一つの終焉~ヒトツノシュウエン~

(――やはり、こうなったか。

初めからRON上層部の考えは甘かったのだ――。

大切な五大竜神まで失っては、閣下も失脚せざるおえないだろう――)


特殊戦略部隊”龍牙刃”の隊長・戦略級テレポーター”ウー 奕辰イーチェン”は混乱する部隊員を指揮しつつそう一人心の中で考える。

結局、今回の作戦は再び首相に返り咲いた”鹿嶋 蓮司”に対する危機感から、”閣下”がRON上層部の命令なしに独断で行った行為である。

だからこそ、”赤き血潮の輪の結社”などという、RONとしては本来相容れないテロリストと行動を共にしているのだ。


(閣下は――かつて、父親を”鹿嶋 総司”――、かの男の父の企みによって殺されている――。

しかし、それがここまでの暴走を招くとは――、

結局我々も政府の犬に過ぎない――、行けと言われれば行くしかないとはいえ――)


日本の超能力者戦闘組織をあまりに甘く見すぎていた。

それは、軍事的にあまりに強すぎる現在のRONの唯一の弱点ともいえる。


(――超能力による戦略的予測で、我々の侵攻は初めから予測されていた。

だったら、それをもそれを考慮に入れたうえで、戦術を組む必要があったのだ。

――それを、RON上層部は怠った――、当然の敗北だな)


”吴 奕辰”は、初めから今回の作戦は成功しないであろうと予測を立てていた。

それでも、少しの可能性があるならRONの命令に背くわけにはいかなかった。

しかし、状況は日本側に傾きつつある。

彼は、あらかじめの予測をもとに次の行動を選択した。


「皆!! 撤退の準備をしろ!!!

これ以上の犠牲を出すわけにはいかん!!!」


「隊長? まだ我々はそれほど損害を受けては――」


「別動隊の五大竜神が敗北している――、この状況では我々に勝利の目はない」


隊長である”吴 奕辰”にとっての、現在の使命は部隊の損害を最小限にして故郷に帰還することである。

損害の少ないうちに帰還するのだ、もしかしたら自分は指揮官として真面目に侵攻作戦を行わなかったとして、RON上層部に断罪されるかもしれない。

しかし、自分にとっては断罪されてもなお守りたい部下たちなのだ。命など惜しくはない――。


(すまんな――、俺はここまでかもしれん)


故郷の家で帰りを待つ家族に謝罪する。

作戦が失敗した以上、その責任を自分はとらなくてはならない。


(RONも――、

このままこんなことを続ければ、終わりが近づくという事を自覚しなければならない――。

――いや、今のエゴが肥大化しすぎたRONでは、自分を顧みることは無理か――)


”吴 奕辰”は高潔な根っからの軍人である。

だからこそ、こんな無茶な命令すら、RON上層部からの命令として従わざるおえなかった。

そんな自分を彼は顧みる。


(――本当に私はどうしようもない。

結局、RONに従う事しかできず――)


”吴 奕辰”はため息をつきつつ、周囲に集まってきた生き残りの全隊員を認識する。

そして――、


「逃げるか!!!」


日本の超能力者の一人がそう叫ぶ。それを無視して、彼は自身の超能力”戦略テレポーテーション”を発動した。

彼のテレポーテーションは複数の認識した味方を巻き込むことができる、さらにその最大重量・人数には制限はなくさらにはあらかじめ固定した場所へ距離に関係なく転移することが可能であった。

まだ帰還していない味方隊員は存在している。しかし、それらを待てばこちらは全滅必至だろう。

だから彼は決断したのだ――。


(RONは今回の作戦をなかったことにするだろう――。

閣下の暴走――、テロリストの思想に毒された官僚の独断として処理するはずだ。

日本がどんなことを言ってきたとしても――)


おそらくそれは確定事項――。そのための生贄に自分も選ばれることだろう。

”吴 奕辰”は家族の顔を思い浮かべながら、ただ深いため息をついたのである。



◆◇◆



西暦2092年5月28日――。

日本政府は正式にRONに対して、国会議事堂で展開されたRONによる首相暗殺作戦を非難した。

しかし、RONはその作戦に軍本部は関与していない――、一部の”赤き血潮の輪の結社”に毒された官僚による暴走として非難を一蹴した。

無論、そんなでたらめを他の国は許すはずもなく、多くの国が非難を表明したが――。

現在、世界最強を誇るRONにとってはどうでもいい些細なことに過ぎなかった。


――そして、とうの”赤き血潮の輪の結社”はなぜか沈黙を貫いていた。

それは、裏で動いていた”十河 遥”にも言えることで――。

その日以来、”十河 遥”は歴史の表舞台から姿を消す。

”十絶旺陣”によるテロはそれ以降見られなくなり、ある日を境に”十絶旺陣”が解散したという噂が実しやかに流れることになる。



◆◇◆



「トシ――、それで結局”大西陸将”は――」


「うん――、とりあえずは”桜華”とのつながりは見られなかったよ」


「そう――」


桃華は大隊長室の”大隊長席”に腰掛けながら不満そうにつぶやく。

藤原はそんな桃華を眺めつつ、自分が調べた全てを桃華に語って聞かせる。


「結局――彼がやったのは”青嶋あおしま 湊音みなと”を使ってマニス共和国の極秘実験を世間に公表しただけだ。

彼が湊音を使ったのも極秘実験に関する鼻が利くから程度のことのようだ」


「でも、どこからか”青嶋 湊音”を連れてきて、彼に紹介した人が要るよね?」


「そうなんだ――、陸将は、匿名希望の人物で相手の素性は知らないと言っている。

見た感じソレに関してうそを言っている様子はない」


「――でも、陸将にたいして直接連絡を取って来たなら」


「うん、国防軍の関係者だろうね――」


桃華は大隊長席に背を預けつつため息をつく。


「いまだ真相は闇の中――、桜華を――”サクラ”を暴走させた黒幕はわからずじまい」


「その桜華も――、先の作戦で目撃されて以来、その目撃情報も途切れてしまった」


「”赤き血潮の輪の結社”――、一昔前まではむやみにテロを起こしてたイメージだけど――」

最近は何か統率が取れて――、何かの目標に向かって行動している節すら見えるね」


桃華の言葉に藤原は頷く。


「何か嵐の前の静けさって感じだ――、

モモもしかしたら――」


その藤原の言葉に桃華は真剣な表情になる。


「うん、何か大きなことが起こる予兆かもしれないね――、そしてその時が”サクラ”と決着をつけるときかも」


「――大丈夫だよモモ。そのために俺はあらゆる手段で準備している。

モモへのプレゼントも用意しているしね――」


その藤原の言葉に、大隊長室の机の上に広がっている資料を眺める。

そこには闇の中からとられてよく全体像の分からないTRAの写真と、TRAの仕様書の束が置かれていた。


(――サクラ。

あたしはもう二度と負けない。

貴方をこの機体で”越えて”見せる――)


――こうして、一つの争いは終焉し、さらなる争いの火蓋は切って落とされるのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る