038

 少し時間を戻して歓迎会の次の日の話。


 俺は予感していた。

 その日の昼休み、駆け足で向かったのは裏庭。

 貢物あんぱんを確保してから。

 案の定、凛花先輩はそこで昼寝をしていた。



「よう先輩」


「あ~、武か」



 気のない返事。

 舞闘会も終わったから気合も抜けてしまったようだ。



「教室には行かねぇの? ずっとここで寝てたんだろ?」


「あ〜? 教室よりここで寝るほうが気持ち良いだろう」



 いつものやり取り。

 だけれども・・・。



「なぁ先輩。学校、辞めんのか?」


「ん? そうだな、良い考えだろ」



 相変わらず眠そうな先輩。

 何でもないように言うけれど、俺はその返事に少し苛ついた。



「何でだよ。もう堂々と教室に戻れんだろ」


「今更、アタイがデカい顔して戻ってもな」


「・・・」


「それにもともと、そのつもりだったんだよ」



 凛花先輩は空を眺めながら、ひとり言のように口にした。



「約束だったな、課題クリアしたら主席がどうなったか話をするって」


「ああ」


「ま、面白くも何ともない話だよ。終わったことだ」



 そうして先輩は語り始めた。

 それはまるで他人事の様に。


 

 ◇



 ・・・

 ・・・・・・

 先輩の生まれは中国四川省の奥地。

 チベットに近いあたりで標高の高い田舎に住んでいたそうだ。

 小さい頃から心意六合拳しんいりくごうけんという武術を習い農作業を手伝って育った。


 たまたま親戚に世界政府の関係者がいてAR値を測定する機会があった。

 その突出した数値が注目を浴び、親族総出の支援で教育を受けさせられた。

 もちろん彼女が出世をして親族に恩恵をもたらすことを期待して、だ。


 頭も良かった凛花先輩は無事、東亜の最高峰、高天原学園に入学する。

 ところが主席になってしまったが故に舞闘会で屈辱の敗北を受けた。

 その後、クラスメイトたちに嫌厭され誹謗を受け教室に居場所を失ってしまう。

 たまに生徒会からの小間使のような使役もあった。


 期待を背負い希望を抱いて入った学園での、絶望的な生活。

 徐々に頑張る気力も無くなってしまった先輩は裏庭で過ごすようになる。

 そう、授業はすべて自習でこなし、部活は落ちこぼれが集まる闘技部。

 もはや学園で学びを謳歌する状況ではなくなってしまった。



「意味がないから辞めようと思っていたときに、あの澪に声をかけられた」



 裏庭で寝ていたら聖女様がやってきて彼女を修行に誘った。

 辞めるくらいならもっと強くなったらどうだ、と。


 この学園で習得すると期待されるものは具現化リアライズ能力。

 その修行の機会を得られるというのなら断る理由もない。

 その先に待ち受ける苦難の道など知らずに返事ふたつで了承した。


 そうして始まった地獄の特訓。

 あれよあれよと聖女様にアトランティス遠征へ拉致され、ダンジョンに籠もった。

 文字通り死闘を毎日繰り広げ、この学園に生還したのが3か月後。



「あの環境へ放り込むなんて、人間の所業と思えないよ」


「・・・」



 聖女様の無茶振りは良くわかる。


 とにかくそうして舞い戻った先輩は学内でも屈指の実力を身に着けていた。

 もともと高いAR値の素養があったのだ。

 たった数か月で3年生並の実力がついてしまえば、もはや学校に用はない。

 高天原は飛び級などの扱いはしていないので、地元に戻って世界政府に関わる職を探そうと思っていたそうだ。



「ところが澪のやつに釘を刺されてね。誰か後輩を育てろって」



 そう、彼女を育てた恩義として後輩を育てろと託されたのだ。

 義理堅い凛花先輩は断れなかった。

 だから見込みのある下級生が入ってくるまで待った。

 1年と半年。育てる価値のある人を見つけるまで。

 そうして俺と出会い、俺を育てた。僅か2週間だけ。

 それでも俺は期待以上に実力をつけ、とうとう舞闘会で雪辱を晴らしてくれた。

 そうして今に至る、と。

 ・・・・・・

 ・・・



 ◇



 ・・・凛花先輩と打ち合った時に見た光景。

 あれがきっと、凛花先輩と聖女様が約束した場面だったのだろう。 

 どうしてあの光景が見えたのかはわからないけれど。



「君が頑張ってくれたおかげで忌々しい生徒会の増長をぶち壊せた。せいせいしたよ」



 ははははは、と高笑いする凛花先輩の声は透き通っていた。

 どこまでも青空に響いていくようだった。



「そんで、俺を育てたからもう在籍する理由もなくなったと」


「あ~、そうだな」


「俺はあんたにやめて欲しくない。もっと色々教えてほしい」


「なんだなんだ、急に素直になったな」



 先輩は俺を揶揄うように表情を歪ませた。



「先輩、ここでずっとひとりだったんだろ? まだあと1年あるじゃねぇか」


「君は学ぶことがない学校生活に耐えられるかい?」


「う・・・」


「ははは! 悪い、言い方が良くなかったな。ま、辞めるのも良いと思ったって話だ」


「良いと思った?」



 俺が問い直すと凛花先輩はにやりとしながら頷いた。



「そう。もう高天原に未練はないと思っていた」



 先輩は跳ね起きた。

 寝そべった姿勢から華麗に飛び上がって着地する。

 身軽な人だ。



「だけど用事ができたんだよ」


「用事?」



 先輩は少し伸びをして、それから俺の前まで歩いてきた。

 こうして正面から話すために向き合うのは久しぶりな気がする。

 短いぼさぼさした黒髪、二重瞼から覗くのは眠そうな褐色の瞳。

 ちょっと日焼けした雰囲気の肌の色は、きっと昔から農作業をしていたせいだろう。

 顔つきは整っているんだけれども、やる気のなさそうな雰囲気が残念系女子に見せている。

 制服も相変わらず着崩しているのはいつでも辞めてやるという反骨精神を示しているのか。



「ああ、知りたい?」


「・・・」



 何だかまた俺を試すような雰囲気だ。

 って、なんでそんな顔を近付けてんの。

 ちょっとだけ身体を引いて避けた。

 ・・・つもりになっていたら凛花先輩は素早く俺の唇に口づけをした。

 ふわりとフローラルな匂いが鼻孔をつく。



「えっ!? はっ!?」


「はははは! 何を慌ててんだよ」



 唐突すぎて飛び上がり、3歩後ずさる俺。

 え!?!?

 どういうこと!?

 いきなりすぎて心臓がばくばくいってる。



「アタイの用事は君だよ、京極 武」


「え!? ちょ、ちょっと待って!?」



 また近寄ってきて指先で俺の胸を突いて宣言する凛花先輩。

 目を細めてにやついている。

 俺、大混乱!

 いや、だって、あれがああなってこれがこうなって・・・。

 これまでそんな空気、一切なかったのに!

 正直、主人公連中に手一杯で凛花先輩をそういう意味で意識したことがなかったよ!

 訓練中にいちどだけあったけどさ、あれは事故みたいなもんで。



「いやぁ、いざ辞めようと思ったら君の顔が浮かんでね。考えたらこれって、ね」


「・・・」



 うん。

 なんか予想外すぎて俺にはもう何がなんだか・・・。


 ・・・ん?

 よくよく考えたら凛花先輩、ここで脱落してたから本編ゲームに出てこなかったんじゃね?

 負けヒロインを救っちゃいましたってやつ? 違う物語ゲームだから!



「そんなわけで君を1番にしてから帰ろうかと思う」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はもう1番がいる」


「あ? アタイが1番に成り代わるに決まってる。君の魔力に見合うやつは多くないだろ?」



 ドヤ顔で言い渡される。

 そういう強引なところ、素敵だと思ってたよ!

 けど、こと、この状況になったらすんげぇ厄介だよ!!



「なぁ先輩、腹減ってねぇか?」


「ああ、昼だからな」


「これやるよ」


「お、わかってるじゃないか」



 話をすり替えて貢物あんぱんを手渡す俺。

 嬉しそうに頬張るのを確認したところで。



「じゃ、俺、用事があるから!」



 隙をついてダッシュ!

 ごめん先輩!

 俺は大急ぎで裏庭を後にする。

 長い廊下を駆け、教室が近いところまで辿り着く。

 ここまで来ればもう大丈夫だろう。



「はぁ、はぁ・・・仕方ねぇか、闘技部も卒業かな」



 廊下を振り返って誰もいないことを確認して。

 手を膝について一息つく。



「ま、闘技部はもう少し続けておけ。君はもうちょっと魔力操作をマスターしたほうがいい」


「はぇっ!?」



 ぼやいた俺の隣に凛花先輩。

 ああね、そりゃ先輩の速度で来れば一瞬だよね!



「はははは! 逃げ足はまだまだだね」


「えええ!? ちょっと先輩。冗談きついぜ?」


「あ~? アタイはいつでも本気だぞ」



 俺と肩を組むように腕を回して。

 ははははは! とまた高笑いをする凛花先輩。

 こうして俺は自ら厄介事を増やしてしまったのだった。



 ◇



 また少し時間を戻して、凛花先輩に面会する前の当日の朝の話を。

 長くなってしまうので例によりダイジェストで。



 ◇



 歓迎会翌朝、生徒会から談話が発表された。

 これまで騙し討ちのように下級生を誓約の宝珠で従えていた事実が公表された。

 その主たる被害者となる主席への、生徒会による正式な謝罪が行われるという。

 併せて、その被害者たちへの誹謗中傷の禁止も改めて言い渡された。

 また現2年生たちが束縛され新1年生を従えられなかったことについても別途、謝罪や補償があるという。

 それからこの宣誓の儀でどうして命令権を確保していたのかもそこで説明がなされた。


 高天原学園は世界政府から戦える人材を育成することを強く期待されている。

 そのための出資や優遇措置も受けているそうな。

 この学園の施設はその期待の裏返しであるから意識をせよと。

 ところが世界戦線よりも政府自体を進路に選ぶ、いわゆる官僚志望が増加してしまった。

 高天原の生徒は優秀がゆえにホワイトカラーでも十分に実力を発揮してしまうのだ。


 全人類の中で1割に満たないAR値30超の戦える才能がある者たちが文官志望では困る。

 自身の力を自覚させるため、学園全体でより実践的な軍隊式の訓練を導入していった。

 だけれども急に厳しくなれば生徒たちは当然に反発する。

 授業ではない部活動は強制が及ばないので、殊更、教師陣は生徒たちの統制に苦労した。


 そんな情勢の中、その年はちょうど当たり年で優秀な3年生たちが多かった。

 彼らがアトランティス遠征で持ち帰ったアーティファクトの中に誓約の宝珠がみつかる。

 学園の方針に理解を示し後輩のやる気のなさに嘆いていた3年生たちはこれ幸いと、誓約の宝珠を使ったという。

 目論見は成功し、下級生たちは不満を抱えながらも見事に成長したそうな。

 それから代々、生徒会の管理下に置いて下級生が部活動の辛い訓練から逃避しないための道具として行使することになった。

 その結果、高天原学園は優秀な生徒を輩出する学校としてより認知されていったそうな。


 ・・・つまり必要悪だったってこと!?

 それならそれで事前に説明しろよ! と思ったけど後の祭り。

 俺たちがその秩序をぶっ壊してしまった。


 アレクサンドラ生徒会長により、

 「もとより高天原学園内の序列は強さを以て示すものである」

 「現時点より他の従属を求めるものは相応の強さを示せ」

 「強者と切磋琢磨することがこの学園に通う意義である」

 「誓約を打ち破る実力を示した1年生に倣え」

 と締めくくられた。


 え・・・俺たちが何を示すって?

 結局、道具になるんじゃねぇかよ! ふざけんな!!


 ちなみにアルバート先輩は弱い下級生は当然に上級生に従えとの偏屈思想に染まっていた。

 だから下級生が逆らうことは秩序を乱すとして許せず、あらゆる手段で封じにかかったと。

 その手段があまりに酷かったので、副会長を降格させられ下級生への奉仕役となった。

 やらかしたことへのお灸だから仕方ねぇけども、今後の針筵を考えると可哀そうな気もした。



 ◇



 同日、具現化授業で聖堂を訪れた。

 聖女様にお礼を、と思っていたら

 「どうして私が怪我人救助をしなきゃならなかったの!」

 と無表情でお怒りだった。


 あの舞闘会の後、宝珠の力で無効化しきれない傷を皆が治療してもらったんだけど・・・その光景はご想像通り。

 聖堂と高天原学園は政治的圧力で表立って協力していないから彼女の訪問は非公式のものだった。

 ちなみに彼女が来たのはリアム君の要請。

 聖女様も呼び出されれば人命が関わるので断れない。

 俺が危ないって説得して連れて来てくれたらしい。

 でも学校や生徒会からの要請はなかった。

 俺以外の者たちを治療するのは筋が通っていないので怒っている、というのが現状だ。


 だからって俺に畏怖フィアーをして腹いせするのやめて。

 必死で祝福ブレス抵抗レジストしたけれど、聖女様に敵うわけもなく。

 「今日の訓練はこれでいいわ」

 って、ずっと祝福で抵抗をする羽目になった。

 聖女様、Mじゃねぇの? Sなの?

 その方面の両刀って聞いたことねぇんだけど!


 聖女様を怒らせては駄目だと心に刻んだ。

 畏怖、こわい。


 

 ◇



 放課後、舞台上で乱闘した俺たち5人が生徒会に呼び出された。

 ああね、誓約の宝珠に自由を捧げちまったからね、生徒会長には逆らえねぇんだよ!

 アレクサンドラ会長はにやついて説明もなしに、

 「京極 武、レオン=アインホルン、九条 さくら、ソフィア=クロフォード、玄鉄 結弦。君たちを生徒会所属とする。生徒会は強者を歓迎する」

 と言い出しやがりまして。

 部活と兼業できるとはいえ、まさか敵対した生徒会に所属とは。

 ラリクエの中で生徒会に入るイベントなんてねぇんだよ!

 誰だ! ストーリーをどんどん崩壊させてる奴は!?

 俺だったよ!!!


 これも宝珠の力のおかげで当然に逆らえず。

 文句を言おうとしたら

 「なに、3年生になって生徒会長になれば自然と解放される」

 とか適当な言葉で誤魔化されて終わった。

 誰が生徒会長なんてやるかよ!!


 素直に生徒会活動をしていれば命令権は行使しない、という会長の言葉を添えてくれちゃって。

 くそっ、どうして運営側に回ってんだよ!

 ただでさえイベント管理できてねぇのに!


 「俺たちの実力が認められたということではないか」

 「これでもっと強くなるための機会が増えますね」

 「わたくしの華麗さをより示すことができますわ」

 「学園生活に添える華と思って楽しみましょう」


 お前ら前向きすぎ!! 絶対、こき使われるんだって!!

 あの玉、隙を見て絶対にぶっ壊してやる!!

 俺はそう誓ったのだった。



 ◇



 その週の土曜日。

 世界政府の監視官から面接の要請があったので食堂で面会していた。

 監視官のお姉さんは相変わらず怪しかった。



「なるほど丹撃ですか。実例の映像がないので後で見せていただけますか」


「はぁ」



 眉が吊り上がったので驚いているのか訝しんでいるのか。

 サングラス越しに見える表情はよくわからない。



「それから聖堂に所属されたとのことですが、具現化リアライズは使えますか?」


祝福ブレスは使えるようになりました」


「白魔法の初歩ですね、なるほど」



 このお姉さんに色々と詮索されているのは俺のAR値が92と特殊だから。

 数値はギネス級らしい。よくわからんけど。

 

 世界政府の監視官。

 対魔物戦線、いわゆる世界戦線に役立つ能力を持つ者を追跡・観察するのが仕事。

 俺が南極で魔王の霧を浴びて生還してから彼女が俺を監視するようになった。

 監視といってもこうしてたまに会って状況を説明する程度だ。

 会うのは4度目なんだけど、いつも突然にPEへ連絡が来るものだから予測できない。



「入学2週間でこれだけのことを習得されたのですね。素晴らしい」


「その後、反動でこの1週間ばかしサボってますが」


「十分、お釣りが来るでしょう」



 お姉さんはうんうんと頷いている。

 PEで色々と記録している様子。


 あの黒スーツと黒サングラス。

 どうして露骨に怪しいですって雰囲気が出るものを選んでいるのだろう。

 もっと自然にすれば目立たないのに。



「では丹撃を拝見しましょう。学園の許可は取ってあります、どこかわかりやすいところで」


「じゃあ闘技部のフィールドに行きましょう。岩があるので見た目がわかりやすいです」



 土曜日の午後なので部活動はない・・・はず。

 俺はお姉さんを引き連れて武器棟へ向かった。


 ところで、どうして俺がこの監視官に素直に従っているのかというと。

 南極から瀕死で帰った時、病院や聖女様を手配したのが世界政府だったらしい。

 どういう人脈でそこに辿り着いたのかは知らないけれど、とにかく俺を助けた組織なのだ。

 だから天邪鬼精神を発揮して逆らったりせず大人しく従っている。

 巨大な組織の監視下に置かれるって気分は良くないのだけど。



「ここです」



 俺は闘技部の扉を開けた。

 すると俺とお姉さんの目の前をウィリアム先輩が吹き飛んで行った。

 声も出せず呆然とするお姉さん。



「凛花先輩。駄目だろ、扉に向かって吹き飛ばしたら」


「悪い悪い。良い角度だったんでつい」



 吹き飛んだウィリアム先輩を引っ掴んで、凛花先輩は中へ戻って行った。

 いつもの竜巻が俺とお姉さんの間を駆け抜ける。



「えっ・・・あの・・・」


「日常的な練習風景です。あっちでやりましょう」



 そうだよな、普通、お姉さんのような反応になるよな。

 俺もすっかり毒されてしまった。

 ああ一般人だった俺、さようなら。



「ここで良いですね」



 凛花先輩の邪魔をしちゃ悪いと、フィールドの端にあった岩を選ぶ。

 ずごん、ばしんと工事現場のような音が鳴るたびにお姉さんがびくっとする。

 破片が当たらない位置にお姉さんに立ってもらって俺は丹撃の準備をする。



「あ~、なにしてんの?」



 向こうの対戦が終わったのか凛花先輩がやって来た。



「え? この人が丹撃を記録に取りたいって」


「は~、落ちこぼれの闘技部の技をねぇ。よし武、どうせなら派手に見せてあげようか」


「ああ、打ち合い? 手伝ってくれんなら頼むよ先輩」


「よし任せろ」



 俺と凛花先輩は向き合う。

 ふたりで錬気をして丹田に魔力を貯める。

 エメラルドと真珠の輝きがあたりに集まってくる。


 ちらっと監視官のお姉さんを見ると、俺たちの様子にハラハラとしていた。

 ただの練習風景なのに何か良からぬことが起こるとでも思っているのだろうか。



「オー、おねさん、もっと離れないと危ないヨ」


「え?」


「いくぜ先輩! サンアーイー・・・」


「よし来い」


「え? え?」



 お姉さんはPEのカメラをこちらに向けながら焦っていた。

 あ、そこらへん、打ち合いだとちょっと衝撃が強いかも。

 でも俺も凛花先輩は止まれない。



リン!!!」


 バリバリバリバリ!!!

 弾ける魔力衝突の衝撃波。


「きゃああああぁぁぁぁぁ!!!」



 お姉さんはその後、闘技部の技を記録したいとは言わなくなった。

 そんなに怖かったの? これ?





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