第44話 レゾリューション

「私は……」


 下界の政府に反旗を翻し、上界での黒幕の匂いを漂わせた妹を救わんとする『スノウ・トウティ』として戦う道を選ぶか、現実世界で不自由を感じず、女優としての道を進み続けている『冬帝ふゆみかど ゆき』として現実世界に帰る方法を探すか。




 私は、この物語の行く末を見届けたい。サルとブリッツ、そしてスノウとフラムとの戦いの、描かれていないその先が見たかった。


「私はスノウ・トウティ、妹を探すためにここに居る元狩人」


 その言葉を聞いたフラムは、大変嬉しそうな緩んだ顔を見せて私に近づく。


「そうだスノウ! 良かった、本当に良かった!」


 と言っても、私は人と争った事なんか無い。母と父、そして妹のいるごく一般的な家庭で育ち、小学校、中学校、高校と、特に大きな争いや揉め事など無かった。


「そうだ嬢ちゃん、さっき最初に使っちまったが、修理したパンドラボックスだ。ついでに改良と耐久性の向上、追加要素もあるから、試作品じゃなくて『正規品 パンドラボックス』だな!」

 サルは私に黒いビジネスバッグを渡す。

 

 私はそれを受け取ると、確かに感じる重みとスノウの凄さが伝わってきた。


「パンドラボックス!」


 私は幾度と見てきたスノウの武器の展開を真似た。パンドラボックスを振るい、ランダムに形成される武器にワクワクが止まらなかった。


 ガチャガチャ―――


「これが本物の……」


 形成された武器種は、私が密かに憧れ、ずっと振るいたいと恋焦がれていた物だった。


「スノウの1発目はガンブレードだな」


 第2話『パンドラボックス』にて、1番最初の戦闘シーン、1番最初のパンドラボックスで出てきたロマン溢れる武器、ガンブレード。サーベルに銃口と銃身を付属させ、グリップ付近に6連装シリンダーとトリガーを備えた遠近両用の剣。

 トリガーを弾いて刀身を高熱状態へと変えれば、鋼鉄すら果物のように切断する。その状態でもう一度トリガーを弾けば、圧倒的破壊力の爆発を起こして対象を粉々にする。


「嬢ちゃんの氷の魔法を見た時に閃いたんだが、弾丸を氷の魔法で作った物にすれば、状況に応じた効果を発揮できるよう改良しといた」


 私は剣の振り方すら分からないのに、現実世界に無い魔法の使い方なんてもっと分からなかった。


「私に出来るかどうか……」

 

 そう思考をめぐらせた時、私は思い出した。魔法の使い方なんて知らないのはスノウも同じだった。元々魔法を使えなかった彼女は彼女なりに模索し、感情の昂りと実力で『霊装 スノウホワイト』も使えるようになっていた。


「どうしたんだよ、スノウらしくないじゃん」


 フラムは私の顔を覗く。確かに、スノウはこんな弱気な事は言わない。妹を探すという明確な目的と、その為に政府や神に抗う覚悟を持って戦っていた。


「悪い、忘れてくれ」


 私もスノウとしてこの世界を見て聞いて感じると決めたからには、演者のプロとして、物語の一読者として、冬帝ふゆみかど ゆきとして、完璧にスノウを演じきってみせる。


 目的と覚悟を持ち、私は自らの運命を受け入れた。

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