」


「は?」



 ◇



 2210年現在、日本でいちばん大きな観覧車はディスティニーランドのそれだ。

 高さ約150メートル、一周18分。

 ゴンドラ内での飲食やカラオケ、景色や映像の投影など色々なサービスもある。

 でもそんなのは俺にとっては邪道。

 観覧車といえば景色をゆっくり楽しみながら語らうものだろう。



「見てくださいまし! あれは高天原学園ですわ!」


「こちらには富士山も見えますよ!」


「ああ、マウント・フジですわ!! 名に恥じぬ神々しさ!」



 ・・・子供か!

 いや、15歳高校生なんてこんなものかもしれない。

 知的レベルが高すぎて、たまにこいつらの年齢を20歳以上の大人と勘違いしちまうからな。

 こいつらは人生経験のない頭でっかちどもだ。

 はしゃぐソフィア嬢と一緒に楽しんでいるさくらを見ていると、久しぶりにおとうさん気分になった。


 人間、楽しむために生まれたんだからな!

 大いに楽しんでくれたまえ!



「ソフィアさん、良いですか?」


「・・・はい。心構えはできておりますわ」


「?」



 立ってはしゃぎながら、あちらこちらを観ていたふたり。

 さくらの呼びかけにソフィア嬢は俺の対面に腰掛けた。

 さくらは俺の隣へ。

 


「武さん。ソフィアさんの目の前でやりにくいかもしれませんが、お願いしたことを・・・」


「え!? この状況で?」


「はい。見えないからこそ想い悩む苦しみはわたしが味わいましたから。ソフィアさんは見届ける覚悟ができています」


「・・・」



 は? 覚悟とか心構えって問題なのかこれ。

 公開リプレイとか別の嗜好に目覚めそうなやつだし。

 さくらも内容を知らないままよくソフィア嬢を説得したね。


 観覧車は徐々に高度を上げる。

 悩む時間があるわけでもなし。

 ・・・俺も男だ、お願いは聞こう。

 小っ恥ずかしいけど頑張る。



「ん・・・あのとき、香は自分が先輩の1番になれなかった話からした。そこで俺に付き合ってくれ、1番になってくれって言ってきた」



 少し遠い想い出になってしまった3年前。俺は記憶をたどりながら語る。

 ふたりとも俺の言葉に耳を傾けていた。



「そう言ってキスしようと迫ってきた香を押し返して・・・受験があるから今は誰とも付き合えねぇって断った。香は嫌いでなく好きだけど、今はダメだって」


「・・・」


「俺は3年待ってくれんなら返事するって言った。卒業まで待ってくれって」


「・・・」



 既知の事実と思っていたけれど。

 さくらの真剣な表情を見るに初耳のようだ。

 ・・・恋敵ライバルに言いふらすもんでもねぇか。

 あとで香にバラしてごめんって謝らねぇと。



「そんで香は3年待つって言ってくれたんだ。ただ、俺がその間に1番を作らないって約束してくれとも頼まれた」


「・・・」


「その条件ならって、俺と香は約束したんだ」



 あのときの観覧車での約束。

 俺もまさか誤魔化しで結んだものが成就するなんて思っていなかった。

 香はずっとずっと大事にその約束を温めていたのだ。



「それが卒業するまでおふたりがお付き合いされていなかった理由なのですね」


「そうだな」


「・・・橘先輩らしいです」



 横で聞いていたソフィア嬢も頷いていた。

 香がその約束を守り、在学中は気持ちを抑えて俺との距離を保ったことを理解してくれたのだ。

 彼女のことを褒められると俺も嬉しい。


 観覧車はもう少しで天頂付近。

 もうそんなに時間はない。



「そのあとペナルティで香のお願いを聞くって話で、下に着くまで抱きしめてほしいってお願いされたから抱きしめたんだ」



 淡々と事実だけ語る。

 事実だけでも彼女らには刃となるのだ。

 俺の抱いた所感など語るべくもない。



「・・・」



 沈黙が少しの間、続いた。

 約束を同じようにはできないから、ハグをすれば良いかな。

 そう考えさくらをハグをしようとしたところで、さくらが先に口を開いた。



「武さん!」


「うん?」


「同じことを・・・わたしにも同じことを約束させてください」


「え?」



 隣りに座っていたさくらは、身体を俺に向き直した。



「わたしは、貴方をお慕いしています」


「・・・うん」



 何度か聞いた彼女の想い。

 聞くたびにじわりとした嬉しさと、拒絶しないと駄目という両極のプレッシャーがかかる。

 何を言おうとしているのか。



「高天原を卒業するとき、わたしに答えをください。貴方と一緒になれるのかどうかを」


「・・・!!」


「もちろん1番や2番になれれば嬉しいです。でも順番は関係ありません。貴方に・・・わたしは貴方に想っていただきたいのです」


「・・・」



 さくらの顔を見る。

 銀色の睫毛の下、あの銀色の瞳。

 その白銀しろがねの輝きが強い意志を俺に伝えていた。

 その意思を受け取った瞬間、どくんと強く心臓が跳ねた。



「高天原で一緒に強くなるという約束をいただきました。でも・・・わたしは不安です。貴方はわたしの前から何も言わずいなくなってしまうかもしれない!」


「・・・」



 それは・・・南極のときのように、ということか。

 明確な約束がないと俺は断りもなく何処かへ行ってしまうかもしれない。

 ・・・。

 だからこそ彼女は約束がほしい。

 俺がどうであれ、答えをもらえるという約束を。



「今、お答えをいただけないことは承知しています。高天原学園でやることがあると。だから、わたしは3年待ちます」



 さくらは言葉と瞳で訴える。

 俺の言葉を、俺のやることすべてを受け入れるというのか。

 恋敵ライバルが多いこの状況で、3年という長い時間を待つというのか。



「お願いします。貴方との約束をください」



 すでに1番である香の後塵を拝しているのだ。

 それでも、一歩一歩、その道をたどる覚悟まであるという。

 どれほど強い想いを抱けば、これほどの決意を示せるのだろう。


 彼女の熱意に晒された俺の鼓動はずっと早鐘のように跳ねたままだ。

 その純白の想いが俺の心を満たしてしまいそうで。

 落ち着け落ち着けと何度も頭で繰り返していた。


 ・・・高天原を卒業するころ。

 そのときにはきっと「キズナ・システム」の件も解決している。

 ならばさくらに想いは伝えられるはずだ。

 それがどんな答えであったとしても。


 だけど・・・そんなのは理屈でしかない。

 結局は今抱いている感情がすべてだ。

 雪子や香と・・・同じくらい俺は彼女のことを想っている。

 今は伝えることができないその想いを・・・。



「さくら」


「はい」



 俺は隣に座るさくらに身体を寄せた。

 少し驚いた表情をする、彼女の雪のような頬が眩しかった。



「え? あ・・・!?」



 そうして俺はさくらを抱きしめた。

 初めて、彼女を、自分の意思で、自分から。

 出会ってから3年。俺は初めて彼女を抱きしめた。



「約束する。卒業のときに、きっと言うから」


「・・・はい・・・ありがとう、ござぃ・・・」



 その鈴鳴りの声が途切れた。


 きっと俺よりも身体能力が高いさくらの身体。それでも華奢だった。

 夏場で汗をかいたはずなのに甘い花のような匂いがした。

 抱いたその体温に安堵さえ覚えた。

 少しだけ強張っていたその身体から力が抜けていく。

 彼女は俺に身体を預けていた。

 


「う・・・ううっ・・・うっ・・・」



 俺の腕の中、さくらは震えていた。

 左肩に埋めている彼女の顔。

 そこがシャツ越しに熱く濡れていくのを感じた。

 彼女が抱いている気持ちの熱さだ。


 こんな俺にその純粋さを向けてくれる嬉しさ。

 俺をどこまでも受け入れてくれる喜び。

 今の今まで我慢してくれていたことへの感謝。

 先々への不安と焦りなど些末なことだった。



「っ・・・ありがとっ・・・」



 喉の奥を詰まらせながらも自然と出た、俺のその小さな呟きは果たして彼女に届いたのか。

 腕の中の震えにさえ愛おしさを感じる。

 胸がぎゅっと詰まり大声で叫びそうにさえなった。

 さくら、俺は・・・俺は・・・。


 そうして目頭が熱くなってきたとき。

 胸の中心に燻っていた何かが、どくん、と強く弾けた。

 それは全身を駆け抜ける。

 俺の身体がびくんと跳ねた。

 ・・・え!? ちょ、レゾナンス・・・!?


 次の瞬間、その衝撃をかき消すかのように、どおおおおおぉぉぉぉぉん、と地響きのような大きな音がした。

 同時に観覧車がぐらっと揺れた。



「うお!?」


「ひっ!?」


「きゃっ!?」



 相当な揺れだった。

 衝撃でソフィア嬢が俺のほうへ倒れ込んできたくらいに。

 慌てて彼女を受け止める。

 さくらとソフィア嬢のふたりを抱く格好になってしまった。



「っな、なんですの!?」


「!?」



 ちょっと喉の奥が詰まったような声で叫ぶソフィア嬢の言葉に答えるものはなく。

 俺は激しい揺れに流されないよう踏ん張る。

 何かわからないのかと、ただゴンドラの天井と赤くなりはじめた空を交互に見る。

 揺り籠のように揺れる密室で俺たちは恐怖するしかなかった。



「っ・・・!?」


「こ、怖いです!」


「ひぃ!?」



 揺れが収まらない。ふたたび、どおぉぉぉぉぉんと音が響き、揺れが繰り返される。

 状況がわからない中、俺は観覧車そのものが倒壊しないよう祈るばかりだった。




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